「バカなっ……バカなバカなバカなバカなぁあああああっ!!!?」

 ドクトルが狂ったように叫び、魔剣をでたらめに振るう。

 音を超えるような速度。
 しかも、一撃でも喰らえば即死という威力。

 かなりの脅威ではあるのだけど……
 不思議と、僕は負けるイメージが思い浮かばない。

 それはやはり、ソフィアと一緒だからだろうか?

「フェイト!」

 ソフィアが僕の前に聖剣を割り込ませて、ドクトルの攻撃を防いでくれる。
 かと思えば、

「ソフィア!」

 僕がソフィアの肩を軽く押して、ドクトルの攻撃範囲から逃がす。

 互いが互いのことをフォローする。
 その上で攻撃のタイミングを重ねて、連撃を叩き込み、押し込んでいく。

 一人でドクトルと対峙した時は、なんていう強敵だと、恐怖した。
 もしかしたら負けるかもしれないと、諦めかけた。

 でも、今は違う。

 ソフィアがいれば、なんでもできるような気がした。
 彼女と一緒なら、どこまでも手が届く。
 ドクトルでさえ敵じゃない。

 さあ……彼女と一緒にいこう!

「いいわよ、その調子よ! 二人共、やっちゃいなさい……ストレングス、その2!」

 リコリスの声援と共に、再び身体能力強化魔法がかけられた。
 再び体が軽くなる。
 それは、ソフィアも同じ。

 僕達は攻撃の手をさらに加速させて、ドクトルを追い込んでいく。

「ぐっ、うぅ……おおおおおぉっ!!!」

 ドクトルも負けじと魔剣を振る。
 さらに黒い霧を展開させて、多面攻撃をしかけてきた。

 でも、それはもう何度も見た。

 剣聖であるソフィアに、そんなずさんな攻撃、何度も通じるわけがないし……
 その弟子のような立場である僕も、そんな攻撃にいつまでも引っかからない。

 魔剣は受け止めて、黒い霧は避けて……
 そして、カウンターを叩き込む。

 ドクトルがぐらりとよろめいた。
 その隙を逃すことなく、追撃を叩き込む。
 ソフィアもまた、強烈な一撃を叩き込む。

 なんていうか……
 不思議な感覚だ。

 言葉を交わしていないし、目も合わせていない。
 それなのに、ソフィアが次になにをするか、なにを考えているか、手に取るようにわかる。
 僕は、それに合わせて剣を振り……
 そして、的確に攻撃が決まる。

 幼馴染だからこそなせる技だろう。

 僕はニヤリと笑う。
 ソフィアもニヤリと笑う。

 共に確信していた。
 この戦い……僕達の勝ちだ。

「この私が、こんな、こんなところでぇえええええっ、ふざけるな、ふざけるなぁあああああっ!!!」

 絶叫のような怒声と共に、ドクトルは魔剣を高く掲げた。
 今までにない黒い霧があふれだして……
 そして、それらが再び魔剣に戻る。

 いや。
 吸収しているのだろうか?
 黒い霧が収束されて、魔剣が巨大化する。

 数倍のサイズになり……
 そして、それを一気に叩き落とす!

「フェイト!」
「了解!」

 対する僕達は慌てることなく、冷静に行動した。
 あれだけの攻撃を防ぐことは難しい。
 かといって、回避したらリコリスとアイシャが巻き込まれてしまう。

 ならば……力を合わせて迎撃するのみ!

「神王竜剣術……」
「壱之太刀……」
「「破山っ!!!」」

 再びの合体攻撃。
 しかし、今度はリコリスの魔法がかけられている状態なので、威力は桁違いだ。

 二つの斬撃が、巨大な漆黒を打ち砕く!

 さらに、

「そこからの……」
「もう一撃!」
「「神王竜剣術・壱之太刀、破山っ!!!!!」」

 連撃。
 タイミングは完璧。
 そして、剣を失ったドクトルに防ぐ術はない。

「このようなことでぇえええええっ!!!!!」

 ドクトルは諦めることなく、なおも悪あがきを続けようとするが、

「いいや、終わりだよ!」
「私とフェイトの大事なものに手を出した報いを受けてもらいます!」

 ソフィアと一緒に剣を押し込んだ。
 必死に防ごうとしていたドクトルだけど、完全に詰んでいた。

 どうすることもできず、僕とソフィアの合体攻撃をまともに受けて……
 その身にまとう鎧を粉々にしつつ吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 ビシリ! と、壁に蜘蛛の巣状のヒビが広がる。

「がっ!!!?」

 肺の空気、全部を吐き出すかのような悲鳴。

 ドクトルは白目を剥いて……
 そのまま、ガクリと全身の力をなくし、床に倒れた。

「……」

 もしかしたら、こちらを油断させるための演技かもしれない。
 そう思い、剣を構えたまま様子を見るのだけど……

「大丈夫……かな?」
「はい、そうですね」

 ソフィアが剣を収めるのを見て、僕も雪水晶の剣を鞘に収めた。
 小さな吐息を一つこぼして、

「やったね、ソフィア」
「はい、私達の勝利です!」

 ソフィアと笑顔でハイタッチを交わした。