わっ、と歓声があがり、ついつい驚いてしまう。
男のことはまるで気にしていないらしく、大多数の人が笑顔でこちらに拍手を送っていた。
頭の上のリコリスがふわりと飛んで、僕の頬をつつく。
「ほら、ぼーっとしてないで、手でも振って応えてあげなさいよ」
「あ、うん。こうかな?」
言われた通りに手を降ると、さらに歓声が大きくなり、さらに驚いてしまう。
そんな僕を見て、リコリスが苦笑する。
「もっと堂々としてなさいよ。あいつらにとって、フェイトは新しく誕生した英雄みたいなものなんだから」
「そう、言われても……うーん?」
前にも、ソフィアに似たようなことを言われたことがあるけど……
英雄とか、そんなのは僕の柄じゃないし、望んでいることでもない。
僕が望むことは、ただ一つ。
ソフィアにふさわしい男になることだ。
「フェイト」
「うわっ、ソフィア!?」
どこからともなくソフィアが現れて、さらにさらに驚いてしまう。
なぜか、にこにこ笑顔。
とても機嫌が良さそうだ。
「戻ってきていたんだ」
「ええ、少し前に」
「え? それじゃあ……」
「はい。フェイトの決闘、見ていました」
「あー……」
ものすごく気まずい。
騒ぎを起こさず、きちんとソフィアを待つことが正しい行動だと思うのに……
それを破って、自ら騒動を起こしていたからな。
それなのにソフィアは怒るわけじゃなくて、むしろ笑顔。
どういうことだろう?
「えっと……ごめんね。おとなしくしておいた方がいいはずなのに、自分から騒ぎを起こしちゃって」
「そうですね。私達の目的を考えるのなら、フェイトの行動はマイナスです」
「う……」
「ですが、私はとてもうれしかったですよ」
そう言うソフィアは、声まで優しい。
とろけるような感じで、本当に、心の底からうれしいという印象だ。
「大好きな人が私のために怒って、戦ってくれる……女として、これ以上うれしいことはありません。ありがとうございます、フェイト。私に女の喜びを与えてくれて」
「あ、うん……どういたしまして……」
「人前なので我慢していますが、二人きりだったら、今すぐに抱きつきたいくらいうれしいのですよ?」
「え、えっと……」
「その時は、フェイトも優しく抱きしめてくださいね。フェイトの温もりを感じると、とても落ち着くことができて、あと、幸せな気持ちになることができるんです」
「うん、それは僕も同じだよ。ソフィアが笑ってくれるだけで、僕は幸せになることができるんだ」
照れつつ、僕はしどろもどろに答えて、
「けっ……リア充め、爆発しなさいよ」
蚊帳の外に置き去りにしてしまったリコリスは、ふてくされていた。
「……ところで、アイシャは?」
念の為に声を潜めて尋ねる。
「大丈夫ですよ。クリフに預かってもらいました」
「なるほど、それなら安心できるかもね」
クリフのことはそれなりに信頼している。
ずっと、となると無理があるだろうけど……
短期間なら問題ないだろう。
でも、その後、どうするかだよな。
ずっと預けておくわけにはいかないし、アイシャのことをちゃんと考えておかないと。
「いやー、すばらしい」
振り返ると、ドクトルの姿が。
「一部始終、見させていただきました」
「あ、はい」
「彼は私の専任の一人で、上位に位置する冒険者なのですが……まさか、そんな彼を赤子のように扱ってしまうなんて。スティアート殿の力はとてつもないですな」
「いえ、そんな。運が良かっただけですよ」
「謙遜なさらず。とても素晴らしいと思いました……おや? 剣聖殿は戻ってきていたのですね。私は、ドクトル・ブラスバンド。冒険者協会の幹部を務めています」
「はじめまして。私は、ソフィア・アスカルト。若輩者ではありますが、剣聖の称号を授かっています」
ソフィアはにっこりと笑い、優雅にお辞儀をしてみせた。
この切り替えの速度が、さすが、なんてことを思ってしまう。
「お会いできるのを楽しみにしておりました。若いだけではなく、とても綺麗なのですな」
「そんな、それほどでもありません」
ソフィアは笑顔だけど、でも、僕には本気で笑っていないことがわかる。
彼女が今考えていることは……
ありきたりなお世辞なんていらないから、どうでもいい。
というような感じだろうか?
