「……というわけで、今日から、アイシャちゃんは私達の娘です!」

 突然、ソフィア達が僕の部屋にやってきて……
 そんなことを言う。

 ぼーっとする僕を見て、ソフィアが不安そうな顔に。

「もしかして、フェイトは反対ですか……?」
「いや、そんなことはないんだけど……」

 あまりに突然のことだから、ちょっと驚いているだけ。

 とりあえず情報を整理した後、アイシャを見る。
 かがんで目線を合わせる。

「アイシャは、僕達の子供になりたいの?」
「……うん」

 アイシャは迷うことなく、コクリと頷いた。
 どこかすがるように、こちらを見る。

「……一緒にいたい……」

 庇護欲がそそられるというか。
 同じく、一緒にいたいと思うというか。

 ダメだ。
 無条件でアイシャの言うことを聞いてしまいそうになる。

 でも、その前に確かめておかないと。

「答えにくいことを聞くよ? アイシャの……本当のお父さんとお母さんは?」
「……」

 アイシャは無言で首を横に振る。

「そっか……僕は、アイシャの里を探して送り届けようと思っていたんだけど、里は?」
「……」

 再び、無言で首を横に振る。

 今のアイシャは、なにもない……ということか。

「うぅ……かわいそうです……」
「苦労してきたのね……」

 後ろの方で、ソフィアとリコリスが泣いていた。
 気持ちはわかるけど、雰囲気が台無しというか、大事な話をするのだからというか……うーん。

 でも、僕達はこんな感じでいいのかも。
 相手のことを考えて、心に寄り添い、同じ想いを抱く。
 そうやって一緒にいることは、たぶん、とても大切なことだと思うから。

「ごめんね、辛いことを思い出させて」
「……ううん」
「でも、そういうことなら僕は歓迎するよ」
「あ……!」

 ぱあっ、とアイシャの顔が明るくなる。

「ただ、僕の方が不安というか……アイシャは、僕なんかが親でいいの?」
「うん」

 またの即答。
 ちょっとうれしい。

「そっか。じゃあ……おいで」
「んっ!」

 両手を広げると、アイシャが勢いよく飛び込んできた。
 甘えるつもりだったのだろうけど、加減がよくわからないのだろう。

 少し押されてしまうのだけど……
 でも、これくらいで倒れてしまうほど弱くはない。

 日頃からソフィアに鍛えてもらっているし……
 なによりも、倒れたらアイシャを怪我させてしまうかもしれない。

 腕の中のアイシャを抱きしめて、次いで、頭を撫でる。
 アイシャは気持ちよさそうに目を細めて、犬耳をひょこひょこと動かして、尻尾をぶんぶんと左右に振る。

「じゃあ、今日から、アイシャは僕達の娘だ」
「うん」
「よろしくね、アイシャ」
「うん!」

 アイシャの満面の笑み。
 それを見ると、なんだか不思議な気持ちに。

 心が温かくなるというか、際限なく幸せになるというか。
 自然と笑顔になる。

「えっと、えっと……」
「どうしたの?」
「……おとーさん」
「うぐっ」

 上目遣いに、アイシャがそんなことを言う。
 ものすごくかわいい。
 かわいすぎて、なんかもう、心臓がどうにかなってしまいそうだ。

「おかーさん」

 続いて、アイシャはソフィアを見て、そう言い……

「はうっ!?」

 ソフィアは失神しそうになっていた。

 剣聖を失神させかけるなんて……
 アイシャは、実はとんでもない子じゃないか?

「えっと……」

 アイシャは、リコリスを見て迷っていた。
 お父さんは俺。
 お母さんはソフィア。
 なら、リコリスは?

「あたしのことは、リコリスお姉ちゃんと呼びなさい!」
「リコリス……お姉ちゃん」
「ふぎゃ!?」

 胸の辺りに手をやり、リコリスがふらふらとなり、そのまま墜落した。
 アイシャのかわいさは、妖精にも通用したらしい。

「ど、どうしたの……?」

 俺達の様子を見て、アイシャが慌てる。
 それはそうだ。
 呼んだだけで次々と倒されていくのだから、不安にもなるだろう。

「大丈夫……うん、大丈夫。ただちょっと、アイシャがかわいすぎるだけだから」
「そうですよ、問題ありません。むしろ、これから、こんなにかわいいアイシャちゃんにおかーさんと呼んでもられるなんて、幸せしかありません」
「ふっ、うふふふ……お姉ちゃん、リコリスお姉ちゃん……くふっ」
「ふぁ……?」

 傍から見ていれば、かなりよくわからない光景になっていたのだろうけど……
 とにもかくも、僕達は、この日家族になった。