「それはどういうこと!?」
アイシャを見つけた、というウソの報告はしたものの……
本当にアイシャがドクトルに捕まってしまうなんて。
さすがに、この展開は予想していなかった。
驚きと焦燥と……そして、疑念。
思わずクリフを睨みつけてしまう。
僕だけじゃなくて、ソフィアとリコリスもクリフに厳しい目を向けている。
「すまない……連中がこれほどまでのバカだなんて思わなかった」
「それは、どういう意味なのですか? なにが起きたのか、詳細に説明してください」
「うん、もちろんだ。説明をする責任があるし……それと、あの子を助ける義務もある。その話もさせてほしい」
申しわけない、ともう一度頭を下げた後、クリフは事の経緯を説明してくれた。
クリフは、アイシャを絶対に信頼できる相手に預けていたらしい。
右腕といえるような存在で、仕事の能力も戦闘能力もどちらも長けていて、また、長年の親友であるとか。
クリフは表に立って色々と動かないといけないため、アイシャの保護は難しい。
しかし、親友ならば……と思い、彼にアイシャの保護を依頼したらしい。
ただ、ここで問題が起きた。
ドクトルの仲間、ファルツ・ルッツベインが動いたのだ。
聞くところによると、ファルツは、ここ最近は失敗続き。
なんとか汚名返上しようと焦っていたらしく、起死回生の策を考えていたという。
そして……
クリフの右腕である親友を襲撃するという、無謀でメチャクチャな計画を思いついた。
親友を失えばクリフの力は大きく削がれるだろう、と考えてのことだろうが……
そんなことを理由なくすれば、いくら冒険者協会の幹部とはいえ罰は免れない。
ただ、ファルツはそんなことも考えられないほどの愚か者らしく、計画を実行に移してしまった。
結果、親友は大怪我を負い、アイシャはさらわれてしまった……とのことだった。
「本当にすまない! あの子のことは、しっかりと保護すると約束したというのに……謝って済むことじゃないのはわかっているんだけど、それでも、本当にすまないっ!!!」
「それは……うん。クリフのせいじゃないよ」
「私も同意です。話を聞く限り、クリフは万全の体勢を敷いていたみたいですし……」
「バカがバカすぎたから、バカを予想できなくても仕方ないんじゃない? っていうか、そこまでバカの行動を読めたとしたら、その方がおかしいわよ」
リコリスの言う通りだ。
そこまで後先考えない行動に出るなんて、普通は考えない。
逆に、そこまでの可能性を考えて警戒している方が、ちょっとおかしいと思う。
だから、クリフに非はないと思うんだけど……
「とにかくも、誰に責任があるとか、そういう話は後にしよう。今は、アイシャのことを考えないと」
「そうですね。このままだと、アイシャは奴隷として売られてしまいます。それだけは、防がないといけません」
「うん。それは絶対にダメだよ……そんなこと、許せるわけがない!」
自分の境遇と重ねているのかもしれない。
だから、アイシャのことが気になる、放っておけない。
クリフが顎に手をやり、考える仕草をとる。
「僕が言えるようなことじゃないが、のんびりはしていられないね。すぐに準備をして、それからドクトルの屋敷に突入した方がいいかもしれない」
「そんなことをして、大丈夫なのですか?」
「……よくはないね」
クリフは苦い顔をするが、言葉は止めない。
「突入しても、すぐに制圧できるわけじゃない。ドクトルは証拠を処分、あるいは隠すだろうし……最悪、逃げられるね。そして、後で反撃される」
「そうなると、クリフ的にはまずいんじゃないの? ドクトルってヤツを叩きのめすのが目的なのに、まったく正反対の結果になっちゃうじゃない」
「そうだね。望ましくはない。だから、確実にドクトルを叩き潰せる時まで待ってほしい」
「それは、いつ?」
「オークションが開催される日だね。現場を抑えることができれば、これ以上ないほどの証拠になる。それ以前に叩いたとしても、証拠不十分だったりトカゲのしっぽ切りで、ドクトルの完全失脚までは狙えない。また力をつけて、再びアイシャを狙うかもしれない」
