翌日の早朝。
陽が登ると同時に作戦が開始された。
魔物であろうと、基本的に夜は寝る。
ただ、スタンピードとなると、ほぼほぼ全ての魔物が興奮状態に陥り、日夜関係なく暴れ続ける。
そのため、時間帯による奇襲は無意味だ。
奇襲を考えることなく、こちらが万全の状態で戦える時間帯を選んだ。
故に、早朝。
太陽の光を背に戦い……
長時間の戦闘になったとしても、問題がない。
「はっ、はっ、はっ……!」
僕は森の中を駆けていた。
今、街は大量の魔物が迫り、最大のピンチを迎えている。
でも、心配はしていない。
あそこにはソフィアがいる。
最強無敵の剣聖がいる。
彼女の守りを突破して、街に害を及ぼす魔物なんているわけがない。
安心して任せることができる。
だから……
僕は、僕の役目をきちんと果たさないといけない。
「そこっ、右! それから五分くらいまっすぐ進んだ後、左へ!」
「了解!」
肩に乗るリコリスのナビゲートで、森の中を進む。
彼女によれば、この奥にスタンピードの元凶となる、女王がいるらしい。
みんなが持ちこたえている間に、女王を倒す。
絶対に失敗はできない。
必ず成功させてみせる!
「最後よ、ここをまっすぐ、五百メートルくらい進んだところに女王の反応があるわ。他に魔物はいないと思うから、まっすぐに駆け抜けなさい」
「オッケー!」
「それと、あまり気負わないように」
「え?」
「あんた、めっちゃ気負って緊張してるじゃない。どうせ、失敗したらどうしようとか、そんなこと考えてるんでしょ?」
「それは……」
「やめやめ、そういう暗い考えはやめましょ。失敗しても、まいっか、ってくらい気楽にいかないと。じゃないと、とんでもないところでミスするわよ」
「……」
なんていうか、目からウロコが落ちた気分だった。
大役を任されたのだから、それ相応の責任感を持たないといけないと思っていたのだけど……
でも、リコリスはそんなものはいらないという。
それよりも、気負わずいけという。
「うん、ありがとう」
「ふふん、良い顔になったじゃない」
リコリスのおかげで緊張がとれた。
これなら、うまくやることができそうだ。
残り三百メートル。
僕はまっすぐな足取りで、一気に駆け抜けた。
――――――――――
スタンピードの核となる魔物は女王と呼ばれているが、その魔物が産卵などをしているわけじゃない。
魔力を含む鉱石を偶然口にした。
過酷な生存競争を勝ち抜いた。
他者の介入で力を得た。
……などなど。
特別な要因により力を得た魔物のことを、女王という。
女王は他の魔物にはない、強烈な魔力と闘気をまとっていて……
その力に惹かれてやってきた魔物を、圧倒的なカリスマで従える。
魔物の頂点に立つ。
故に、女王。
調査班の報告によると、今回のスタンピードの核となった女王は、ラフレシアという魔物らしい。
見たことはないけど、知識はある。
植物タイプの魔物で、巨大な花に無数の蔦が生えているとか。
その力は圧倒的。
Sランクに分類される魔物で、毒を使いこなし、たくさんの冒険者が犠牲になってきたという。
「この辺りよ」
リコリスの案内で、森の中にぽっかりと空いた広場に出た。
魔物の姿は見えないけど……
「うん、間違いなくここにいるね」
魔物が放つ瘴気が満ちていた。
ちょっとでも気を抜けば気絶してしまいそうなほど濃厚な瘴気で、長く留まっていたら、病気にかかったり体調を崩してしまうかもしれない。
「どこにいるのかしら? 反応は、確かにここからするんだけど」
「うーん……隠れているのかな? 隙をうかがっているとか?」
「女王なのに、ずいぶん小心者なのね」
「女王だからこそ、慎重になっているのかも」
女王は強いだけではなくて、賢い。
自分が生き延びるために、囮を用意したり人質をとるなど、普通の魔物は絶対にとらないような行動を取る。
今回も、なにかしら罠があるのかもしれない。
「……」
自然と緊張感が増していく。
ピリピリと空気が張りつめる。
僕は雪水晶の剣を抜いて、いつでも動けるように構えた。
「リコリス、絶対に僕から離れないで」
「大丈夫よ。ちゃんと紐でくくりつけて、落ちないようにしているから」
それは、大丈夫なのかな……?
僕と魔物の間に挟まって、押しつぶされてしまうこともあると思うんだけど。
でも、空を飛ぶ魔物もいるし、上空が安全地帯というわけじゃない。
そのことを考えると、やっぱり、僕の傍が一番安全なのかな?
