「こいつは……!?」

 歪な牙と三つの頭。
 馬のように大きく、力は相当なものだ。

 Aランクの魔物、ケルベロス。

 歪な牙と三つの頭による攻撃は厄介で……
 さらに、炎も吐くという多重攻撃。

 かなりの強敵なのだけど……

「でも、今の僕なら!」

 ソフィアに鍛えてもらったおかげで、それなりの自信を持つことができた。
 偶然かもしれないけど、Sランクのフェンリルを倒すことができた。

 なら、ケルベロスの一匹くらい……

「グルルルゥ……!」
「ガルゥ!」
「グァ!」
「……え?」

 さらに、奥から三匹のケルベロスが現れた。
 それだけで終わらず……

 四匹、五匹、六匹……
 数え切れないほどの数が現れる。

「ちょっ、これはさすがに……!?」
「フェイト、防御に徹してください! リコリス、フェイトの傍に!」
「りょ、了解!」

 リコリスが慌てて飛んできて、僕の頭の上に乗る。
 って、避難場所はそこなんだ……

「さあ、いきなさいフェイト! あたしを守るのよっ」
「むっ……フェイトに優しく守られるのは、私の役目なのですが」

 ヤキモチを妬いてくれるのはうれしいんだけど、時と場所を選んで?

「グルァアアアッ!!!」
「くっ!」

 ケルベロスが三つの頭で襲いかかってくる。
 力、体格はフェンリルに比べると大したことはないのだけど……

 頭が三つあるため、変則的な攻撃が多い。
 さらに、時折、炎も吐いてくる。

 なかなかに戦いづらい相手で、苦戦してしまう。

「いけ、そこよっ! 右、右! 左! そこ、まっすぐよ!」
「えっと……」
「今よ! 必殺のえっと、ほら……アレを繰り出しなさい!」
「……なんでもいいや」

 頭の上でリコリスがあれこれと騒いでいるせいで、緊迫感というものがない。

 ただ……
 おかげで、初めての強敵と戦うことに緊張することなく、自分のペースで戦うことができた。
 ある意味で、リコリスには感謝だ。

「ガルゥッ!!!」
「……そこっ!」

 焦れた様子で、ケルベロスが全身の力を込めて体当たりを仕掛けてきた。
 大きな体格とパワーを活かして、僕を押し倒そうとしたのだろう。

 が、それは悪手だ。

 逆にケルベロスの力を利用して、受け流して……
 背負投げをする要領で、頭から地面に叩きつけてやる。

 ギャンッ、というケルベロスの悲鳴が響いて……
 体勢を立て直すよりも先に、その三つの頭部、全てを切り落とした。

「ふう……なんとかなった。大丈夫、リコリス?」
「だ、だだだ、大丈夫よ! 怪我はしてないし、こ、これくらいでビビるわけないし!」
「えっと……怖がらせてごめんね?」
「だからビビってないし!?」

 カタカタと震えていることについては、触れないでおこう。

「ソフィアは……」
「はぁっ!!!」

 ソフィアが剣を振る……ような仕草をした後、ケルベロスが両断された。
 ような、と表現したのは、きちんと見えなかったからだ。
 剣がすさまじく速い。

 あの様子なら心配は必要なさそうだ。
 さすが、剣聖……

「って、危ない!?」
「え」

 最後の一匹が、死角からソフィアに襲いかかろうとしていた。
 考えるよりも先に体が動いて、彼女の盾となる。

「ぐっ!?」

 腕に噛みつかれて、激痛が走る。

「フェイト!? このっ……魔物ごときがっ!!!」

 激高したソフィアが剣を振り……
 瞬間的に、ケルベロスは細切れにされた。

 それでいて、僕は巻き込まれることない。
 相変わらず、すさまじい剣技だ。

「ふう……ソフィア、怪我はない?」
「それは私の台詞ですよ!? ああっ、そんなに血が出て……」
「僕は大丈夫。痛みには耐性があるから」
「そういう問題じゃありません! 確かに、フェイトには助けられましたけど……でも、私のせいでフェイトが怪我をするなんてイヤです! 絶対に許容できません!」

 ソフィアは涙を浮かべていた。
 それくらい心配したのだろう。

「ソフィア……ごめんね、心配をかけて。でも、それは僕も同じだよ。ソフィアが怪我をするなんて、絶対にイヤだ。だから、気がついたら体が動いていて……今はまだ頼りないかもしれないけどさ。でも、僕は、絶対にソフィアを守るよ」
「えっと……そ、それは……」
「ソフィア?」
「もう……そんなことを言われたら、怒れないじゃないですか。あと、その……フェイトの気持ちはとてもうれしいです。ありがとうございます……やっぱり、好きです」
「う、うん」

 ソフィアの甘い言葉に、痛みを忘れて照れてしまう。

「はいはい、ラブオーラはそこら辺にしときなさい」
「リコリス?」
「とりあえず、それを治療しないと。ほら、手を出しなさい」
「うん」
「ほい、っとね」

 リコリスが手をかざすと、ゆっくりとだけど怪我が治っていく。
 以前にも治療してもらったことがあるけど、すごい力だ。

「それ、魔法だよね?」
「ええ、そうね。超絶天才美少女のリコリスちゃんは、魔法にも精通しているの」
「そっか。すごいね、魔法は」
「……フェイトは、剣より魔法の方がいいんですか?」
「ううん、僕は剣の方がいいかな? 性に合っていると思うし……なにより、ソフィアと一緒だから」
「フェイト……もう、もう。そんなうれしいことを言われたら、どうにかなってしまいそうですよ。私をどうにかして、フェイトはなにを企んでいるのですか? えっち」
「え、えぇ? 僕は別に……」
「……やれやれ、このバカップルは」

 リコリスは呆れたように、ため息をこぼすのだった。