「……」
クリフの言うことは正論なのだけど……
「でも、その間にアイシャは酷い目に遭うかもしれない」
「……」
「別のルートで売られないとも限らない。そのことを考えると、時間はあげられないよ。今すぐに助けに行く」
それが僕の結論だ。
ドクトルが再び狙ってきたとしても、今度は、僕達が守る。
「いや、待ってくれないかな? アイシャの安全については問題ない」
「それは、どういう?」
「密偵からの報告で、アイシャは奴隷とは思えない好待遇を受けているみたいなんだ。なにかしら暴力を受けている、という報告もない」
「それは……」
「どういう……?」
「普通、奴隷にそんなことしないわよね?」
みんなで首を傾げる。
「正直なところ、僕もよくわからないんだよね。アイシャは、てっきり、高値がつく獣人族だから狙われているんだと思っていたんだけど……もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。ドクトルは、彼女を奴隷として売るためじゃなくて、別の目的で探していたのかもしれない」
「その理由は?」
「それはわからないかな。ただ、ドクトルはアイシャに危害を加えるつもりはないよ。売り飛ばすこともないと思う。その点については、今度こそ絶対の絶対だね」
「……」
どう思う? とソフィアを見る。
考えるような間の後、信じてみてもいいのでは? という感じで頷いた。
「……うん、わかったよ。クリフを信じる」
「ありがとう」
「ただ、アイシャに関する情報は毎日提供して。それで、少しでも彼女に危害が及びそうなら、その時は、即座に動くから」
「わかった、それで構わないよ。元々、無理を言っているのはこちらだからね。その時は、僕も全力で支援すると約束しよう」
――――――――――
作戦会議を終えた後……
クリフは下準備をするため、別のところへ。
僕達はドクトルの屋敷へ戻った。
そして、彼の執務室を訪ねる。
「戻りました」
「あぁ、キミ達ですか」
僕達の姿を確認したドクトルは、一瞬、鋭い目になる。
ファルツからアイシャを確保したと連絡を受けているのだろう。
僕達の説明と若干、食い違う点が気になり、怪しんでいるのだと思う。
なので、決定的に怪しまれる前に手を打つ。
「アイシャのことで、少し報告しておきたいことがあるんですが……」
「うん? どういうことですか?」
「どうも、僕達が想定していたよりも早く街についてきたみたいで。迷子になり、冒険者ギルドを訪ねたみたいですが、その後の行動がわからず……」
「ふむ、なるほど……そういうことなら、心配はいりませんよ。私の友人が、さきほど、アイシャを見つけてくれたので」
「そうなんですか? それならよかった」
「どちらにしても、お二人がいなければアイシャを迎えることはできませんでした。深く感謝します」
ドクトルは笑顔でそう言う。
僕達に小さな疑いは抱いたけど、でも、それはまだ決定的なものじゃない。
どうとでもごまかせる範囲……そう感じた。
これなら、まだなんとかなるかもしれないな。
「なら、依頼完了ということで。次の仕事はありますか?」
ここで、オークション関係の仕事を頼まれるのがベスト。
別の仕事なら、適当にこなすフリをしつつ、オークションの情報を探る。
仕事がないなら、やはり情報を探る。
「そうですね……実は、数日後に少し大きな仕事が控えていまして。ただ、私が掴んだ情報によると、その仕事を邪魔しようとする不届きな輩がいるらしいのです」
その不届きな輩というのは、クリフのことだ。
クリフが動いていますよ、とあえて情報を流してもらい、ドクトルの警戒心を煽る。
そして……
「なので、仕事を手伝っていただけませんか? 主に警備ですね」
僕達に仕事が回ってくるようにする。
それが目的だ。
クリフは、Sランク以上の力を持つ。
そんな敵を作るとしたら、きっと、ソフィアを頼りにするだろうと踏んでのことだ。
「わかりました」
「私達でよければ」
今のところ、作戦は順調だ。
アイシャ……すぐに助けるから、待ってて。
