コルボー商会の馬車は王都を出て2時間ほど走り、ようやくシモンが『研修』を受ける目的地へ着いた。
シモンとバスチアンが馬車を降りると、不気味なうっそうとした森が目の前に広がっていた。
周囲は王都並みの高い石壁で囲まれている。
目の前には鉄製の巨大な門があり、固く閉ざされていた。
どうやら普通の森ではないらしい。
何故なら敷地の中より、獣の声に交じって、不気味な魔物の咆哮も聞こえて来るからだ……
「こ、ここは……」
「おう! 以前は地獄の森と呼ばれていた場所だ」
「じ、地獄の森って……ううう、縁起でもない」
「ははははは、びびんじゃねぇ! ウチが王国から払い下げて貰った総合訓練場よぉ」
「地獄の森……総合訓練場……」
「おう! 数年前まで騎士隊や王国軍が魔物の討伐訓練に使っていた森だ」
「と、討伐訓練?」
「ははははは! 生きたまま捕獲して放ってある人喰いのゴブリン、オーク、オーガがうじゃうじゃ出るぜ」
「ひ、人喰い!? ゴブリン、オークにオーガぁぁ!? ひいいいいいっっ!!」
「ごら、シモン!! 情けねぇ悲鳴ばかりあげるんじゃねぇ! おめぇ、男だろが!」
「お、お、男とか、関係ないですよぉ……そ、それに俺、戦闘向きじゃないです。ほ、ほ、本来は、ま、魔法鑑定士なんですよ……」
「うっせぇ! ガタガタ言うな! お前はその魔法鑑定士のスキルを活かして、配属されるんだからよ」
商品の品定めをする魔法鑑定士が何故、戦闘訓練を?
疑問に思ったシモンは、バスチアンへ尋ねる。
「活かして? は、配属って……俺のする仕事は鑑定だけじゃないんですか? こんな人喰いの魔物が出るような森で命がけの訓練、ひ、必要ないのでは?」
しかし、バスチアンはニヤリと笑い、きっぱりと言い放つ。
「ふっ、何言ってる? これから就くお前の仕事はまず体力、そして武技、攻防の魔法、更に探索スキルも必須だ」
「え? ぶ、武技に攻防の魔法? た、探索スキル?」
「おうよ! 当然魔法鑑定士の技能と学生時代に培った深い商品知識も最大限、活かして貰うぞ」
「は? ど、ど、ど、どういう意味ですか?」
「どうもこうもない! シモン、お前の仕事はトレジャーハント。配属先はコルボー商会営業部探索営業課だ」
トレジャーハント!?
探索営業課ぁ!?
ガーン!
と、シモンは巨大ハンマーで殴られたようなショックを受けた。
ひざから力が抜け、へなへなと座り込む。
補足しよう。
トレジャーハントとは、危険に満ちた様々な未知の場所を探索し、レアな財宝を探し出す事だ。
シモンの頭を「ぐるぐる」と理解不能な思いがめぐる。
頭が完全に混乱している。
ど、ど、どういう事だっ!?
お、お、俺は、商会専属の魔法鑑定士に就職したんじゃ、なかったのか!?
魔法による空調のきいたオフィスの奥でじっくり商品を吟味し、しゅくしゅくと鑑定するのじゃなかったのかぁ!
は、はめられたぁぁ!!
