口のなかに最初に広がったのはチョコの甘さ。ホワイトチョコの優しい甘さ。そこにドーナツのサクサクした生地が混ざり込む。ドーナツってこんなにおいしかったっけ、まるでケーキみたいだった。そして次にやってきたのは醤油のしょっぱさと香ばしさだった。歯ごたえのあるかんぴょうがアクセントになる。
ああ、これ、すごい。こんな組み合わせもありなんだ。目から鱗っていうけど、ぼくは本当に驚いた。かんぴょうなんてのり巻きにしか使わないって思ってたから。
「……おいしい。すごくおいしい!」
「だろ?」
「お、おにいさんすごい」
「ほら、全部食えよ。食いかけじゃ商品にならないし」
「いいの? ありがとう」
袋ごと差し出された残りを受け取ってぼくはかぶりついた。はちみつピザを知ったときもそうだった。絶対に合わないと思っていたものが意外と合って、想像以上においしい。いろんな組み合わせを否定しちゃいけないんだ。
もぐもぐと口を動かしながら、そんなことを考えた。かんぴょうだからとお寿司の世界に閉じ込めていてはいけない。かんぴょうだからのり巻きしかないと決めつけちゃいけない。
「で、願いが叶うドーナツって、君は何か願いを叶えたかったのか?」
「うん。ぼ、ぼく、つっかえちゃうんだ。な、なのに、ぼく、劇の主人公にされちゃって、そ、その……」
「ふうん。でも、最初にあの看板の文字を読んだときはつっかえてなかったじゃんか」
「そ、そうだった?」
「ああ。だからきっと決まった文章のときにはつっかえないで読めるタイプなんじゃないの? しゃべるときは緊張してつい、どもっちゃう人っているじゃん? そういうひとこそ逆に文章に心が入ると思うんだけど」
「そう?」