数日が過ぎて……
 いよいよ依頼当日。

 僕達は会場となる教会を訪れた。

「わー!」
「オンッ!」

 教会に飾られた巨大なステンドグラスを見て、アイシャが瞳をキラキラと輝かせた。
 スノウも尻尾をぶんぶんと振っている。

 教会の中を見るのは初めてなんだろうな。
 これはすごい! という感じで、トテテテと教会内を見て回っている。

 その後ろを保護者のようにリコリスがついていく。

「あーこらこら、壺とか触ったらダメよ。それ、高そうだからね」
「綺麗……」
「ワフッ」
「ステンドグラスもダメ。ってか、届かないでしょ。ジャンプしても無理。え? 代わりにあたしに触ってきてほしい? 意味あるの、それ?」

 とりあえず、アイシャとスノウはリコリスに見てもらえば問題ないかな。
 本人達は楽しそうなので、そこまで大きな問題はないだろう。

「ようこそ、お待ちしておりました」

 奥からピシリと正装で身を包んだスタッフが現れた。
 この教会の関係者なのだろうけど……

「神父様じゃないんですね」
「自分は結婚式を専門に担当する者でして。教会は神に祈りを捧げる場ではありますが、子供達に簡単な勉強を教えていますし、式を挙げて永遠の愛を誓うこともありますからね。私のような専門の担当者がいるんですよ」
「なるほど」

 勉強になる話だった。
 長く奴隷をやっていたせいか、こういう基本的な知識は足りていないんだよな。

 うーん……いつか、ちゃんと勉強をした方がいいかな?
 剣の腕はそれなりに身についたと思う。
 戦う知識も身についたと思う。

 ただ、一般的な知識はまだまだ。

「画家の方は少し遅れているので、後で紹介しますね。先に着替えを済ませてしまいましょうか」
「はい、わかりました」
「楽しみですね、フェイト」

 ソフィアはるんるん気分のにっこり笑顔だった。

 本当の結婚式じゃないとしても、ドレスを着れることが嬉しいらしい。
 なんとなくだけどわかる。
 やっぱり、女の子にとって結婚式は憧れだろう。
 ウェディングドレスは一生で一度もの。
 着ることができるとなれば、自然と笑顔になっちゃうんだろうな。

 ソフィアのウェディングドレスか……うーん。
 どんな感じになるんだろう?
 綺麗なのは絶対に間違いない。
 でも、僕の想像力が貧弱なせいで、うまく想像できない。

「では、フェイト様はこちらの部屋へ。ソフィア様は、あちらの部屋にどうぞ。中に専門のスタッフが待機しておりますので」
「ありがとうございます」
「えっと……」

 スタッフが少し困った様子で教会の奥を見た。

「うー」
「ガルルルッ」
「ちょ、まった!? 冗談、冗談だから。リコリスちゃんジョーク!」

 アイシャとスノウが尻尾を逆立てて、共にリコリスを睨みつけていた。

 いったい、リコリスはなにをやらかしたんだろう……?

「お連れの方々はどうしましょう……?」
「アイシャちゃん、スノウ。おいで」
「おかーさん!」
「オンッ!」

 本気で怒っていたわけではないらしく、アイシャとスノウはけろっと様子を変えてソフィアに抱きついた。

 一方、リコリスはへろへろとした様子でこちらにやってくる。

「ふぃー、助かったわ……このままだと、美少女可憐妖精リコリスちゃんが、残酷グロテスク妖精リコリスー! になっちゃうところだったわ」
「……なにをやらかしたの?」
「……ナンデモナイワ」

 よくわからないけど、後でお説教かな。
 こういう時は、大抵リコリスが悪い。

「では、こちらへどうぞ」
「はい……えっと」

 ソフィアを見る。

「また後でね」
「はい。楽しみにしていてくださいね」

 本当に楽しみだった。