「え~~!? きょ、教官っ! た、探索営業課ぁ! ななな、何すか、それぇ!」
「ごら、シモン! てめぇはいちいち大袈裟な奴だ」
「お、大袈裟って……」
「良いか、耳の穴かっぽじって良く聞け! シモン! お前はコルボー商会所属の『トレジャーハンター』となる!」
「え~! お、俺が、トレジャーハンター!?」
「おう! 世界各地の様々な遺跡、迷宮、洞窟は勿論、山林、砂漠、川、沼、湖、海等、ありとあらゆる場所を探索し、レアで高価なお宝を発見し、その場で鑑定。商会へ持ち帰って貰う」
バスチアンは、シモンに課せられた仕事を具体的に教えてくれた。
これも多分、研修のメニューに入っているに違いない。
「せ、世界各地の!? 遺跡!? 迷宮!? 洞窟!? レアで高価なお宝ぁ!? その場で鑑定!?」
「おうよ! ようやく認識したか! まあ、遺跡や迷宮とか、お前が探索する最中はおぞましい化け物もガンガン出る。喰われたくなかったら、戦え! そして倒せ! 逆に奴らを喰い殺してやるんだよ!」
バスチアンはそう言うと、筋肉を誇示するようなファイティングポーズをとった。
ランニングシャツ、短パンに包まれた逞しい筋肉が、ムキムキっと盛り上がる。
「きょ、教官! ま、魔物を! く、く、喰い殺すなんて、無理ですって! お、俺の仕事って! い、い、命がけじゃないですかぁ!」
「ああ、てめぇは馬鹿か? さっきからそう言ってるだろが。だから死なないように身体を鍛え、様々な魔法やスキルを習得するんだ」
「様々な魔法やスキルって……」
「おい、シモン。これだけは言っとくぞ」
「な、何をっすかぁ!?」
「毎年、ウチの新入社員の1/4が研修で死んでる。ちなみに殉職扱いになるからな」
「え~~~!!?? け、け、研修でぇぇ!! し、し、し、死んでるぅぅぅ!!! し、し、新入社員の1/4がぁぁぁ!!!」
「おうよ! お前は死ぬんじゃねぇぞ。折角、この俺が担当してやったんだからな」
「やだやだやだやだやだ~~~っっっ!!!」
「うっさいぞ! 本当にいちいち大袈裟な奴だ。あ、そうそう、念の為、死んでも自己責任となるからな」
「な~~!! し、し、し、死んでも! じ、自己責任!!」
「おうよ! 一応生命保険はかけてあるから、安心だ。そして、お前が、トレジャーハンターとして、デビュー。持ち帰った逸品を商会が売りさばき、得た利益の10%をお前が受け取る。そういうビジネススキームだ」
「た、た、たった10%ぉ!?」
「いやいや、シモン! お前が探索する場所はよ、全て商会の情報部が調査する。更に発掘、採取等の権利関係は法務部が許可を取る。お前は指定された場所へ赴き、探索し、高価なお宝を持ちかえれば良いだけ……どこかの本のタイトルみたいに簡単なお仕事だろ?」
「か、か、簡単なお仕事じゃないっすよぉ!! ま、間違いなく死ぬっすよぉ!!」
「まあ、死んでも仕方がない。お前は雇用契約書にきっちりサインした。金も受け取った」
「あ~~~っっ!」
「シモン! お前はこの森で1か月みっちり訓練し、実戦の場に出て貰う」
「え? ええっ、たった1か月?」
「おう! 死にたくなかったら、懸命に魔法の腕を磨け! 新たなスキルを覚えろ! 身体を限界以上に鍛えろ! ゲロ吐いても生き抜けっ!」
「な、な、な、な~~!!」
「わめくな! 採用した社員を遊ばせておく余裕は商会にはねぇんだよ。ちなみに教官は俺だけじゃない。魔法やスキルの教官は、日替わりで通うからな」