ソフィアって、敵と認定した相手には情けゼロで完璧に容赦がないからなあ。
事前の情報もあるから、ドクトルは、すでに敵認定されかけているみたいだ。
かわいそうに。
合掌。
「色々と話をさせていただければと思いますが……まずは、宴を楽しみ、ゆっくりと休んでください。話は明日にいたしましょう」
「ええ、了解しました。明日を楽しみにしています」
「こちらこそ。おっと、では、私は他にやることがあるためここで失礼いたします」
ドクトルは一礼して、別のところへ消えた。
「今のがドクトル・ブラスバンドですか……」
「ソフィアは、どんな印象を持った?」
「なかなかの食わせ者ですね。物腰は丁寧ですが、目はに猛禽類を思わせるほどに鋭く、気を抜くことはできません」
「うん、やっぱりそういう感想になるよね」
僕の感想も、ソフィアとほぼほぼ同じだ。
紳士に見えて、しかし、心の中に獣を飼っている。
隙を見せれば容赦なく食らいついてくるだろう。
「とりあえず、怪しまれないように適度にパーティーを楽しんで……」
「それから部屋に戻って、細かい情報を共有しましょうか」
「飲むわ! 食べるわ!」
リコリスがうれしそうに声を大きくして……
その様子に、僕とソフィアは揃って苦笑した。
――――――――――
パーティーが終わり、ソフィアと一緒に部屋へ戻る。
用意された寝室は豪華なところで、三人で使用するにはもったいないくらいだ。
ただ一つ、大きな問題があった。
それは……
「……ベッドが一つしかない」
男のことはまるで気にしていないらしく、大多数の人が笑顔でこちらに拍手を送っていた。
頭の上のリコリスがふわりと飛んで、僕の頬をつつく。
「ほら、ぼーっとしてないで、手でも振って応えてあげなさいよ」
「あ、うん。こうかな?」
言われた通りに手を降ると、さらに歓声が大きくなり、さらに驚いてしまう。
そんな僕を見て、リコリスが苦笑する。
「もっと堂々としてなさいよ。あいつらにとって、フェイトは新しく誕生した英雄みたいなものなんだから」
「そう、言われても……うーん?」
前にも、ソフィアに似たようなことを言われたことがあるけど……
英雄とか、そんなのは僕の柄じゃないし、望んでいることでもない。
僕が望むことは、ただ一つ。
ソフィアにふさわしい男になることだ。
「フェイト」
「うわっ、ソフィア!?」
どこからともなくソフィアが現れて、さらにさらに驚いてしまう。
なぜか、にこにこ笑顔。
とても機嫌が良さそうだ。
「戻ってきていたんだ」
「ええ、少し前に」
「え? それじゃあ……」
「はい。フェイトの決闘、見ていました」
「あー……」
ものすごく気まずい。
騒ぎを起こさず、きちんとソフィアを待つことが正しい行動だと思うのに……
それを破って、自ら騒動を起こしていたからな。
それなのにソフィアは怒るわけじゃなくて、むしろ笑顔。
どういうことだろう?
