リーフランドに向かうには、南の山脈を超えないといけない。
 ただ、山越えなんて無謀。

 今は春だから、冬ほど厳しくはないのだけど……
 それでもかなりの体力を奪われてしまう。

 それに山に慣れていないと迷うことが多い。
 最悪、滑落などで命を失うこともある。

 でも、リーフランドに行く分には問題はない。
 今から十年以上前に、トンネルの建設計画が立ち上がり……
 一年ほど前に開通したからだ。

 このトンネルのおかげで、ソフィアと再会することができたといっても過言ではない。
 感謝だ。

 そして今日。
 そのトンネルを使い、山を超える。

「おー」
「どうしたのですか、フェイト?」
「トンネルなんて初めてだから、なんか、すごいね」

 馬車が二台並走できるだけの横幅があり。
 高さは、五メートルくらいだろうか?

 等間隔で照明の魔道具が設置されている。
 さらに、壁と地面はしっかりと舗装されていて、歩きやすい。

「これ、もしかしたら外の街道よりもしっかりとしているんじゃない?」
「あ、それ、あたしも同じこと思ったわ」
「歩きやすい……ね」

 リコリスとアイシャもトンネルは初めてらしく、ちょっと楽しそうにしていた。
 僕も子供に戻ったかのように、一緒になってはしゃぐ。

「まったくもう……油断してはいけませんよ?」

 やれやれとばかりに、ソフィアがそう言う。
 ただ、その口元には笑みが。
 なんだかんだで、僕達が一緒にはしゃいでいることを微笑ましく思っているみたいだ。

「ところで、油断っていうのは?」
「トンネルはダンジョンと似たようなものですからね。魔物に気をつけないといけません」
「え、魔物が出るの?」
「はい。雨風をしのぐことができて、休憩所なんてものもあります。定期的に駆除は行われていますが、たまに完全に駆除することができず、魔物と鉢合わせることがありますよ」
「そうだったんだ」

 これだけしっかりしているから、魔物なんて出てこないと思っていた。

 でも……そっか。
 入り口に門が作られているわけじゃないから、魔物が入りこむことはあるのか。

「なら、気をつけないといけないね」
「はい。ですが、魔物と遭遇するケースは稀です。冒険者が数日ごとに見回りをしていますから、襲われるという事件はなかなかありませんね」
「それなら……」

 安全だね。
 そう言おうとしたところで、トンネルの先から悲鳴が聞こえてきた。

「え? なになに? 今の悲鳴よね?」
「ソフィアは、アイシャとリコリスをお願い!」
「はい! フェイトも、気をつけてください!」
「うんっ」

 放っておくわけにはいかない。
 すぐに体が動いて、雪水晶の剣を手に駆け出した。

 一分ほど走ったところで、馬車が見えた。
 荷台にたくさんの荷物が積まれているところを見ると、たぶん、商人のものだろう。

 馬車を取り囲むウルフの群れ。
 低ランクの魔物だけど、その数は数えるのが面倒になるほどで、決して油断はできない。

 護衛の冒険者らしき人が二人、必死に戦っている。
 しかし、数の暴力に押され、けっこう危ない感じだ。

「くっ、こいつら……!」
「アクセル、焦らないで! しっかりと対処すれば問題のない相手だから」
「リナの言う通りだけどよ……くそっ! だからって、数が多すぎるだろ! こんな……」
「アクセル、危ない!!!」

 女性の冒険者が叫ぶ。

 一匹のウルフが、男性の冒険者の喉に食らいつこうとしていた。
 男性の冒険者は防ごうとするが、気づくのが遅かったせいで、間に合わない。

 ウルフの牙がそのまま……

「このっ!」

 男性の冒険者の喉元に食らいつくよりも先に、全力で踏み込んで、ウルフの頭を斬る。
 頭部を失ったウルフは絶命して、そのまま地面に倒れた。

「あんたは……」
「助太刀します!」
「おうっ、感謝するぜ!」
「ああもう、アクセルったら。どこの誰かわからないのに、簡単に受け入れて……」
「この状況で文句なんて言えるわけねえだろうが!」
「そうかもしれないけど……わかったわよ、やればいいんでしょ!」

 どうやら、男性の冒険者がアクセル。
 女性がリナというらしい。

 アクセルは斧を武器とする前衛。
 リナは杖を使い、魔法を操る後衛……というところかな?

 今までは、敵の数が多すぎてリナも攻撃にさらされて、陣形が崩壊していたみたいだけど……
 僕が参戦したことで、前衛がきっちりと安定した。

 後衛であるリナのところまでウルフを行かせることはなくて。
 しっかりと迎撃。
 そして、リナが魔法を使い、まとめてウルフを葬り去る。

 一度安定すれば問題はまったくなしで……
 五分ほどでウルフの群れを殲滅することに成功した。

「ふう……これで終わりか?」
「みたいね……うん、大丈夫よ。周囲に魔物の気配はないわ」

 魔法を使ったらしく、リナが確信めいた様子で言う。

 それを聞いて、僕とアクセルは、それぞれ武器を収めた。

「助太刀、助かったぜ! サンキューな!」
「ううん、どういたしまして」

 アクセルの握手に応じて、互いに笑みを浮かべる。

「俺は、アクセル・ライナー。冒険者だ、よろしくな!」
「私は、リナ・インテグラル。同じく冒険者よ、よろしくね」

 初めて会うんだけど……
 なんていうか、気持ちのいい人だ。
 なにかしら縁があれば、良い友だちになれるような気がした。

「僕は、フェイト・スティアート。それと、連れがいて……」
「フェイトー!」

 ソフィア達のことを話そうとしたところで、ちょうど、彼女達の姿が見えた。
 ソフィアの頭にリコリスが座り、アイシャは抱っこされている。

「大丈夫ですか?」
「うん。今さっき、片付いたところ。あ、そうそう。アクセル、リナ、紹介するよ。この子は……」
「「ソフィアお嬢さま!?」」

 紹介しようとしたところで、アクセルとリナがそんなことを言い、驚くのだった。