「あむっ」
アイシャは小さな口をいっぱいにあけて、ハンバーグを食べる。
一口食べるごとに幸せそうな笑みを浮かべて、
「はぁあああ……私の娘、すごくすごくかわいいです……」
ソフィアはとろけるような感じで、親としての幸せに浸っていた。
アイシャを養子に迎えて、早一ヶ月。
僕達は、順調に家族としての絆を育んでいた。
アイシャは僕達にとてもよく懐いてくれて……
そして僕達も、アイシャのことが、以前よりもすごく好きになった。
ソフィアなんて、ものすごい。
こう言うとなんだけど、完全な親ばかだ。
毎日毎日、アイシャを甘やかして、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
でも、気持ちはわかる。
よくわかる。
すごいわかる。
だって、アイシャはかわいい。
それに健気で、いつも一生懸命で、真面目で優しくて……
うん、僕も親ばかなのかもしれない。
血は繋がっていない。
本当の娘じゃないって、そう言われることもあるかもしれない。
でも、僕とソフィアはそんなことは気にしない。
アイシャは僕達の娘だ。
そう思っている。
そんな感じで、穏やかで幸せな時間を過ごしていたのだけど……
ずっと続いて欲しいと思う時間は、なかなか長続きしないものだった。
――――――――――
「ソフィアー、あんたに手紙よ」
いつものように冒険を終えて、宿に戻り、家族で一緒にごはんを食べる。
そんな時、リコリスが手紙を手に戻ってきた。
「私に手紙ですか?」
ちょうど食後のデザートを食べ終わったソフィアは、リコリスから手紙を受け取る。
「……っ!」
差出人の名前を見て、険しい顔に。
「どうしたの、ソフィア?」
「おかーさん……怖い顔」
「えっと、その……すみません。予想外の相手からだったので、つい」
「予想外の相手、って? なんか良い感じじゃなさそうだけど、なになに、元カノとか?」
「私は、ずっとフェイト一筋ですよ?」
「ひぃ!?」
リコリスが軽口を叩いて、ソフィアはニッコリと笑う。
ただし、目はまったく笑っていない。
「それで、誰からなの?」
「……お父さまからです」
「ソフィアの?」
それなら、なんで苦い顔をしているのだろう?
不思議に思っていると、ソフィアが事情を説明してくれる。
「お父さまは悪い人ではないのですが、どうも、子離れができないというか束縛が強いというか……私のすることなすこと、全部、反対してくるのです。剣を学ぶと言った時も、どれだけ反対されたか」
「そういえば」
記憶の中にあるおじさんは優しそうな人ではあるのだけど、あれこれとソフィアに注意をしていた覚えがある。
日が暮れる前に帰ること、手は洗うこと、遠くへ行かないこと……などなど。
おとなしそうに見えて、でも活発なソフィアのことだ。
あれこれと束縛されるのは嫌なのだろう。
「今回も、よくないことを押しつけてくるかもしれません」
「うーん」
ソフィアの懸念は理解できるのだけど、でも、その反応はダメだ。
そっと耳打ちする。
「……ソフィア、気持ちはわからないでもないけど、落ち着いて」
「……フェイトは、お父さまの味方なのですか?」
「……違うよ。僕は、ずっとソフィアの味方」
「……はぅ」
「……でも、アイシャの前でそんな態度をしたらダメだよ」
アイシャは本当の両親を失っている。
それなのにソフィアが父親を嫌うような態度を見せたら?
「あ……」
僕の言いたいことを理解してくれたらしく、ソフィアは小さな声をこぼす。
それから軽く深呼吸して、心を落ち着けた。
「ありがとうございます、フェイト」
「ううん、どういたしまして」
よかった。
これで、落ち着いて手紙を読んでくれそうだ。
……なんて思っていたのだけど。
「……はい?」
手紙を開けて、数分。
ソフィアの表情が再び険しくなる。
さきほどの比じゃない。
ハッキリとした怒りが浮かび上がり、手紙を握る手がブルブルと震えている。
殺気に近い怒気があふれだして、近くにいた冒険者が失神していた。
それでもアイシャにその気をぶつけないことは、さすがというべきか。
「えっと……ソフィア?」
これだけ怒るソフィアなんて、久しぶりに見たかもしれない。
シグルド達の事件の後……
話があるからと、どこかへ出かけた時は相当に怒っていた。
あの時に匹敵するくらいの怒りだ。
「おかーさん? どうしたの?」
「……なんでもないですよ。ええ、なんでも」
「?」
どうにかこうにか怒りを我慢して、ソフィアはアイシャの頭を撫でた。
あちらこちらに放出されていた怒気も少しずつ収まる。
「ちょっと、どうしたのよ? そこらの人間が失神してるけど」
「あぁ……やってしまいました。どうしようもなく、果てしなく、限りなくろくでもない内容だったため、つい……」
「ソフィアのお父さんからの手紙なんだよね? それなのにろくでもないって、どういうこと?」
「……先に言っておきたいのですが、私は、フェイト一筋ですからね? 他の男性に惹かれたことなんて一度もないし、ずっとずっと、フェイトだけを想っていましたからね!?」
「う、うん? ありがとう?」
「そのことを念頭に、聞いてほしいのですが……」
ソフィアは深いため息をこぼす。
それから、心底うんざいした様子で言う。
「……手紙の内容は、お父さまが私の婚約者を決めた、というものでした」
