「ソフィア!」

 いつの間にかソフィアの姿が。
 いつ、どのタイミングで乱入してきたのか、まったくわからない。

 ただ一つ言えることは、彼女のおかげで命拾いしたということだ。

「ありがとう、助かったよ」
「いいえ。これくらい、なんてことはありません。それよりも……」

 ソフィアは剣を構えて、ドクトルを睨みつける。

「アイシャをひどい目に遭わせるだけではなくて、フェイトまで手にかけようとするなんて……許せませんね」

 ソフィアが駆けた。

 風よりも……いや、音よりも速い。
 その姿は幻のように消えて……
 次の瞬間、ドクトルの真横に移動していた。

 そして、剣聖による全力の一撃。

 しかし、敵もやる。
 ドクトルは魔剣を盾にして、ソフィアの一撃を受け止めた。
 やや反応が遅れていたが、それでも、直撃は避けられた。

 ゴ……ガァアアアッ!!!

 轟音と共にドクトルが吹き飛び、奥の壁に激突。
 クモの巣のように壁にヒビが入る。

「すご……」

 後ろでリコリスが小さくつぶやくのが聞こえた。
 ソフィアは、ちょっと自慢そうに胸を張る。

「もう大丈夫ですよ。あのような不届き者は、私が退治して……」
「いや……ソフィア、ダメだよ。まだ終わっていない」
「え?」

 ドクトルは体を起こして、軽く頭を横に振る。
 そして、小さな吐息。

「さすが剣聖ですね。今の一撃、なかなかに堪えましたよ」
「私の攻撃に耐えた……?」
「ソフィア、気をつけて。ドクトルは凄腕の冒険者っていうだけじゃなくて、魔剣っていう、恐ろしい力を手に入れている。その正体はよくわからないけど……ソフィアが持つ聖剣に匹敵する力がある、って言っていたよ」
「……なるほど。魔剣というのは初耳ですが、厄介な相手というのは理解しました」

 そう言うと、ソフィアは剣を収める。

 代わりに、聖剣エクスカリバーを抜いた。
 それは、剣聖ソフィア・アスカルトが本当の意味で本気を出すということ。

「フェイトは……」
「もちろん、僕も一緒に戦うよ」

 ソフィアの隣に並び、改めて雪水晶の剣を構える。

「ですが……」
「足手まといにならないように気をつけるから」
「……」
「一緒に戦おう?」
「……はい、わかりました。私の方こそ、お願いします」
「うん」

 僕は弱いかもしれない。
 ソフィアに比べたら、その力は取るに足らないのかもしれない。

 でも。

 一緒にいることで、サポートはできるはずだ。
 それは、現実的な力の問題だけじゃなくて……
 精神的な、心の問題のサポート。

 思い上がりでもなんでもない。
 あえて断言する。
 僕と一緒に戦うことで、ソフィアは、さらにパフォーマンスを上昇させることができるはずだ。

 それが、僕とソフィアの絆だ。

「二人でいきましょう」
「うん」

 ソフィアと一緒に床を蹴る。
 僕は右から
 ソフィアは左から。
 ドクトルを挟み込むようにして、突撃した。

「ふんっ、甘いですねぇ! 甘い甘い甘い!!!」

 ドクトルは魔剣を真横に構えて、僕とソフィアの同時攻撃を受け止めてみせた。
 僕はともかく、本気のソフィアの攻撃を受け止めるなんて……

 これは、思っていた以上の強敵かもしれない。
 厄介な相手という認識はあったけれど、まだまだ足りず……
 もっと上方修正した方がよさそうだ。

 一度、ソフィアと揃って距離をとる。

「ソフィア。ドクトルは、自分より上と考えた方がいいかもしれない」
「それほどの相手なのですか?」
「少なくとも、僕よりは圧倒的に上。あの魔剣がものすごく厄介で、とんでもない力をドクトルに与えているんだ」
「……わかりました。手加減抜き、本気でいきます」
「うん、がんばろう」

 作戦会議といえば、それくらい。
 細かい打ち合わせをしても、ドクトルほどの強者だとあまり意味がない。

 予想外の攻撃が飛んでくるだろうし、とっておきの切り札を隠しているはず。
 臨機応変に対応するしかないのだ。

「はぁあああ!!!」

 最初にソフィアが斬りかかる。
 剣聖の力を乗せて、さらに、聖剣エクスカリバーの痛烈な一撃だ。

 さすがに、これを避ける術はない。
 ドクトルは魔剣を横に構えて、ソフィアの攻撃を受け止めた。

 そのタイミングで僕はドクトルの横に回り込み、脚を斬りつける。

 ガッ!

 手が軽く痺れる。
 剣は鎧に弾かれてしまうが……
 それでも、ある程度の傷をつけることができた。

 致命傷でもないし深手でもない。
 軽傷。
 それでも、小さな痛みが動きを阻害することもある。

「フェイト、一緒に!」
「うん!」

 ソフィアがドクトルを吹き飛ばす。
 ソフィアは駆けて、追撃をしかける。
 僕もそれに合わせる。

「神王竜剣術……」
「壱之太刀……」

 同時に剣を繰り出す。

「「破山っ!!!」」