あなたと一緒なら心が和らぐ。
それは私が千里くんに感じていた気持ちだった。
千里くんが私のことを思ってこの花を選んでくれたのなら、きっと彼も同じ気持ちでいてくれているのだろう。
それはなんて奇跡的で幸せなことなのだろうか。
思わずにやけてしまう口元を手で隠していると、ふいに千里くんはその鉢植えをベランダへと持っていった。

「マンションだから庭はないけど、代わりにこの鉢植えをベランダに置けば、少しは庭っぽくなるかな?」

「庭?」

「そう。聖ちゃんが前に言っていたでしょう? 恋愛は他人の家の綺麗な庭みたいなものだって」

千里くんがすらすらと口にした言葉に、よく覚えていたなと驚いてしまう。
そうだ、私にとって恋愛とは、他人の家の綺麗な庭のような、自分には分不相応なものでしかなかったはずだった。

「俺はね、本当は君の庭に花を植えたいんだ。とても綺麗で強い花だよ。手をかけなくたって、いつでもそこで咲き誇っていられるような」

千里くんの澄んだ瞳が、優しく私を捉える。

「……うん。もう植えられてしまったみたい」

そう言うと、彼の目は大きく見張られた。

「私は不器用だし、育て方だってよく分からないけど、それでも千里くんが植えてくれた花を大切に守っていきたいな」

叶うなら、私の言葉も千里くんの庭に根づいて、たくさん花を咲かせてくれればいい。
そんな思いを込めて、彼の目を強く見返す。

「私、千里くんが好きです」

胸が熱くて、痛いほどに高鳴る。
今まで知ることのなかった感情が、止めどなく溢れ出ていく。
この感情を言葉で描けたら、きっといい物語ができるだろう。
そんな確信にも似た予感が、私の胸をいっぱいに満たしていた。