アイシャは小さな口をいっぱいにあけて、ハンバーグを食べる。
一口食べるごとに幸せそうな笑みを浮かべて、
「はぁあああ……私の娘、すごくすごくかわいいです……」
ソフィアはとろけるような感じで、親としての幸せに浸っていた。
アイシャを養子に迎えて、早一ヶ月。
僕達は、順調に家族としての絆を育んでいた。
アイシャは僕達にとてもよく懐いてくれて……
そして僕達も、アイシャのことが、以前よりもすごく好きになった。
ソフィアなんて、ものすごい。
こう言うとなんだけど、完全な親ばかだ。
毎日毎日、アイシャを甘やかして、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
でも、気持ちはわかる。
よくわかる。
すごいわかる。
だって、アイシャはかわいい。
それに健気で、いつも一生懸命で、真面目で優しくて……
うん、僕も親ばかなのかもしれない。
血は繋がっていない。
本当の娘じゃないって、そう言われることもあるかもしれない。
でも、僕とソフィアはそんなことは気にしない。
アイシャは僕達の娘だ。
そう思っている。
そんな感じで、穏やかで幸せな時間を過ごしていたのだけど……
ずっと続いて欲しいと思う時間は、なかなか長続きしないものだった。
――――――――――
「ソフィアー、あんたに手紙よ」
いつものように冒険を終えて、宿に戻り、家族で一緒にごはんを食べる。
そんな時、リコリスが手紙を手に戻ってきた。
「私に手紙ですか?」
ちょうど食後のデザートを食べ終わったソフィアは、リコリスから手紙を受け取る。
「……っ!」
差出人の名前を見て、険しい顔に。
「どうしたの、ソフィア?」
「おかーさん……怖い顔」
「えっと、その……すみません。予想外の相手からだったので、つい」
「予想外の相手、って? なんか良い感じじゃなさそうだけど、なになに、元カノとか?」
「私は、ずっとフェイト一筋ですよ?」
「ひぃ!?」
リコリスが軽口を叩いて、ソフィアはニッコリと笑う。
ただし、目はまったく笑っていない。
「それで、誰からなの?」
「……お父さまからです」
「ソフィアの?」
それなら、なんで苦い顔をしているのだろう?
不思議に思っていると、ソフィアが事情を説明してくれる。
「お父さまは悪い人ではないのですが、どうも、子離れができないというか束縛が強いというか……私のすることなすこと、全部、反対してくるのです。剣を学ぶと言った時も、どれだけ反対されたか」
「そういえば」
記憶の中にあるおじさんは優しそうな人ではあるのだけど、あれこれとソフィアに注意をしていた覚えがある。
日が暮れる前に帰ること、手は洗うこと、遠くへ行かないこと……などなど。
おとなしそうに見えて、でも活発なソフィアのことだ。
あれこれと束縛されるのは嫌なのだろう。
「今回も、よくないことを押しつけてくるかもしれません」
「うーん」
ソフィアの懸念は理解できるのだけど、でも、その反応はダメだ。
そっと耳打ちする。
「……ソフィア、気持ちはわからないでもないけど、落ち着いて」
「……フェイトは、お父さまの味方なのですか?」
「……違うよ。僕は、ずっとソフィアの味方」
「……はぅ」
「……でも、アイシャの前でそんな態度をしたらダメだよ」
アイシャは本当の両親を失っている。
それなのにソフィアが父親を嫌うような態度を見せたら?
「あ……」
僕の言いたいことを理解してくれたらしく、ソフィアは小さな声をこぼす。
それから軽く深呼吸して、心を落ち着けた。
「ありがとうございます、フェイト」
「ううん、どういたしまして」
よかった。
これで、落ち着いて手紙を読んでくれそうだ。
……なんて思っていたのだけど。
「……はい?」
手紙を開けて、数分。
ソフィアの表情が再び険しくなる。
さきほどの比じゃない。
ハッキリとした怒りが浮かび上がり、手紙を握る手がブルブルと震えている。
殺気に近い怒気があふれだして、近くにいた冒険者が失神していた。
それでもアイシャにその気をぶつけないことは、さすがというべきか。
「えっと……ソフィア?」
これだけ怒るソフィアなんて、久しぶりに見たかもしれない。
シグルド達の事件の後……
話があるからと、どこかへ出かけた時は相当に怒っていた。
あの時に匹敵するくらいの怒りだ。
「おかーさん? どうしたの?」
「……なんでもないですよ。ええ、なんでも」
「?」
どうにかこうにか怒りを我慢して、ソフィアはアイシャの頭を撫でた。
あちらこちらに放出されていた怒気も少しずつ収まる。
「ちょっと、どうしたのよ? そこらの人間が失神してるけど」
「あぁ……やってしまいました。どうしようもなく、果てしなく、限りなくろくでもない内容だったため、つい……」
「ソフィアのお父さんからの手紙なんだよね? それなのにろくでもないって、どういうこと?」
「……先に言っておきたいのですが、私は、フェイト一筋ですからね? 他の男性に惹かれたことなんて一度もないし、ずっとずっと、フェイトだけを想っていましたからね!?」
「う、うん? ありがとう?」
「そのことを念頭に、聞いてほしいのですが……」
ソフィアは深いため息をこぼす。
それから、心底うんざいした様子で言う。
「……手紙の内容は、お父さまが私の婚約者を決めた、というものでした」