「それにしても、こんなところにケルベロスがいるなんて……しかも、何匹も。どうなっているんだろう?」
「偶然なわけがありませんね。まあ、自然発生することは絶対にない、とは言い切れませんが……そうだとしても、盗賊が無事な理由がありません。おそらく、モンスターテイマーがいるのでしょう」
「なによ、それ? 魔物をゲットするの?」
なんか、リコリスの知識は偏っていないだろうか?
ゲットとか、どういうこと?
「名前の通り、魔物を操る人のことだよ」
「へー、魔物を? そんなことできるの?」
「一部の人だけで、才能がないとダメだけどね。モンスターテイマーの家系に産まれるとか、幼い頃から師事するとか……それくらいの努力は必要で、難しい職業なんだ。ただ、魔物を操ることができるから、かなり強力だよ」
「ってことは……」
リコリスは考える仕草をして、そのまま固まること数十秒。
ややあって、ピコーンと閃いた様子で、目を輝かせて言う。
「敵にモンスターテイマーがいる、っていうことね!?」
「え……あ、うん。そうだと思う」
「ふふんっ、やっぱり? やっぱりそう思うわよね? あたしの推理力、めっちゃ恐ろしいわー。こんなにも早く、真実に辿り着いちゃうなんて、すごすぎるわー。自分で自分が怖いわ」
「……」
あ、ソフィアがイラッとした顔に。
それに気づいた様子もなく、リコリスはドヤ顔で続ける。
「そのモンスターテイマーとやら、大したことはないわね」
「え、なんで?」
「ふっふっふ……この超絶天才美少女リコリスちゃんに、とっておきの秘策があるわ!」
「そうなの? どんな?」
「あたしのような妖精は、色々と魔法が使えるのよ。ほら。この前、ダンジョンでフェイトの傷を癒やしたでしょう?」
「うん、そうだね。あの時はありがとう」
「とんでもなく強力な魔法は使えないけど、あんな感じで、ちょっとした魔法はたくさん習得しているの。その中に、テイマーの天敵と呼べる魔法があるわ」
「それはどんな?」
「『ディスペル』っていうヤツよ。対象にかけられている魔法を解除することができるの。今聞いた感じだと、モンスターテイマーって、魔力を使って魔物を使役しているんでしょ? なら、あたしの魔法で契約を解除して、元に戻すことができるわ。まあ、魔物だから味方になることはないだろうけど、それでも、盗賊に牙を剥くかもしれないし、いい感じになると思うんだけど」
「なるほど」
そんな魔法があるのなら、確かに便利だ。
リコリスが言うように、契約解除された魔物が暴れ回る可能性はあるけれど……
でも、敵の味方が減るのはうれしい。
敵も、突然コントロールが効かなくなって混乱するだろう。
「それ、本当に大丈夫ですか?」
ソフィアが疑わしそうな視線をリコリスに向ける。
「なによ、あたしの力を疑うつもり? あたしは天下無敵の美少女超絶かわいい妖精よ」
「ですが、実際に契約解除を試したわけではないのでしょう? うまくいくかどうか、確実なことは言えないと思うのですが」
「大丈夫よ」
「その根拠は?」
「だって、あたしだもの!」
ふふん、と胸を張るリコリス。
対するソフィアは、コレはダメだ、というような顔をしていた。
「えっと……でも、効いても効かなくても、どっちでもいいんじゃないか?」
「フェイト、それはどういうことですか?」
「効いたら、僕らにとってうれしい展開だよね? 効かなかったとしても、僕らのやることは変わらない。敵が多いのは誤算だけど……でも、僕とソフィアならなんとかなると思うんだ」
「……そうですね。はい、私とフェイトなら、できないことなんてありません!」
ソフィアは、どこか感動したような感じで僕の手を握る。
柔らかくて温かい。
そんな彼女の手を、僕も握り返して……
「あんたら、いつでもどこでもイチャイチャしてないと気が済まないの……?」
ジト目のリコリスに、そんなことを言われてしまうのだった。
――――――――――
「ディスペル!」
リコリスの魔法が発動した。
光の波が洞窟内を駆け抜けて、番人として配置されていたキメラを飲み込む。
無機質だったキメラの瞳の色が変わり……
己の意思を取り戻す。
「ガァッ!!!」
「な、なんだ!?」
「コイツ、急に味方を……ぎゃあああああ!?」
操られていた恨みを晴らすかのように、キメラは盗賊達に襲いかかった。
悲鳴が上がり、盗賊達が次々とキメラの豪腕の前に倒れていく。
「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!!!」
キメラは盗賊達を第一目標としているから、隙だらけだ。
その背中に向けて、とびっきりの一撃を叩きつける。
