「アイシャ?」
「……」

 アイシャはうつむいてしまい、こちらの手を取ろうとしない。
 怖かったはずなのに。
 寂しかったはずなのに。

 それなのに、なぜか我慢をしていて……
 震えながらも、一人で耐えようとしてしまう。

「わたしは……悪い子だから。こんなわたし……助ける価値なんて、ないの……」

 アイシャは、どんな想いでその台詞を口にしたのか?
 どんな背景があって、そんな台詞を口にするに至ったのか?

 彼女の気持ちがわかるなんてこと、簡単には言えない。
 わからない。
 わからないのだけど……

 それでも。
 確かに言えることが一つ、ある。

「大丈夫だよ」
「あ……」

 アイシャをそっと抱きしめた。

 幸せになったらいけない、とか。
 助ける価値がない、とか。

 そんなことはないんだよ、と伝えるように抱きしめる。
 頭を撫でる。

「僕は、そんな風に思わないから」
「でも、わたし……」
「アイシャがなにを考えているのか、わからないよ。でも、それが絶対、っていうことはないと思うんだ。勘違いしているかもしれないし、思い込んでいるだけかもしれない。だって……そうじゃないと、寂しすぎるよ」
「で、でも……」

 アイシャは、まだ迷いを振り切れないらしく、僕から離れてしまう。
 それも仕方ないと思う。
 この子は、僕が思っている以上に、重いなにかを抱えているんだと思う。

 僕にできることは、一緒に背負うか……
 支えて、楽にしてあげること。

「すぐに気持ちを切り替えるなんて、そんな無茶は言わないよ。ただ、覚えておいてほしいんだ」
「なに……を?」
「僕がいるよ」
「……あ……」
「僕だけじゃなくて、ソフィアもいる。リコリスもいる。アイシャが辛い時、悲しい時、隣に寄り添い、支えるよ。それくらいのことはできるし、させてほしい」
「……うぅ……」
「だから、おいで?」

 手を差し出した。

 アイシャは僕の手を見て……それから、自分の手を見る。
 迷っているみたいだ。

 でも、拒絶から迷いまで進むことができたのだから、あと一歩かもしれない。
 その一歩を、無理矢理に誘うことはできない。
 こればかりは、アイシャが決めるしかない。

 そうでないと、きっと、どこかで心にしこりが残る。
 やがて、それは大きくなり、後々の問題に発展すると思う。

 だから……

 アイシャ、僕の手を取って。
 心の中で強く祈り、願う。

「……っ!」

 五分ほどの迷いの後、アイシャは、そっと手を伸ばしてきた。
 恐る恐るという感じで、すごくゆっくりだ。
 でも、急かすようなことはしない。
 心の中で応援しつつ、彼女の勇気を見守る。

 そして……

 そっと、アイシャの手が僕の手に触れた。
 迎え入れるように、小さな手を優しく握る。

「がんばったね」
「……よく、わからないの。でも……」

 アイシャは、泣いているような笑っているような、そんな顔で僕を見る。

「フェイトの手……温かいね」