7話 落ちぶれていくAランクパーティー

 その日、シグルド達はダンジョン攻略に挑んでいた。

 挑むダンジョンのランクはC。
 Aランクパーティーのシグルド達にとっては楽勝といえるはずなのだけど……

「くそっ、うっとうしい!」

 シグルドは苛立ち混じりに叫び、豪腕で剣を振り回した。
 複数の魔物が同時に両断される。

 しかし、次から次に魔物が湧いてきた。
 スタンピードが起きているのではないかと思うほどの数だ。

「あーもうっ、全然減らないんですけど!」
「くっ……低ランクの魔物といえど、これだけの数が揃うと厄介ですね」

 ミラとレクターも必死で応戦するものの、倒すよりも増援が現れる方の速度が早い。
 次第に押し込まれていく。

「ちっ、なんでこんな数の魔物が……おいっ、レクター! コイツはスタンピードか?」
「いえ、その可能性はゼロですね。ダンジョン内でスタンピードが発生したなんて話、聞いたことがありません」
「じゃあさ、モンスターハウスっていう線は?」
「それもないかと……見ての通り、ここは普通の通路。モンスターハウスは、それなりの広さを持つ場所になりますからね」
「じゃあ、なんでこんなに魔物が現れてくるんだよ、くそっ」

 今までは大量の魔物が現れることはなくて、今になって、大量の魔物が出現するようになった。
 違いはなにか?

 フェイトがいるかいないか、という点だ。

 本人も自覚していないことではあるが……
 圧倒的な身体能力を持つフェイトは、魔物からしてみれば、とてつもない強者として映っていた。

 あの人間はやばい。
 一目見てわかる、化け物だ。
 絶対に敵うことはない。

 そう判断した魔物達が恐れ、近づこうとしなかった。
 だから、今までは必要最低限の魔物しか出現することはなかった。

 しかし、今はフェイトがいない。
 シグルド、ミラ、レクターは、魔物達からコイツらなら問題ないと判断されて、総攻撃を受けている……というわけだ。

「やばいって、シグルド! 撤退しよ? このままじゃ、押し切られちゃうって」
「くっ……この俺がCランクのダンジョンの攻略に失敗するなんてこと……」
「シグルド、不本意でしょうが、ここは……」
「……くそっ! 撤退するぞ! おい、てめえが殿を……」

 いつものようにフェイトに囮をやらせようとするが、そのフェイトがいないことに気がついて、シグルドはぐぬぬと唸る。

 殿は必要だ。
 しかし、危険な役目なんてやりたくない。

 三人が共にそんなことを考えていて……
 結局、あちらこちらを負傷してしまい、ダンジョンから撤退するのに、今までの倍以上の時間がかかってしまった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……やっと、外に出たか……」
「あー……もうマジやばい。死んじゃう、本気で死んじゃう……」
「くっ……武器もそうですが、探索用のアイテムの消費もひどいですね。全て使い切ってしまったので、新しく補充しないと……」
「それよりも、怪我の手当だ。おい、無能……って、くそ。あいつはいないんだったな」

 いつもの癖でフェイトを呼んでしまい、シグルドは苦い顔になる。

 これで二度目だ。
 こうなると、自分がフェイトを頼りにしているみたいではないか。
 苦い思いが湧き上がり、自然と顔が歪む。

「レクター、薬をくれ」
「はい、どうぞ」
「おう、サンキュー……って、これは安物のポーションじゃねえか!?」

 シグルドが渡されたのは、初心者冒険者が使うようなポーションだ。
 安価でいつでも入手できるものの、治療効果は低い。

 せいぜいが血を止める程度。
 それ以上の怪我には大して効果がなくて、痛みを緩和することもできない。

「おい、こんなポーションで治療できるわけねえだろ」
「これは……申しわけありません。間違えて購入していたようです」
「間違えて、って、こんなもんどうやって間違えるんだよ」
「それは……今までは、あの無能が全ての準備をしていたため……」
「くそっ、アイツのせいか」

 シグルドが舌打ちした。

 なぜか、フェイトのせいにされてしまう。
 完全に関係ないが……
 彼の中では、そうすることが当たり前となっていて、疑問に思うことはない。

「ちっ、イライラするぜ。こんな時にサンドバッグがいないことは残念だな」
「そうですね。無能は無能なりに役割があった、ということですか」
「無能のことなんて、どうでもよくない? それよりもあたし、お腹が空いたんだけど」
「レクター、飯は?」
「……」
「おい、まさか……」
「申しわけありません。いつも無能が準備をしているため……」
「ちっ」

 二度目のミスに、シグルドは本気の舌打ちをした。

 ただ、彼も彼で見落としをしている。
 パーティーのリーダーなのだから、諸々の確認、チェックはシグルドの仕事なのだ。
 それを怠っているために、仲間を責める責任なんてない。

「あの無能野郎は役立たずだが、いなくなると面倒だな……ちっ、なんで俺達が雑用なんてやらなくちゃならねえんだ」
「そうそう、それ、めっちゃ賛成。あたしらがするような仕事じゃないし」
「私達の仕事は別にありますからね。雑務などという低レベルな仕事は、奴隷にでも任せればいいのです」

 その低レベルな仕事もまともにこなせていないのだが……
 そのことに気がついた様子もなく、三人は不満を口にする。

「シグルド、提案なのですが……あの無能を連れ戻しませんか?」
「そうだな……確かに、雑用係は必要だな。だが、どうする? 奴隷の契約は断たれたし、あの無能の傍には剣聖がいるぞ?」
「なに、僕に任せてください」

 レクターは、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。