アイシャを見つけた、というウソの報告はしたものの……
本当にアイシャがドクトルに捕まってしまうなんて。
さすがに、この展開は予想していなかった。
驚きと焦燥と……そして、疑念。
思わずクリフを睨みつけてしまう。
僕だけじゃなくて、ソフィアとリコリスもクリフに厳しい目を向けている。
「すまない……連中がこれほどまでのバカだなんて思わなかった」
「それは、どういう意味なのですか? なにが起きたのか、詳細に説明してください」
「うん、もちろんだ。説明をする責任があるし……それと、あの子を助ける義務もある。その話もさせてほしい」
申しわけない、ともう一度頭を下げた後、クリフは事の経緯を説明してくれた。
クリフは、アイシャを絶対に信頼できる相手に預けていたらしい。
右腕といえるような存在で、仕事の能力も戦闘能力もどちらも長けていて、また、長年の親友であるとか。
クリフは表に立って色々と動かないといけないため、アイシャの保護は難しい。
しかし、親友ならば……と思い、彼にアイシャの保護を依頼したらしい。
ただ、ここで問題が起きた。
ドクトルの仲間、ファルツ・ルッツベインが動いたのだ。
聞くところによると、ファルツは、ここ最近は失敗続き。
なんとか汚名返上しようと焦っていたらしく、起死回生の策を考えていたという。
そして……
クリフの右腕である親友を襲撃するという、無謀でメチャクチャな計画を思いついた。
親友を失えばクリフの力は大きく削がれるだろう、と考えてのことだろうが……
そんなことを理由なくすれば、いくら冒険者協会の幹部とはいえ罰は免れない。
ただ、ファルツはそんなことも考えられないほどの愚か者らしく、計画を実行に移してしまった。
結果、親友は大怪我を負い、アイシャはさらわれてしまった……とのことだった。
「本当にすまない! あの子のことは、しっかりと保護すると約束したというのに……謝って済むことじゃないのはわかっているんだけど、それでも、本当にすまないっ!!!」
「それは……うん。クリフのせいじゃないよ」
「私も同意です。話を聞く限り、クリフは万全の体勢を敷いていたみたいですし……」
「バカがバカすぎたから、バカを予想できなくても仕方ないんじゃない? っていうか、そこまでバカの行動を読めたとしたら、その方がおかしいわよ」
リコリスの言う通りだ。
そこまで後先考えない行動に出るなんて、普通は考えない。
逆に、そこまでの可能性を考えて警戒している方が、ちょっとおかしいと思う。
だから、クリフに非はないと思うんだけど……
「とにかくも、誰に責任があるとか、そういう話は後にしよう。今は、アイシャのことを考えないと」
「そうですね。このままだと、アイシャは奴隷として売られてしまいます。それだけは、防がないといけません」
「うん。それは絶対にダメだよ……そんなこと、許せるわけがない!」
自分の境遇と重ねているのかもしれない。
だから、アイシャのことが気になる、放っておけない。
クリフが顎に手をやり、考える仕草をとる。
「僕が言えるようなことじゃないが、のんびりはしていられないね。すぐに準備をして、それからドクトルの屋敷に突入した方がいいかもしれない」
「そんなことをして、大丈夫なのですか?」
「……よくはないね」
クリフは苦い顔をするが、言葉は止めない。
「突入しても、すぐに制圧できるわけじゃない。ドクトルは証拠を処分、あるいは隠すだろうし……最悪、逃げられるね。そして、後で反撃される」
「そうなると、クリフ的にはまずいんじゃないの? ドクトルってヤツを叩きのめすのが目的なのに、まったく正反対の結果になっちゃうじゃない」
「そうだね。望ましくはない。だから、確実にドクトルを叩き潰せる時まで待ってほしい」
「それは、いつ?」
「オークションが開催される日だね。現場を抑えることができれば、これ以上ないほどの証拠になる。それ以前に叩いたとしても、証拠不十分だったりトカゲのしっぽ切りで、ドクトルの完全失脚までは狙えない。また力をつけて、再びアイシャを狙うかもしれない」