雪水晶の剣がキメラの巨大な体を断ち切る。
大きな悲鳴を上げて……
そして、そのまま倒れて、キメラは絶命した。
「よし」
リコリスのおかげで、攻略はかなり順調だ。
盗賊達が使役する魔物を解放して、その混乱に乗じて攻める。
こちらは怪我一つすることなく、すでに半分近くを制圧することができた。
「ところで、フェイト」
「うん?」
傷を負い、動けない盗賊達を捕縛しつつ、ソフィアが尋ねてくる。
「どうして、キメラをもう少しそのままにしておかなかったのですか? キメラに倒してもらった方が簡単だと思いますが」
「うーん……それはそうなんだけどね。この人達は盗賊で、たぶん、とてもひどいことをしてて……それでも、私刑みたいな真似はしたくないんだ。どうしようもない時は仕方ないと思うけど、今は、なんとかなるよね? きちんと捕まえて、きちんとした裁きを受けさせたい」
「なるほど、そのために、こうして捕まえているのですね」
「後で連絡して、大人数で運ばないといけないけどね。でも、できることなら無駄な殺しはしたくないんだ。って、僕にその度胸がないだけかもしれないけど」
「いいえ、そんなことはありません。フェイトのそれは、優しさですよ」
「そうかな?」
「はい、私が保証します。悪人に情けをかけることは、なかなかできることではありません。その優しさは、ずっとずっと持ち続けてほしいです」
「うん……ありがとう。ソフィアにそう言ってもらえると、僕はこれでいいんだ、っていう自信が湧いてくるよ」
色々なことがあって、人間を憎みかけていた。
でも、ソフィアを想うことで、僕は人の心を捨てずに済んだ。
だから、これからも心を大事にしていきたいと思う。
そうすることが、また、ソフィアのためになると信じて。
「ところで、ソフィア」
「はい?」
「リコリスは、どこへ行ったのかな?」
「そういえば……」
キメラを解放した後、奥に飛んでいくのは見えたんだけど……
でも、なぜか戻ってくる気配がない。
どうしたのだろう?
盗賊達の捕縛を終えた後、不思議に思いつつ、奥へ。
そこで僕達が見たものは……
「あ、リコリス」
「……」
「どうしたの? ここは盗賊のアジトだから、一人で行動すると危ないよ?」
「……侵入者、コロス!」
「えっ!?」
いきなりリコリスが襲いかかってきた。
その目は正気じゃなくて……
「もしかして……逆にリコリスが操られた!?」
「偶然なわけがありませんね。まあ、自然発生することは絶対にない、とは言い切れませんが……そうだとしても、盗賊が無事な理由がありません。おそらく、モンスターテイマーがいるのでしょう」
「なによ、それ? 魔物をゲットするの?」
なんか、リコリスの知識は偏っていないだろうか?
ゲットとか、どういうこと?
「名前の通り、魔物を操る人のことだよ」
「へー、魔物を? そんなことできるの?」
「一部の人だけで、才能がないとダメだけどね。モンスターテイマーの家系に産まれるとか、幼い頃から師事するとか……それくらいの努力は必要で、難しい職業なんだ。ただ、魔物を操ることができるから、かなり強力だよ」
「ってことは……」
リコリスは考える仕草をして、そのまま固まること数十秒。
ややあって、ピコーンと閃いた様子で、目を輝かせて言う。
「敵にモンスターテイマーがいる、っていうことね!?」
「え……あ、うん。そうだと思う」
「ふふんっ、やっぱり? やっぱりそう思うわよね? あたしの推理力、めっちゃ恐ろしいわー。こんなにも早く、真実に辿り着いちゃうなんて、すごすぎるわー。自分で自分が怖いわ」
「……」
あ、ソフィアがイラッとした顔に。
それに気づいた様子もなく、リコリスはドヤ顔で続ける。
「そのモンスターテイマーとやら、大したことはないわね」
「え、なんで?」
「ふっふっふ……この超絶天才美少女リコリスちゃんに、とっておきの秘策があるわ!」
「そうなの? どんな?」
「あたしのような妖精は、色々と魔法が使えるのよ。ほら。この前、ダンジョンでフェイトの傷を癒やしたでしょう?」
「うん、そうだね。あの時はありがとう」
「とんでもなく強力な魔法は使えないけど、あんな感じで、ちょっとした魔法はたくさん習得しているの。その中に、テイマーの天敵と呼べる魔法があるわ」
「それはどんな?」
「『ディスペル』っていうヤツよ。対象にかけられている魔法を解除することができるの。今聞いた感じだと、モンスターテイマーって、魔力を使って魔物を使役しているんでしょ? なら、あたしの魔法で契約を解除して、元に戻すことができるわ。まあ、魔物だから味方になることはないだろうけど、それでも、盗賊に牙を剥くかもしれないし、いい感じになると思うんだけど」
