そもそも人としてあんなにも優れている彼が、どうしてこんな私に好意を寄せてくれているのか、それすらも納得できていないのだ。
作家としての私ならともかく、一人の人間としての私はポンコツそのもので、誰かに好いてもらえるようなところなどない。
だからこそ彼の好意が一種の熱病か気の迷い、でなければ本当に何かしらの悪い呪いをかけられているせいだとしか思えず、私は何度も猜疑心に苛まれていた。
千里くんへの恋情が膨らめば膨らむほど、改めて自分と彼の人間性の差が気になり、そのせいで彼に愛を求める気持ちがどれだけ分不相応なものかを思い知らされてしまう。
こんなことでは彼に好かれ続ける自信など、到底持てるはずもない。
「はぁ……」
放っておくとすぐに自虐的になってしまう思考に呆れつつ、自棄になって残りのパフェをかき込む。
千里くんに恋をしてから少しは前向きになれたと思っていたけれど、これでは悪い自分に逆戻りだ。
せめてどうにかひとつだけでも、彼との関係を育んでいく自信になるものを見つけられればいいのに。
そうすれば、あるいは新作の突破口も開けるような気がしたのだけれど。
「完全にスランプ……」
カーテンの隙間から差し込む光に目が眩み、夜を明かしてしまったことを悟る。
あれからマンションに帰り、ずっと書斎に閉じこもって考えていたけれど、結局は机上の空論ばかりが巡ってしまっていた。
有効な手立ては思いつかず、相変わらず筆も止まったままの状態に気づいて脱力する。
そもそもこうして頭を悩ませて導き出す問題ではないのかもしれない。
だとしたら、いったいどうやって現状を打破すればいいのだろう。
万策尽きた心持ちで肩を落とし、耳栓代わりのワイヤレスイヤホンを取る。
気分転換に何か飲み物でも飲んだ方がいいかもしれない。
そう考えてリビングに続くドアを開けると、かすかにいい匂いが鼻を掠め、見ればキッチンに千里くんの姿があった。
「おはよう、聖ちゃん」
「お、おはよう、千里くん」
驚いた、まさかもう起きていたなんて。
千里くんは元々寝起きのいい方だけれど、それにしても時刻はまだ五時だったはずだ。
いくらなんでも早すぎやしないかと思っていると、彼は私の目の前のダイニングテーブルにことりと小鍋を置いた。
「昨日からろくに食べていないんじゃない? 雑炊をつくってみたから、よかったら食べてね」
「わぁ、ありがとう……!」
鍋の中を見てみると、そこにはきのことにんじんの入った美味しそうな卵雑炊が湯気を立てていた。
私の感じたいい匂いの正体は、どうやらこの雑炊だったらしい。
ちょうどお腹も空いていたしありがたくいただこうと、テーブルに着いて手を合わせる。
するとふいにきっちりと朝の支度を終えた千里くんの姿が目に映り、次いで今の自分がすっぴんかつボサボサの髪にルームウェアだということを思い出して、私は絶句した。
なんだこれ。
なんなんだこの格差は。
千里くんはたびたび私を神様だと称してくれたけれど、むしろこれでは彼の方がよほど神様のようではないか。
それに曲がりなりにも恋人同士だというのに、二人のあいだにこれほどまでの差があっていいはずがない。
あまりの恥ずかしさに、両手で顔を覆い隠して俯く。
「うう、申し訳なさすぎる……。こんなボロボロでダメダメな女なんて見捨ててもいいくらいなのに、むしろ施しを与えてくれるなんて……」
「ははっ、だいぶお疲れみたいだね」
思わず吹き出すようにして千里くんが笑う。
しかしそれから、彼は私の頭をくしゃりと撫でた。
「俺の愛を甘く見ないでよ? 聖ちゃんがどんな姿でいても幻滅したりなんてしないし、むしろ頑張っている君を応援するのが俺の生きがいなんだから」
作家としての私ならともかく、一人の人間としての私はポンコツそのもので、誰かに好いてもらえるようなところなどない。
だからこそ彼の好意が一種の熱病か気の迷い、でなければ本当に何かしらの悪い呪いをかけられているせいだとしか思えず、私は何度も猜疑心に苛まれていた。
千里くんへの恋情が膨らめば膨らむほど、改めて自分と彼の人間性の差が気になり、そのせいで彼に愛を求める気持ちがどれだけ分不相応なものかを思い知らされてしまう。
こんなことでは彼に好かれ続ける自信など、到底持てるはずもない。
「はぁ……」
放っておくとすぐに自虐的になってしまう思考に呆れつつ、自棄になって残りのパフェをかき込む。
千里くんに恋をしてから少しは前向きになれたと思っていたけれど、これでは悪い自分に逆戻りだ。
せめてどうにかひとつだけでも、彼との関係を育んでいく自信になるものを見つけられればいいのに。
そうすれば、あるいは新作の突破口も開けるような気がしたのだけれど。
「完全にスランプ……」
カーテンの隙間から差し込む光に目が眩み、夜を明かしてしまったことを悟る。
あれからマンションに帰り、ずっと書斎に閉じこもって考えていたけれど、結局は机上の空論ばかりが巡ってしまっていた。
有効な手立ては思いつかず、相変わらず筆も止まったままの状態に気づいて脱力する。
そもそもこうして頭を悩ませて導き出す問題ではないのかもしれない。
だとしたら、いったいどうやって現状を打破すればいいのだろう。
万策尽きた心持ちで肩を落とし、耳栓代わりのワイヤレスイヤホンを取る。
気分転換に何か飲み物でも飲んだ方がいいかもしれない。
そう考えてリビングに続くドアを開けると、かすかにいい匂いが鼻を掠め、見ればキッチンに千里くんの姿があった。
「おはよう、聖ちゃん」
「お、おはよう、千里くん」
驚いた、まさかもう起きていたなんて。
千里くんは元々寝起きのいい方だけれど、それにしても時刻はまだ五時だったはずだ。
いくらなんでも早すぎやしないかと思っていると、彼は私の目の前のダイニングテーブルにことりと小鍋を置いた。
「昨日からろくに食べていないんじゃない? 雑炊をつくってみたから、よかったら食べてね」
「わぁ、ありがとう……!」
鍋の中を見てみると、そこにはきのことにんじんの入った美味しそうな卵雑炊が湯気を立てていた。
私の感じたいい匂いの正体は、どうやらこの雑炊だったらしい。
ちょうどお腹も空いていたしありがたくいただこうと、テーブルに着いて手を合わせる。
するとふいにきっちりと朝の支度を終えた千里くんの姿が目に映り、次いで今の自分がすっぴんかつボサボサの髪にルームウェアだということを思い出して、私は絶句した。
なんだこれ。
なんなんだこの格差は。
千里くんはたびたび私を神様だと称してくれたけれど、むしろこれでは彼の方がよほど神様のようではないか。
それに曲がりなりにも恋人同士だというのに、二人のあいだにこれほどまでの差があっていいはずがない。
あまりの恥ずかしさに、両手で顔を覆い隠して俯く。
「うう、申し訳なさすぎる……。こんなボロボロでダメダメな女なんて見捨ててもいいくらいなのに、むしろ施しを与えてくれるなんて……」
「ははっ、だいぶお疲れみたいだね」
思わず吹き出すようにして千里くんが笑う。
しかしそれから、彼は私の頭をくしゃりと撫でた。
「俺の愛を甘く見ないでよ? 聖ちゃんがどんな姿でいても幻滅したりなんてしないし、むしろ頑張っている君を応援するのが俺の生きがいなんだから」