「……」
クリフの言うことは正論なのだけど……
「でも、その間にアイシャは酷い目に遭うかもしれない」
「……」
「別のルートで売られないとも限らない。そのことを考えると、時間はあげられないよ。今すぐに助けに行く」
それが僕の結論だ。
ドクトルが再び狙ってきたとしても、今度は、僕達が守る。
「いや、待ってくれないかな? アイシャの安全については問題ない」
「それは、どういう?」
「密偵からの報告で、アイシャは奴隷とは思えない好待遇を受けているみたいなんだ。なにかしら暴力を受けている、という報告もない」
「それは……」
「どういう……?」
「普通、奴隷にそんなことしないわよね?」
みんなで首を傾げる。
「正直なところ、僕もよくわからないんだよね。アイシャは、てっきり、高値がつく獣人族だから狙われているんだと思っていたんだけど……もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。ドクトルは、彼女を奴隷として売るためじゃなくて、別の目的で探していたのかもしれない」
「その理由は?」
「それはわからないかな。ただ、ドクトルはアイシャに危害を加えるつもりはないよ。売り飛ばすこともないと思う。その点については、今度こそ絶対の絶対だね」
「……」
どう思う? とソフィアを見る。
考えるような間の後、信じてみてもいいのでは? という感じで頷いた。
「……うん、わかったよ。クリフを信じる」
「ありがとう」
「ただ、アイシャに関する情報は毎日提供して。それで、少しでも彼女に危害が及びそうなら、その時は、即座に動くから」
「わかった、それで構わないよ。元々、無理を言っているのはこちらだからね。その時は、僕も全力で支援すると約束しよう」
――――――――――
作戦会議を終えた後……
クリフは下準備をするため、別のところへ。
僕達はドクトルの屋敷へ戻った。
そして、彼の執務室を訪ねる。
「戻りました」
「あぁ、キミ達ですか」
僕達の姿を確認したドクトルは、一瞬、鋭い目になる。
ファルツからアイシャを確保したと連絡を受けているのだろう。
僕達の説明と若干、食い違う点が気になり、怪しんでいるのだと思う。
なので、決定的に怪しまれる前に手を打つ。
「アイシャのことで、少し報告しておきたいことがあるんですが……」
「うん? どういうことですか?」
「どうも、僕達が想定していたよりも早く街についてきたみたいで。迷子になり、冒険者ギルドを訪ねたみたいですが、その後の行動がわからず……」
「ふむ、なるほど……そういうことなら、心配はいりませんよ。私の友人が、さきほど、アイシャを見つけてくれたので」
「そうなんですか? それならよかった」
「どちらにしても、お二人がいなければアイシャを迎えることはできませんでした。深く感謝します」
ドクトルは笑顔でそう言う。
僕達に小さな疑いは抱いたけど、でも、それはまだ決定的なものじゃない。
どうとでもごまかせる範囲……そう感じた。
これなら、まだなんとかなるかもしれないな。
「なら、依頼完了ということで。次の仕事はありますか?」
ここで、オークション関係の仕事を頼まれるのがベスト。
別の仕事なら、適当にこなすフリをしつつ、オークションの情報を探る。
仕事がないなら、やはり情報を探る。
「そうですね……実は、数日後に少し大きな仕事が控えていまして。ただ、私が掴んだ情報によると、その仕事を邪魔しようとする不届きな輩がいるらしいのです」
その不届きな輩というのは、クリフのことだ。
クリフが動いていますよ、とあえて情報を流してもらい、ドクトルの警戒心を煽る。
そして……
「なので、仕事を手伝っていただけませんか? 主に警備ですね」
僕達に仕事が回ってくるようにする。
それが目的だ。
クリフは、Sランク以上の力を持つ。
そんな敵を作るとしたら、きっと、ソフィアを頼りにするだろうと踏んでのことだ。
「わかりました」
「私達でよければ」
今のところ、作戦は順調だ。
アイシャ……すぐに助けるから、待ってて。