「へ? 教官が日替わりで通う? え? 通うって?」
「部長から聞いてねぇのか? お前は、今日からウチの研修で1か月間、この森で寝泊まりするんだよ! 当然ひとりでなっ!」
「え~~っ!? お、俺、こ、この不気味な森で、たったひとりで暮らすんですか? 夜も?」
「当たり前だ。所詮、人間生まれた時はひとり、死ぬ時もひとりだ!」
「はあ? 何すか、悟ったような、そのことわざみたいなの!」
「でも、ありがたく思え。最初の1週間だけは昼夜俺が一緒だ。そうそうお前が生き残る為のサバイバル術も身に着けて貰う。ボッチで仕事して貰うケースもあるからなっ!」
「ノォ~~っ!!!」
狩場の森の門前で……
シモンは頭を抱え、絶叫していたのである。
シモンとバスチアンが馬車を降りると、不気味なうっそうとした森が目の前に広がっていた。
周囲は王都並みの高い石壁で囲まれている。
目の前には鉄製の巨大な門があり、固く閉ざされていた。
どうやら普通の森ではないらしい。
何故なら敷地の中より、獣の声に交じって、不気味な魔物の咆哮も聞こえて来るからだ……
「こ、ここは……」
「おう! 以前は地獄の森と呼ばれていた場所だ」
「じ、地獄の森って……ううう、縁起でもない」
「ははははは、びびんじゃねぇ! ウチが王国から払い下げて貰った総合訓練場よぉ」
「地獄の森……総合訓練場……」
「おう! 数年前まで騎士隊や王国軍が魔物の討伐訓練に使っていた森だ」
「と、討伐訓練?」
「ははははは! 生きたまま捕獲して放ってある人喰いのゴブリン、オーク、オーガがうじゃうじゃ出るぜ」
「ひ、人喰い!? ゴブリン、オークにオーガぁぁ!? ひいいいいいっっ!!」
「ごら、シモン!! 情けねぇ悲鳴ばかりあげるんじゃねぇ! おめぇ、男だろが!」
「お、お、男とか、関係ないですよぉ……そ、それに俺、戦闘向きじゃないです。ほ、ほ、本来は、ま、魔法鑑定士なんですよ……」
「うっせぇ! ガタガタ言うな! お前はその魔法鑑定士のスキルを活かして、配属されるんだからよ」
商品の品定めをする魔法鑑定士が何故、戦闘訓練を?
疑問に思ったシモンは、バスチアンへ尋ねる。
「活かして? は、配属って……俺のする仕事は鑑定だけじゃないんですか? こんな人喰いの魔物が出るような森で命がけの訓練、ひ、必要ないのでは?」
しかし、バスチアンはニヤリと笑い、きっぱりと言い放つ。
「ふっ、何言ってる? これから就くお前の仕事はまず体力、そして武技、攻防の魔法、更に探索スキルも必須だ」
「え? ぶ、武技に攻防の魔法? た、探索スキル?」
「おうよ! 当然魔法鑑定士の技能と学生時代に培った深い商品知識も最大限、活かして貰うぞ」
「は? ど、ど、ど、どういう意味ですか?」
「どうもこうもない! シモン、お前の仕事はトレジャーハント。配属先はコルボー商会営業部探索営業課だ」
トレジャーハント!?
探索営業課ぁ!?
ガーン!
と、シモンは巨大ハンマーで殴られたようなショックを受けた。
ひざから力が抜け、へなへなと座り込む。
補足しよう。
トレジャーハントとは、危険に満ちた様々な未知の場所を探索し、レアな財宝を探し出す事だ。
シモンの頭を「ぐるぐる」と理解不能な思いがめぐる。
頭が完全に混乱している。
ど、ど、どういう事だっ!?
お、お、俺は、商会専属の魔法鑑定士に就職したんじゃ、なかったのか!?
魔法による空調のきいたオフィスの奥でじっくり商品を吟味し、しゅくしゅくと鑑定するのじゃなかったのかぁ!
は、はめられたぁぁ!!