ただ……
危険を犯してでも僕についてきて、サポートしてくれたリコリスには感謝しかない。
スタンピードを解決したら、なにかおいしいものをごちそうしよう。
確か、妖精ははちみつが好きだったはず。
こんな甘い匂いがするはちみちを探して……
「って、甘い匂い?」
いつの間にか、濃厚な甘い匂いが周囲に漂っていた。
突然のことに驚いて、最大限に警戒をする。
すると……
「っ!?」
ガァッ!!! と地面が爆発して、そこから巨大な魔物が姿を見せた。
その魔物はラフレシアに似ているものの、しかし、違う魔物だった。
陽が登ると同時に作戦が開始された。
魔物であろうと、基本的に夜は寝る。
ただ、スタンピードとなると、ほぼほぼ全ての魔物が興奮状態に陥り、日夜関係なく暴れ続ける。
そのため、時間帯による奇襲は無意味だ。
奇襲を考えることなく、こちらが万全の状態で戦える時間帯を選んだ。
故に、早朝。
太陽の光を背に戦い……
長時間の戦闘になったとしても、問題がない。
「はっ、はっ、はっ……!」
僕は森の中を駆けていた。
今、街は大量の魔物が迫り、最大のピンチを迎えている。
でも、心配はしていない。
あそこにはソフィアがいる。
最強無敵の剣聖がいる。
彼女の守りを突破して、街に害を及ぼす魔物なんているわけがない。
安心して任せることができる。
だから……
僕は、僕の役目をきちんと果たさないといけない。
「そこっ、右! それから五分くらいまっすぐ進んだ後、左へ!」
「了解!」
肩に乗るリコリスのナビゲートで、森の中を進む。
彼女によれば、この奥にスタンピードの元凶となる、女王がいるらしい。
みんなが持ちこたえている間に、女王を倒す。
絶対に失敗はできない。
必ず成功させてみせる!
「最後よ、ここをまっすぐ、五百メートルくらい進んだところに女王の反応があるわ。他に魔物はいないと思うから、まっすぐに駆け抜けなさい」
「オッケー!」
「それと、あまり気負わないように」
「え?」
「あんた、めっちゃ気負って緊張してるじゃない。どうせ、失敗したらどうしようとか、そんなこと考えてるんでしょ?」
「それは……」
「やめやめ、そういう暗い考えはやめましょ。失敗しても、まいっか、ってくらい気楽にいかないと。じゃないと、とんでもないところでミスするわよ」
「……」
なんていうか、目からウロコが落ちた気分だった。
大役を任されたのだから、それ相応の責任感を持たないといけないと思っていたのだけど……
でも、リコリスはそんなものはいらないという。
それよりも、気負わずいけという。
「うん、ありがとう」
「ふふん、良い顔になったじゃない」
リコリスのおかげで緊張がとれた。
これなら、うまくやることができそうだ。
残り三百メートル。
僕はまっすぐな足取りで、一気に駆け抜けた。
――――――――――
スタンピードの核となる魔物は女王と呼ばれているが、その魔物が産卵などをしているわけじゃない。
魔力を含む鉱石を偶然口にした。
過酷な生存競争を勝ち抜いた。
他者の介入で力を得た。
……などなど。
特別な要因により力を得た魔物のことを、女王という。
女王は他の魔物にはない、強烈な魔力と闘気をまとっていて……
その力に惹かれてやってきた魔物を、圧倒的なカリスマで従える。
魔物の頂点に立つ。
故に、女王。
調査班の報告によると、今回のスタンピードの核となった女王は、ラフレシアという魔物らしい。
見たことはないけど、知識はある。
植物タイプの魔物で、巨大な花に無数の蔦が生えているとか。
その力は圧倒的。
Sランクに分類される魔物で、毒を使いこなし、たくさんの冒険者が犠牲になってきたという。
「この辺りよ」
リコリスの案内で、森の中にぽっかりと空いた広場に出た。
魔物の姿は見えないけど……
「うん、間違いなくここにいるね」
魔物が放つ瘴気が満ちていた。
ちょっとでも気を抜けば気絶してしまいそうなほど濃厚な瘴気で、長く留まっていたら、病気にかかったり体調を崩してしまうかもしれない。
「どこにいるのかしら? 反応は、確かにここからするんだけど」
「うーん……隠れているのかな? 隙をうかがっているとか?」
「女王なのに、ずいぶん小心者なのね」
「女王だからこそ、慎重になっているのかも」
女王は強いだけではなくて、賢い。
自分が生き延びるために、囮を用意したり人質をとるなど、普通の魔物は絶対にとらないような行動を取る。
今回も、なにかしら罠があるのかもしれない。
「……」
自然と緊張感が増していく。
ピリピリと空気が張りつめる。
僕は雪水晶の剣を抜いて、いつでも動けるように構えた。
「リコリス、絶対に僕から離れないで」
「大丈夫よ。ちゃんと紐でくくりつけて、落ちないようにしているから」
それは、大丈夫なのかな……?
僕と魔物の間に挟まって、押しつぶされてしまうこともあると思うんだけど。
でも、空を飛ぶ魔物もいるし、上空が安全地帯というわけじゃない。
そのことを考えると、やっぱり、僕の傍が一番安全なのかな?
ただ……
危険を犯してでも僕についてきて、サポートしてくれたリコリスには感謝しかない。
スタンピードを解決したら、なにかおいしいものをごちそうしよう。
確か、妖精ははちみつが好きだったはず。
こんな甘い匂いがするはちみちを探して……
「って、甘い匂い?」
いつの間にか、濃厚な甘い匂いが周囲に漂っていた。
突然のことに驚いて、最大限に警戒をする。
すると……
「っ!?」
ガァッ!!! と地面が爆発して、そこから巨大な魔物が姿を見せた。
その魔物はラフレシアに似ているものの、しかし、違う魔物だった。