「はい、これがフェイトとリコリスが探していた、あたし達妖精が鍛えた剣よ」

 リコリスが案内してくれた先に、一振りの剣があった。

 刀身は水晶のように透明で、宝石のように綺麗だ。
 ただ、脆いという印象はなくて、逆に力強く感じた。

 柄はシンプルなデザインで、使い勝手を重視しているのかもしれない。
 宝石が一つ、セットされている。

「あら、とても綺麗な剣ですね」
「ふふーん、そうでしょそうでしょ。なにしろ、あたし達妖精が鍛えた剣だからねー」
「これ、名前はなんていうの?」
「雪水晶の剣よ。名前の通り、雪水晶っていう鉱石を材料にしているの」
「まんまだね」
「切れ味はけっこうあるんじゃないかしら? あと、かなり頑丈で、よほどのことがない限り折れたり刃こぼれすることはないわ。壊れたとしても、勝手に修復されるみたいよ」
「自己修復機能なんてものがあるのですか? それはすさまじいですね……フェイト、私にも見せてくれませんか?」
「うん、どうぞ」

 ソフィアに雪水晶の剣を渡した。

 「これは……」「なんて綺麗な刀身」「切れ味はなかなか……」なんていう独り言が聞こえてきた。
 そんなソフィアの目は、子供のようにキラキラと輝いている。

 剣聖だから、剣が好きなのだろうか……?
 そういえば、メインに使うエクスカリバーだけじゃなくて、他にも色々と剣を持っていたっけ。

「あの、フェイト。お願いがあるのですが……」
「うん? なに?」
「たまにでいいのですが、この剣、貸してくれませんか? じっくりと眺めたくて……あとあと、手入れは私にさせてもらえるとうれしいです!」
「えっと……うん、それくらい別にいいけど」
「ありがとうございます!」

 幼馴染の意外な一面を知るのだった。

「ありがとう、リコリス。雪水晶の剣、大事に使わせてもらうよ」
「ええ、そうしてちょうだい。あたし達妖精が人間に贈り物をするなんて、滅多にないんだからね? 感謝してよ」
「うん、ありがとう」
「え? いや、その……ありがとうとか、本当にそんなこと言わないでよ。本来なら、あたしがそう言う立場にあるんだから。まったくもう、気が効かない人間ね」
「えっと……なんで僕、怒られているの?」
「ふんだっ」

 リコリスは頬を膨らませつつ、ぷいっと顔を背けてしまう。
 ただ、その頬は赤い。

 照れ隠し?

「あ、そうそう。せっかくだから、他のお宝も持っていっていいわよ」
「え?」
「ここに置いていても、埃を被らせるだけだもの。なら、有意義に使ってもらった方がいいわ」
「えっと……」

 ソフィアと顔を見合わせる。

 僕に任せます、という感じでソフィアは小さく頷いた。

「リコリス」
「なに?」
「うれしい話だけど、遠慮しておくよ」
「え? なんでよ。ここにあるお宝、けっこうなレアものよ? 全部売れば一生遊んで暮らせるし、二人は冒険者なんでしょ? 冒険に役立つものもたくさんあるわよ」
「でも、リコリスと友達が一緒に集めたものなんだよね?」
「あ……」
「二人の思い出を持ち出すようなこと、できないよ」
「……バカなんだから」

 そんなことを言いながらも、リコリスはどこかうれしそうにしていた。
 鈍いと言われることのある僕だけど……
 なんとなく、彼女の性格を掴むことができた。

 素直じゃないけど……
 でも、とても優しい妖精なのだろう。

 そんなリコリスと、これからも一緒にいたいと思う。
 そう思った僕は、気がつけば口を開いていた。

「ねえ、リコリスはこれからどうするの?」
「んー、どうしようかしら? ここにあるお宝を使って、今度こそ、侵入不可能な結界を展開してお墓を守って……その後は、適当に旅でもしようかしら? あたし、ずっとこのダンジョンにいたから、そろそろ外が恋しいのよね」
「なら、僕達と一緒に行かない?」
「は?」

 リコリスの目が丸くなる。
 それから、体全体を傾けて、全身で疑問をアピールしてみせる。

「どういうこと?」
「いや、そのままの意味だけど」
「あたしが、フェイトとソフィアの仲間になる、っていうこと」
「うんうん、そういうこと」
「……はぁ?」

 ものすごく呆れた顔をされてしまう。
 言葉にしないものの、あんたバカ? と言われているかのようだ。

「あんたバカ?」

 あ、言われてしまった。

「妖精が人間の仲間になるなんて、聞いたことないわ。ありえないでしょ。そもそも、あたし達妖精は、人間のせいで数が減ったのよ? そんな人間の仲間になんて、なると思うの?」
「うーん……そう言われてみると、そうかも」
「考えてなかったわけ……?」
「思いつきみたいなものなんだ。リコリスと一緒なら、きっと楽しい旅ができるだろうな、っていう。それと……」
「それと?」
「一人よりは二人。二人より三人。旅は、たくさんいた方が楽しいと思うんだ。一人は……寂しいよ」
「……」

 リコリスは再び目を丸くして……

「あはははははっ!!!」

 大爆笑。

「オッケー、オッケー! うんうん、いいわ。フェイトってば、最高なんだけど。こんなおもしろい人間、初めてかも」
「フェイトですからね」

 なぜか、ソフィアが誇らしげになる。
 そんなソフィアにリコリスの視線が移動した。

「ソフィアは、あたしが一緒でいいの?」
「はい。リコリスと一緒なら、とても楽しいと思います」
「ふーん……フェイトと二人きりじゃなくてもいいの?」
「それは、正直悩ましいですけど……ですが、リコリスなら歓迎ですよ」
「ふーん」

 ちょっと考える仕草を見せて……
 それから、リコリスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「それって、あたしが妖精だから安心してる、ってこと? フェイトをとられる心配はない、とか?」
「……そのようなことはありませんよ?」
「今の間はなにかしら? でも、まあ……」

 リコリスは、ふわりと飛んで、僕の隣に。
 そして、そっと顔を寄せてきて……

「んっ」

 頬にキスをしてしまう。

「えっ」
「なぁっ!!!?」
「くふふ」

 リコリスは悪人のような笑みを浮かべて、ソフィアは愕然とした。

「あたしも、これくらいのことはできるんだけどねー?」
「……フェイト。そこの悪い虫を切り捨てようと思うので、少し離れてください」
「あはははっ、余裕がぜんぜんないじゃない。そんなんで、あたしが一緒にいても平気なのかしら?」
「やっぱり、リコリスは一緒に来てはいけません。反対です!」
「だーめ。もう遅いんだから。すごく楽しそうだから、あたしも一緒してあげる」
「フェイト! リコリスをここに封印して、立ち去りましょう!」
「ふふっ。これからよろしくね、フェイト。ソフィア♪」

 にっこりと笑うリコリス。
 ひとまず……
 これから騒がしい日常を迎えることになりそうだ、と苦笑する僕だった。