「なるほど」
そんな魔法があるのなら、確かに便利だ。
リコリスが言うように、契約解除された魔物が暴れ回る可能性はあるけれど……
でも、敵の味方が減るのはうれしい。
敵も、突然コントロールが効かなくなって混乱するだろう。
「それ、本当に大丈夫ですか?」
ソフィアが疑わしそうな視線をリコリスに向ける。
「なによ、あたしの力を疑うつもり? あたしは天下無敵の美少女超絶かわいい妖精よ」
「ですが、実際に契約解除を試したわけではないのでしょう? うまくいくかどうか、確実なことは言えないと思うのですが」
「大丈夫よ」
「その根拠は?」
「だって、あたしだもの!」
ふふん、と胸を張るリコリス。
対するソフィアは、コレはダメだ、というような顔をしていた。
「えっと……でも、効いても効かなくても、どっちでもいいんじゃないか?」
「フェイト、それはどういうことですか?」
「効いたら、僕らにとってうれしい展開だよね? 効かなかったとしても、僕らのやることは変わらない。敵が多いのは誤算だけど……でも、僕とソフィアならなんとかなると思うんだ」
「……そうですね。はい、私とフェイトなら、できないことなんてありません!」
ソフィアは、どこか感動したような感じで僕の手を握る。
柔らかくて温かい。
そんな彼女の手を、僕も握り返して……
「あんたら、いつでもどこでもイチャイチャしてないと気が済まないの……?」
ジト目のリコリスに、そんなことを言われてしまうのだった。
――――――――――
「ディスペル!」
リコリスの魔法が発動した。
光の波が洞窟内を駆け抜けて、番人として配置されていたキメラを飲み込む。
無機質だったキメラの瞳の色が変わり……
己の意思を取り戻す。
「ガァッ!!!」
「な、なんだ!?」
「コイツ、急に味方を……ぎゃあああああ!?」
操られていた恨みを晴らすかのように、キメラは盗賊達に襲いかかった。
悲鳴が上がり、盗賊達が次々とキメラの豪腕の前に倒れていく。
「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!!!」
キメラは盗賊達を第一目標としているから、隙だらけだ。
その背中に向けて、とびっきりの一撃を叩きつける。
雪水晶の剣がキメラの巨大な体を断ち切る。
大きな悲鳴を上げて……
そして、そのまま倒れて、キメラは絶命した。
「よし」
リコリスのおかげで、攻略はかなり順調だ。
盗賊達が使役する魔物を解放して、その混乱に乗じて攻める。
こちらは怪我一つすることなく、すでに半分近くを制圧することができた。
「ところで、フェイト」
「うん?」
傷を負い、動けない盗賊達を捕縛しつつ、ソフィアが尋ねてくる。
「どうして、キメラをもう少しそのままにしておかなかったのですか? キメラに倒してもらった方が簡単だと思いますが」
「うーん……それはそうなんだけどね。この人達は盗賊で、たぶん、とてもひどいことをしてて……それでも、私刑みたいな真似はしたくないんだ。どうしようもない時は仕方ないと思うけど、今は、なんとかなるよね? きちんと捕まえて、きちんとした裁きを受けさせたい」
「なるほど、そのために、こうして捕まえているのですね」
「後で連絡して、大人数で運ばないといけないけどね。でも、できることなら無駄な殺しはしたくないんだ。って、僕にその度胸がないだけかもしれないけど」
「いいえ、そんなことはありません。フェイトのそれは、優しさですよ」
「そうかな?」
「はい、私が保証します。悪人に情けをかけることは、なかなかできることではありません。その優しさは、ずっとずっと持ち続けてほしいです」
「うん……ありがとう。ソフィアにそう言ってもらえると、僕はこれでいいんだ、っていう自信が湧いてくるよ」
色々なことがあって、人間を憎みかけていた。
でも、ソフィアを想うことで、僕は人の心を捨てずに済んだ。
だから、これからも心を大事にしていきたいと思う。
そうすることが、また、ソフィアのためになると信じて。
「ところで、ソフィア」
「はい?」
「リコリスは、どこへ行ったのかな?」
「そういえば……」
キメラを解放した後、奥に飛んでいくのは見えたんだけど……
でも、なぜか戻ってくる気配がない。
どうしたのだろう?
盗賊達の捕縛を終えた後、不思議に思いつつ、奥へ。
そこで僕達が見たものは……
「あ、リコリス」
「……」
「どうしたの? ここは盗賊のアジトだから、一人で行動すると危ないよ?」
「……侵入者、コロス!」
「えっ!?」
いきなりリコリスが襲いかかってきた。
その目は正気じゃなくて……
「もしかして……逆にリコリスが操られた!?」