ドーナツにかんぴょうなんてあんまりな組み合わせだ。すべて違った組み合わせにするのに無理してかんぴょうを取り入れたに違いない。そこまでしていろんなものを並べる必要があるんだろうか。売れそうないちごチョコをいくつもおいたほうがよっぽど効率的だとこどものぼくですら考えつくのに。


「ど、どうして、かんぴょう煮なんか、い、いれたの?」
「そりゃ、おいしいからに決まってるでしょ」
「お、おいしいの?」
「いちごのほうが人気があるかもしれない。いちごばかりを並べてお客さんの意識をいちごに集めてしまうのも一つの手だろう。でもそれじゃドーナツの可能性をつぶしてしまうんだと思うんだよね。ドーナツにあうのはいちごだけ、ってことじゃない。オレンジもレモンも梅も桃も、合う。キャラメルも塩も砂糖も味噌も醤油も合うんだ。その素敵な組み合わせを知らないって損だと思う。それをみんなに知ってほしいんだよ」
「まあ、うん……」
「人間だってそうじゃないか? クラスにはいろんな子がいる。いろんな子がいて、知り合って、何かを一緒に成し遂げて、いろんな子がいていい、って思えるんじゃないかな? ほら」


おにいさんはそう言って、かんぴょう煮のドーナツを袋から取り出した。それを手でちぎり、ぼくに差し出した。ぼくは指でつまんでそれを見つめた。ドーナツとチョコの甘い匂いのなかにほんのり醤油の匂いが混じる。本当においしいんだろうか……えいっ。ぼくは一思いに口に放り込んだ。