「はぁっ!」

 こちらに向かう私兵を薙ぎ払う。

 剣を棍棒のように使うという荒業。
 一応、ここにいる全員は捕まえて、きちんとした裁きを受けさせなければならない。
 なので、できる限りは命はとらないようにしていた。

 身体能力はともかく、僕の剣の技術はまだまだ拙い。
 そんな僕が、大勢を相手に手加減をできるというのはリコリスのおかげだ。

「フェイト、次、五秒後に部屋から出てくるわ!」
「了解!」

 妖精だけが使える魔法で、リコリスは、いつどのタイミングで敵がやってくるかわかるらしい。
 いわば、ナビだ。

 そのおかげで、奇襲を受けることはないし、逆に奇襲をしかけることができる。
 本当に頼もしい。

 敵を打ち倒して。
 障害を排除して。
 ぐんぐんと突き進む。

 そして……

「ここ……かな?」

 地下の最奥の部屋。
 そこに、一際厳重な扉が見えた。
 一部、扉に窓がついていて、中の様子を確認できるようになっている。

 そこから中を覗いてみると……

「アイシャ!」
「……ふぇ?」

 ベッドで膝を抱えるアイシャの姿が見えた。

 窓一つない部屋。
 ただ、ひどい扱いは受けていないみたいで、傷はないように見える。

「ふぇい……と?」

 アイシャは信じられないものを見るような顔に。

 たぶん、僕に見捨てられたと思っているのだろう。
 そして、今更なんでここに? と疑問を抱いているのだろう。

 胸がズキリと痛む。
 幼い彼女の信頼を裏切るようなことをしてしまうなんて……

 もう二度と、そんなことはしない。
 誰にも踏みにじらせない。
 固く誓った。

「アイシャ、危ないから扉から離れて」
「え……?」
「大丈夫、怖いことはなにもないから」
「えと……う、うん」

 アイシャは戸惑った様子を見せつつも、部屋の奥に移動してくれた。

 よし。
 これで、遠慮なくおもいきりやれる。

「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!!!」

 何者も寄せつけないような頑丈な扉だけど……
 ソフィアが教えてくれた剣術に敵うことはなくて、一気に吹き飛んだ。

 ゴォッ! という轟音。
 埃が舞い上がる。

「アイシャ、おまたせ」
「おま……たせ?」

 部屋に入り、奥にいるアイシャの前へ移動する。
 やはり、彼女は不思議そうにしていた。

「なんの、こと……?」
「ごめんね、こんなことになって。信じてもらえないかもしれないけど、僕達はアイシャを見捨てたわけじゃなくて……いや、これは言い訳だね。とにかく、ごめん。怖い思いをしたよね?」
「ふぇ……」
「でも、今度こそ大丈夫だから」

 アイシャの小さな手をそっと握る。

「もう、絶対に離さないから」
「……」

 アイシャのつぶらな瞳が僕に向いた。
 次いで、繋いだ手を見る。

「……一緒に、いてくれる?」

 恐る恐るという感じで、小さな声で問いかけてきた。

「わたし、一人ぼっちで……イヤ、だから……一緒にいてほしいの」
「もちろん」
「……っ……」
「今度こそ約束するよ。一緒にいるから。絶対にこの手を離さないよ」
「ホント……?」
「本当」

 じっと見つめられる。
 僕の言葉の真偽を確かめようとしているかのようだ。

 じーっと見つめて……
 それから、おもむろに顔を近づけてきた。
 すんすんと匂いを嗅ぐ。

「アイシャ……?」
「本当の匂い……それに、落ち着くの」

 アイシャは元の位置に戻ると、

「……でも、やっぱりわたしは」

 アイシャは、

「幸せになったらいけないの……」

 今にも泣き出しそうな顔をしつつ、そんなことを言うのだった。