「えっと……ごめんね。おとなしくしておいた方がいいはずなのに、自分から騒ぎを起こしちゃって」
「そうですね。私達の目的を考えるのなら、フェイトの行動はマイナスです」
「う……」
「ですが、私はとてもうれしかったですよ」
そう言うソフィアは、声まで優しい。
とろけるような感じで、本当に、心の底からうれしいという印象だ。
「大好きな人が私のために怒って、戦ってくれる……女として、これ以上うれしいことはありません。ありがとうございます、フェイト。私に女の喜びを与えてくれて」
「あ、うん……どういたしまして……」
「人前なので我慢していますが、二人きりだったら、今すぐに抱きつきたいくらいうれしいのですよ?」
「え、えっと……」
「その時は、フェイトも優しく抱きしめてくださいね。フェイトの温もりを感じると、とても落ち着くことができて、あと、幸せな気持ちになることができるんです」
「うん、それは僕も同じだよ。ソフィアが笑ってくれるだけで、僕は幸せになることができるんだ」
照れつつ、僕はしどろもどろに答えて、
「けっ……リア充め、爆発しなさいよ」
蚊帳の外に置き去りにしてしまったリコリスは、ふてくされていた。
「……ところで、アイシャは?」
念の為に声を潜めて尋ねる。
「大丈夫ですよ。クリフに預かってもらいました」
「なるほど、それなら安心できるかもね」
クリフのことはそれなりに信頼している。
ずっと、となると無理があるだろうけど……
短期間なら問題ないだろう。
でも、その後、どうするかだよな。
ずっと預けておくわけにはいかないし、アイシャのことをちゃんと考えておかないと。
「いやー、すばらしい」
振り返ると、ドクトルの姿が。
「一部始終、見させていただきました」
「あ、はい」
「彼は私の専任の一人で、上位に位置する冒険者なのですが……まさか、そんな彼を赤子のように扱ってしまうなんて。スティアート殿の力はとてつもないですな」
「いえ、そんな。運が良かっただけですよ」
「謙遜なさらず。とても素晴らしいと思いました……おや? 剣聖殿は戻ってきていたのですね。私は、ドクトル・ブラスバンド。冒険者協会の幹部を務めています」
「はじめまして。私は、ソフィア・アスカルト。若輩者ではありますが、剣聖の称号を授かっています」
ソフィアはにっこりと笑い、優雅にお辞儀をしてみせた。
この切り替えの速度が、さすが、なんてことを思ってしまう。
「お会いできるのを楽しみにしておりました。若いだけではなく、とても綺麗なのですな」
「そんな、それほどでもありません」
ソフィアは笑顔だけど、でも、僕には本気で笑っていないことがわかる。
彼女が今考えていることは……
ありきたりなお世辞なんていらないから、どうでもいい。
というような感じだろうか?
ソフィアって、敵と認定した相手には情けゼロで完璧に容赦がないからなあ。
事前の情報もあるから、ドクトルは、すでに敵認定されかけているみたいだ。
かわいそうに。
合掌。
「色々と話をさせていただければと思いますが……まずは、宴を楽しみ、ゆっくりと休んでください。話は明日にいたしましょう」
「ええ、了解しました。明日を楽しみにしています」
「こちらこそ。おっと、では、私は他にやることがあるためここで失礼いたします」
ドクトルは一礼して、別のところへ消えた。
「今のがドクトル・ブラスバンドですか……」
「ソフィアは、どんな印象を持った?」
「なかなかの食わせ者ですね。物腰は丁寧ですが、目はに猛禽類を思わせるほどに鋭く、気を抜くことはできません」
「うん、やっぱりそういう感想になるよね」
僕の感想も、ソフィアとほぼほぼ同じだ。
紳士に見えて、しかし、心の中に獣を飼っている。
隙を見せれば容赦なく食らいついてくるだろう。
「とりあえず、怪しまれないように適度にパーティーを楽しんで……」
「それから部屋に戻って、細かい情報を共有しましょうか」
「飲むわ! 食べるわ!」
リコリスがうれしそうに声を大きくして……
その様子に、僕とソフィアは揃って苦笑した。
――――――――――
パーティーが終わり、ソフィアと一緒に部屋へ戻る。
用意された寝室は豪華なところで、三人で使用するにはもったいないくらいだ。
ただ一つ、大きな問題があった。
それは……
「……ベッドが一つしかない」