9話 冒険者になれない?

「申しわけありません! フェイトさんの冒険者登録の申請を受け付けることはできません……」

 さらに翌日。
 さっそく冒険者になろうとギルドを訪ねたのだけど……
 名前を告げた途端、拒否されてしまう。

「どういうことなのですか? 返答の内容次第では……」
「ひぅ」

 隣のソフィアが睨み、受付嬢が怯えた。

「落ち着いて、ソフィア」
「ですが……」
「たぶん、彼女のせいじゃないと思うから。申しわけなさそうにしているし、不本意なんだと思う」
「は、はい……スティアートさんの言う通りです。冒険者ギルドでは、常に新しい人材を求めています。危険の大きい仕事なので、希望者は決して多くなくて……なので、通常なら歓迎したいところなのですが、ギルドマスターが……」
「……そこから先は、俺が説明しよう」

 奥から初老の男性が現れた。
 白髪と髭を蓄えているのだけど、体は老人のものではなくて、歴戦の戦士のようだ。

「あなたがギルドマスター?」
「ああ。アイゼンという、よろしくな」
「フェイト・スティアートです」
「ソフィア・アスカルトです」
「立ち話もなんだから、奥の部屋へ」

 アイゼンに案内されて、客間へ。
 受付嬢がお茶を運んできてくれたタイミングで、アイゼンが口を開く。

「俺は回りくどいことは好かない。なのでストレートに言うが、スティアートの冒険者登録を拒否するように命令したのは、この俺だ」
「……それは、なぜですか?」
「キミが元奴隷だからだ」

 アイゼンは紅茶を飲みつつ、言葉を続ける。

「奴隷に落ちるということは、色々なパターンがあるが……犯罪を犯した者が罰で、というパターンもある。なので、その辺りをハッキリさせないと、冒険者登録を認めることはできない。スティアートは、なぜ奴隷に?」
「それは……」

 シグルド達に騙されて、無理矢理奴隷にさせられたことを話した。

「ふむ……なぜ、そのことを今まで口にしなかった? 助けを求めることは考えなかったのか?」
「シグルド達に禁じられていたので。奴隷は、主の命令に逆らうことができない……知っているでしょう?」
「そうだな。まったく……シグルド達は正当な手続きでキミを奴隷にしたと言っていたが、全てウソだったというわけか。それが本当なら、なにかしら考えなければいけないな」

 こめかみの辺りに手をやり、アイゼンは深い吐息をこぼす。
 シグルドは実力は確かだけど、問題児扱いされているらしい。

「本当なら、って言うことは、信じてくれないんですか?」
「キミとは初対面だ。すまないが、一方の話を聞いて全てを判断することはできない。できることなら、シグルド達からも聞き取りを行いたいところだが……連中、今はどこかへ行っているらしく、話が聞けないのだ。キミは、無理矢理、ということを証明できるか?」
「それは……」
「できないか。キミは嘘を吐いている様子はないし、どうにかしてやりたいとは思うが……ただ、やはり冒険者登録は難しい」
「フェイトの話を聞いていなかったのですか? そのような証拠があれば、フェイトは、自分でなんとかしていたはずです。しかし、それすらもできないような状況に陥っていたのですよ?」
「怒らないでくれ。自分でも理不尽なことを言っていると、それは理解してる。だが、身元に不安が残る者を冒険者登録することは許可されていない。これは、規則なんだ」
「くだらない規則ですね」
「気持ちはわかるが、俺に文句を言わないでくれ。俺は、この街のギルマスで、冒険者協会のトップじゃないんだ。俺が規則を決めているわけじゃないし、それに、破っていいと言うわけにもいかん」
「融通の効かない人ですね……」
「それじゃあ、僕は絶対に冒険者になれない?」

 ソフィアと一緒に旅をする約束を叶えることができないなんて……
 暗闇の中に迷い込み、進む道を見失った気分だ。

「いや、そういうわけではない」
「え? どういうことですか?」
「犯罪歴などの確かな証拠があれば登録は不可能だが、今回は、そういうわけではない。不透明な場合は、推薦人を用意することで、登録が可能となる」
「推薦人?」
「この人は問題ない、自分が保証します。なにかれば責任をとります、という契約のようなものだな。それなりの身分の者でないと、推薦の意味がないから、そこらの人を掴まえて頼んでも無駄だぞ」
「それなら、私が推薦人となりましょう」

 真っ先にソフィアが立候補した。

「いいの、ソフィア?」
「もちろん」
「でも、僕がなにかやらかした場合、ソフィアに迷惑をかけることに……」
「フェイト、私達は幼馴染なのですよ。そして、将来の約束をした仲です。楽しい時だけではなくて、苦しい時も一緒にいさせてください」
「……ありがとう」

 彼女には、本当に感謝している。
 いつかお礼をしないといけないのだけど……
 この大きな恩を返しきることができるのだろうか?

「あー……盛り上がってるところ悪いが、アスカルトの推薦だけじゃダメだ」
「どうしてですか? 自分で言うのもなんですが、私は剣聖です。ギルドからの信頼は厚いはずですし、そんな私なら問題はないと思いますが」
「問題ないさ。ただ、推薦人は二人必要なんだ」
「……一人くらいおまけしてください」
「ダメだ、規則だ」
「ケチですね」

 ぷくー、っとソフィアは頬を膨らませた。
 とある魚みたいだ。

 その仕草は、子供の時と変わらない。
 懐かしいところを見つけることができて、ちょっとうれしい。

「なら……アイゼンさん、あなたが推薦人になってくれませんか?」

 僕は、思い切ってそう切り出した。

 すると、その言葉を予想していたらしく、アイゼンがニヤリと笑う。

「真面目なだけじゃなくて、度胸もある。お前のようなヤツは嫌いじゃない。ウチの新人として歓迎したいところだが……ただ、それはあくまでも性格面での話だ。冒険者としてやっていくだけの能力を持っているかどうか、そこは、俺は知らない」
「フェイトなら問題ありません。Sランクとして通用するでしょう」
「ははっ、そいつはすごいな」
「むう」

 冗談だと思ったらしく、アイゼンが笑い飛ばす。
 そんな反応に、ソフィアは不機嫌そうにした。

 でも、それが一般的な反応だよな。
 僕自身、ソフィアの言葉であっても、信じ切ることができないでいるのだから。

「とにかくも、俺はスティア―トの力を知りたい。俺が納得させることができたのなら、その時は、推薦人になろう」
「本当ですね?」
「ウソはつかない。約束も違えない」
「わかりました」

 こうして、僕は、冒険者登録をするために、アイゼンのテストを受けることになった。