あれから凜とは会っていない。私は同窓会にも出ていないし、彼女のその後は知らない。博人が聞いた噂によると、凜は地元でも有数の大企業の社長夫人だとか。すっかり社交界で幅を利かせるポジションにいるらしい。
「凜も過去のことは封印して生きてる。だから梢恵も過去は封印して生きていったらどうだ?」
「し、知ってたの?」
「さあ。俺は知らないよ。分厚い封筒を凜から受け取ってた地味な子を見かけたことはあるけど、それ以上は知らない。仮にそうであったとしても、その地味な子にも事情はあったと思うから。だから俺は気にしない」
「でも好きでもない人に抱かれて、そんな女の子を……」
「んなこと言ったら、俺だって童貞喪失の相手は好きでもないバイト先のお姉さんだったし? 俺だって遊んでた時期はあった。それとどう違うんだ?」
消しゴムでは消せない過去。それを含めた自分なんじゃないか……? 消しゴムはんこは消すためのものじゃない。身を削り、それを押して新たにカタチをみせるものだ。長方体からいびつになった体をそのまま刻印する。
「結婚しよう、梢恵。ほら早く実家に電話しろよ」
『ほうら、できたよ』
よみがえるのは母の声。
『違う! こんなんじゃない!』
声を荒げた私に驚いた顔をして、その直後、さみしそうな表情になった母。
『ごめんね梢恵』
「凜も過去のことは封印して生きてる。だから梢恵も過去は封印して生きていったらどうだ?」
「し、知ってたの?」
「さあ。俺は知らないよ。分厚い封筒を凜から受け取ってた地味な子を見かけたことはあるけど、それ以上は知らない。仮にそうであったとしても、その地味な子にも事情はあったと思うから。だから俺は気にしない」
「でも好きでもない人に抱かれて、そんな女の子を……」
「んなこと言ったら、俺だって童貞喪失の相手は好きでもないバイト先のお姉さんだったし? 俺だって遊んでた時期はあった。それとどう違うんだ?」
消しゴムでは消せない過去。それを含めた自分なんじゃないか……? 消しゴムはんこは消すためのものじゃない。身を削り、それを押して新たにカタチをみせるものだ。長方体からいびつになった体をそのまま刻印する。
「結婚しよう、梢恵。ほら早く実家に電話しろよ」
『ほうら、できたよ』
よみがえるのは母の声。
『違う! こんなんじゃない!』
声を荒げた私に驚いた顔をして、その直後、さみしそうな表情になった母。
『ごめんね梢恵』