でたらめな軌道を描きつつ、リコリスが宙を飛び、こちらに迫る。
 時折、魔法を使い、攻撃をしかけてきた。

「敵を正気に戻すはずが、自分が操られて戻ってくるなんて!?」
「というか、リコリスがテイムされるなんて、彼女は魔物なのでしょうか……? 腹黒いところもあるから、そこで同じものと判定された……?」
「とにかく、なんとかしないと!」

 リコリスは洞窟内の高いところを飛んで、散発的に攻撃を繰り返している。

 さっき、彼女自身が言っていたことだけど、強力な魔法は使えないらしく、その攻撃はあまり脅威じゃない。
 ただ、こちらから手を出すことはできないし……
 下手に手を出しても、手加減できず、バッサリ……なんていうことになってしまうかもしれない。

 これは、どうしたら?

「キャキャキャ!」
「腹の立つ笑い声ですね……操られているとはいえ、モヤモヤします」
「リコリスに悪気はないから……」
「ええ、わかっています。なので、すぐに終わらせることにします」
「え?」

 ソファアが駆けた。
 ……地面ではなくて、壁を駆けた。

 そのままの勢いで、逆さになり、天井を駆けて……

「はい、終わりです」
「ピャ!?」

 リコリスをキャッチして、再び地面に戻る。

「ムキャー! キキャー!」
「暴れないでくださいね。下手に動いたら、うっかりと握りつぶしてしまいそうです」
「ピッ……!?」

 ソフィアが脅しをかけると、リコリスはおとなしくなる。
 操られていても、生存本能的なもので危機感は覚えるらしい。

「それにしても、冗談でも握りつぶすなんて言うと、ちょっとびっくりしちゃうよ」
「え?」
「え?」

 ……

「リコリスの洗脳、いつ解けるんだろう?」

 聞かなかった、見なかったことにして、話を先に進める。

「テイマーを倒せばてっとり早いのですが……おそらく、最深部にいるでしょうから、すぐにというわけにはいきませんね。時間経過でも元に戻るかもしれませんが、それなりの時間がかかると考えていいかと」
「うーん……安全を優先したいところだけど、あまり時間をかけると、もしかしたら逃げられちゃうかもしれないね」

 非常時の脱出通路が他にないとも限らない。
 盗賊団なんてもの、逃がすわけにはいかないし……
 そもそもの話、討伐に失敗したら、ドクトルに接触する機会を失ってしまう。

 二度と機会がないわけじゃないと思うけど、できることなら、敵に余裕を与えないためにも、あまり時間はかけたくない。

「このまま突き進もうか。ソフィアは、リコリスをお願い」
「はい、わかりました。私なら、片手が塞がっていても、大して問題はありませんから」
「頼もしいね」
「ふふっ、フェイトのために鍛えた力を褒められるのは、とてもうれしいです」
「そんなソフィアの期待に応えるために、僕も精一杯がんばるよ」

 雪水晶の剣をしっかりと構えて、いつでも動けるように警戒しつつ、僕が前衛に立つ。
 ソフィアは後衛だ。

 前衛を務める僕が失敗をすれば、ソフィアにも危害が及ぶかもしれない。
 そう思うと緊張するのだけど……
 でも同時に、がんばらないと、というやり甲斐も感じた。

 大好きな女の子のために、男を見せる時。
 そう考えると、絶対に奮闘しなければ、という気持ちになる。

「よし、行こうか!」
「はい」

 世界で一番頼りになるパートナーと共に、ダンジョンの最深部へ向かう。