「とりあえず、協力してくれる、っていうことでいいのかな?」
「うん、いいよ」
「はい、問題ありません」

 ソフィアと揃って頷いた。

 冒険者組合が腐敗していることが、スタンピードを招いたというのなら……
 さすがに、放っておくことはできない。

 このままだと、どれだけの被害者が出るか。
 それを止められる機会があるというのなら、見て見ぬフリはしたくない。

 僕は大した力を持たないけれど……
 でも、やれることがあるというのなら、逃げず、全力で挑みたい。
 そうあるべきだと、小さい頃からずっと思い、そうあろうと願ってきたのだから。

「ありがとう……うん。本当に助かるよ」
「ちなみに……」

 ソフィアが鋭い視線を飛ばす。

「もしもあなたの言っていることがデタラメで、私達を利用しようとしたり、フェイトに害をなそうとしていたら……斬ります」

 ソフィアが恐ろしい殺気を放つ。
 対象が僕じゃないんだけど、それでも、震えてしまうほどに脅威的だ。

 そんな殺気を受けて、クリフは怯まない。
 むしろ、気を引き締めることができたという感じで、真面目な顔に。

「そんなことは考えていないさ。女神に誓うよ」
「……わかりました。今は信じましょう」

 ひとまず納得したらしく、ソフィアは殺気を収めた。

「それじゃあ、これからの話をしようか」
「冒険者組合の不正を正す、っていうことだけど、具体的にはどうするの?」
「んー……質問を返して悪いんだけど、スティアートくんは、組合のこと、どれくらい知っている?」
「えっと……」

 冒険者ギルドを運営する組織が、冒険者組合。
 細かいところまで数えると、関係者は星の数ほど。

 ただ、その頂点に立つ者を数えるのなら、四つに分類される。

 冒険者組合は、五人の幹部で運営されている。
 名前は忘れたけど……
 組合の頂点に君臨する五人の幹部がいて、彼らが冒険者組合の在り方、方針を決めているのだとか。

「っていうことは、さすがに知っているんだけど……細かいことはわからないかな」
「うんうん、いいね。それだけ知っていれば十分。話がスムーズに進むよ」
「そう?」
「五人の幹部は……まあ、全員の名前を挙げる必要はないかな。一人は、かなりの善人だ。聖女と呼ばれているほどで、彼女のおかげで、冒険者組合はギリギリのところで踏みとどまっている。二人は、ちょっと腐っているものの、まだ救いようがある。更生しようと思えば、なんとかできるかな。ただ、さっきのファルツと……そして、最後の一人が問題だ」
「ブラスバンド家の当主……強欲のドクトルですね?」
「強欲の……?」
「そんな二つ名がついている幹部がいるのですよ。金、金、金……全ての物事においてお金を優先して、お金のことしか考えることはない」
「だから、強欲……っていうわけなんだ」

 かなり困った人みたいだ。
 詳細はまだ聞いていないのだけど……
 でも、聞くまでもなく、色々と悪いことをしているのだろうなあ、ということが想像できる。

 そして、その想像は正しい。

「ドクトルは、冒険者組合の不正を象徴するような人でさ。かなーり、困った人なんだよねー。彼がいるせいで、どれだけの被害が出ていることか」
「その人が問題だとわかっているのなら、追放するなり弾劾するなり、なにかしら対処すればいいんじゃあ?」
「そうしたいところなんだけど、悪知恵が働く人でさ。なかなか尻尾を掴ませてくれないんだ。おかげで、今まで手を出すことができなくて、こんな状態。ほんと、困ったものだよねー」
「それで、僕達に協力を?」
「そういうこと」

 話は理解したのだけど……
 でも、どうして僕達なのだろうか?

 信頼できる人が限られている、というのはわかる。
 悪知恵が働く人なら、あちらこちらに部下を潜ませているだろうし……
 簡単に味方を増やすことはできないのだろう。

 でも、その問題点を差し引いても、他に協力者は見つかりそうな気がした。
 ソフィアはともかく……
 新人冒険者の僕に協力を求める理由はなんだろう?

 そんな僕の疑問を察したらしく、クリフは話を続ける。

「スティアートくんとアスカルトさんに頼みたいことは、ドクトルに気に入られ、彼の懐に招かれること。そして、悪事の証拠を掴んでほしい」
「なぜ、僕達が?」
「アスカルトくんは剣聖だから、知名度は抜群だ。もしも味方にできるのなら、これ以上、心強いことはない。だから、ドクトルは、一度、ダメ元で接触してくるだろうね」
「ソフィア狙い?」
「アスカルトさんだけじゃなくて、スティアートくんも勧誘されると思うよ」
「え?」
「なにしろスティアートくんは、SSランクの魔物を倒した、期待の新人だからね。アイゼンがそうしたように、キミを自分のところに招いて、良い手駒にしようと考えるはずさ」
「なるほど」

 納得の話だった。

 ソフィアは、強力な切り札として。
 そして僕は、使い勝手の良い手駒として。

 それぞれに利用価値を見出す、ということか。
 わかりやすい。

「だから、キミ達が適任なんだ」
「正直、フェイトをエサにするのは気が進まないのですが……」
「やれやれ、ソフィアは過保護ねぇ」

 こちらを見るソフィアに、僕はしっかりと頷いてみせる。

「心配してくれてありがとう。でも、僕はやろうと思う」
「危険なことになりますよ?」
「それは覚悟の上」
「冒険者だけではなくて、他にも仕事はたくさんありますよ?」
「ソフィアと一緒に冒険者をしたいんだ」
「えっと……」

 それ以上は思い浮かばない様子で、ソフィアが言葉に詰まる。
 そんな彼女を見て、リコリスが笑う。

「ソフィアの負けよ。フェイトが頑固っていうこと、あたし以上にわかってるんでしょ?」
「それは、まあ……」
「なら、背中を押して、支えてあげるのが良いパートナー、っていうものでしょ」
「……わかりました。これ以上、あれこれと言うのはやめておきます。ただ、いくつか確認しておきたいのですが……バックアップやサポートは、当然、あるのでしょうね?」
「もちろん。情報収集なんかは手伝うし、いざという時の救助班も編成済み。まあ、絶対に助けられるとか、安全を保証することはできないんだけど……そこはどうしようもないところだから、納得してくれるとうれしいかな」
「フェイト、最終的な判断は任せます」

 どんな道を選んでも、僕を指示して、一緒にいる。
 そんな彼女の強い意思を感じた。

 そのことをうれしく思い……
 そして、クリフを見る。

「改めて返事をすると……引き受けるよ。僕とソフィアでドクトルに近づいて、彼の悪事の証拠を手に入れてみせる」
「ありがとう。スティアートくんの勇気に、最大級の感謝を」

 僕とクリフは握手を交わして……
 そして、腐敗した冒険者ギルドを正すために戦うことを決意するのだった。