「え~~!? きょ、教官っ! た、探索営業課ぁ! ななな、何すか、それぇ!」
「ごら、シモン! てめぇはいちいち大袈裟な奴だ」
「お、大袈裟って……」
「良いか、耳の穴かっぽじって良く聞け! シモン! お前はコルボー商会所属の『トレジャーハンター』となる!」
「え~! お、俺が、トレジャーハンター!?」
「おう! 世界各地の様々な遺跡、迷宮、洞窟は勿論、山林、砂漠、川、沼、湖、海等、ありとあらゆる場所を探索し、レアで高価なお宝を発見し、その場で鑑定。商会へ持ち帰って貰う」
バスチアンは、シモンに課せられた仕事を具体的に教えてくれた。
これも多分、研修のメニューに入っているに違いない。
「せ、世界各地の!? 遺跡!? 迷宮!? 洞窟!? レアで高価なお宝ぁ!? その場で鑑定!?」
「おうよ! ようやく認識したか! まあ、遺跡や迷宮とか、お前が探索する最中はおぞましい化け物もガンガン出る。喰われたくなかったら、戦え! そして倒せ! 逆に奴らを喰い殺してやるんだよ!」
バスチアンはそう言うと、筋肉を誇示するようなファイティングポーズをとった。
ランニングシャツ、短パンに包まれた逞しい筋肉が、ムキムキっと盛り上がる。
「きょ、教官! ま、魔物を! く、く、喰い殺すなんて、無理ですって! お、俺の仕事って! い、い、命がけじゃないですかぁ!」
「ああ、てめぇは馬鹿か? さっきからそう言ってるだろが。だから死なないように身体を鍛え、様々な魔法やスキルを習得するんだ」
「様々な魔法やスキルって……」
「おい、シモン。これだけは言っとくぞ」
「な、何をっすかぁ!?」
「毎年、ウチの新入社員の1/4が研修で死んでる。ちなみに殉職扱いになるからな」
「え~~~!!?? け、け、研修でぇぇ!! し、し、し、死んでるぅぅぅ!!! し、し、新入社員の1/4がぁぁぁ!!!」
「おうよ! お前は死ぬんじゃねぇぞ。折角、この俺が担当してやったんだからな」
「やだやだやだやだやだ~~~っっっ!!!」
「うっさいぞ! 本当にいちいち大袈裟な奴だ。あ、そうそう、念の為、死んでも自己責任となるからな」
「な~~!! し、し、し、死んでも! じ、自己責任!!」
「おうよ! 一応生命保険はかけてあるから、安心だ。そして、お前が、トレジャーハンターとして、デビュー。持ち帰った逸品を商会が売りさばき、得た利益の10%をお前が受け取る。そういうビジネススキームだ」
「た、た、たった10%ぉ!?」
「いやいや、シモン! お前が探索する場所はよ、全て商会の情報部が調査する。更に発掘、採取等の権利関係は法務部が許可を取る。お前は指定された場所へ赴き、探索し、高価なお宝を持ちかえれば良いだけ……どこかの本のタイトルみたいに簡単なお仕事だろ?」
「か、か、簡単なお仕事じゃないっすよぉ!! ま、間違いなく死ぬっすよぉ!!」
「まあ、死んでも仕方がない。お前は雇用契約書にきっちりサインした。金も受け取った」
「あ~~~っっ!」
「シモン! お前はこの森で1か月みっちり訓練し、実戦の場に出て貰う」
「え? ええっ、たった1か月?」
「おう! 死にたくなかったら、懸命に魔法の腕を磨け! 新たなスキルを覚えろ! 身体を限界以上に鍛えろ! ゲロ吐いても生き抜けっ!」
「な、な、な、な~~!!」
「わめくな! 採用した社員を遊ばせておく余裕は商会にはねぇんだよ。ちなみに教官は俺だけじゃない。魔法やスキルの教官は、日替わりで通うからな」
「へ? 教官が日替わりで通う? え? 通うって?」
「部長から聞いてねぇのか? お前は、今日からウチの研修で1か月間、この森で寝泊まりするんだよ! 当然ひとりでなっ!」
「え~~っ!? お、俺、こ、この不気味な森で、たったひとりで暮らすんですか? 夜も?」
「当たり前だ。所詮、人間生まれた時はひとり、死ぬ時もひとりだ!」
「はあ? 何すか、悟ったような、そのことわざみたいなの!」
「でも、ありがたく思え。最初の1週間だけは昼夜俺が一緒だ。そうそうお前が生き残る為のサバイバル術も身に着けて貰う。ボッチで仕事して貰うケースもあるからなっ!」
「ノォ~~っ!!!」
狩場の森の門前で……
シモンは頭を抱え、絶叫していたのである。