将来結婚しようね、と約束した幼馴染が剣聖になって帰ってきた~奴隷だった少年は覚醒し最強へ至る~

 のんびり王都の観光をして。
 美味しいものを食べて。

 楽しい時間を過ごしていたら、ふと、冒険者ギルドから呼ばれてしまう。
 何事かと警戒しつつ向かうと……

「結婚式の……宣伝?」

 そんな依頼をお願いされるのだった。

「えっと……それ、どんな依頼? 聞いたことがないんだけど」
「そうだよね。僕も聞いたことがない、あっはっは」

 依頼主はクリフだった。
 まだ王都にとどまっていたらしい。

「ほら、よくあるだろう? 結婚式の手配をする店が、店内に式の様子の絵画を飾るとか」
「ありますね」

 ソフィアがキラキラとした表情で頷いた。
 その隣にいるレナも、うんうんと笑顔で頷いている。

 やっぱり女の子は結婚式に憧れるものがあるのかな?

 アイシャはよくわかっていない様子で、スノウと一緒に遊んでいた。

 ……アイシャもいつか結婚しちゃうのかな?
 旅立つ時が来ちゃうのかな?

 あ、ダメだ。
 ただの想像なのに、なんか泣きそうになってしまう。

「親ばかねー」

 なんてリコリスに呆れられてしまう。

「先の事件で、いくつかの絵画消失してしまったみたいでね。新しいものを用意することになったんだけど、そのモデルをお願いしたいんだ」
「どうして、僕達なんですか?」
「君達だからこそ、だよ」

 クリフ曰く……

 王都はまだまだ復興の途中にある。
 だからこそ、未来に希望を抱かせるようなものが欲しい。

 僕とソフィアはジャガーノートを倒した功労者の一人だ。
 そんな二人がモデルになれば、多くの人の心に光を灯すことができるだろう……と。

「どうかな? 引き受けてくれないかな? もちろん、報酬は弾むよ」
「でも、モデルなんてできるかな……?」
「ただ、簡単なポーズをとっていれば問題ないよ。じっとしていないといけないけど、問題らしい問題はそれだけ」
「うーん」

 モデルなんてやったことがないから不安が残る。

 ソフィアはどう思っているんだろう?

「ねえ、ソフィアは……」
「それはつまり、私とフェイトが結婚式をする、というのを装うということですね!? フェイトと私が、そういう格好をするということですね!?」

 やたら食い気味に問いかけるソフィア。
 目がマジだ。

「う、うん。もちろん、そうなるよ。スティアート君はタキシード、アスカルト君はドレスだね」
「あらあらまあまあ♪」

 ソフィアがにっこりと笑う。
 とても大事なポイントだったらしい。

「フェイト」
「う、うん?」
「これは、絶対に引き受けなければいけない依頼ですよ!」
「え? 絶対、っていうほど大事かな?」
「大事です!!!」

 ぐぐぐっと詰め寄られ、思い切り断言されてしまう。

「私とフェイトの結婚式で人々に希望を抱いてもらう……素敵ですね!」
「ソフィアは結婚式をやりたいだけでしょ」

 リコリスがツッコミを入れるものの、彼女は聞いていない。
 ものすごく興奮した様子で、そして、目をキラキラと輝かせていた。

「というか、この際、本当に結婚式を挙げてしまってもいいかもしれませんね!」
「えぇ!?」
「どうですか、フェイト!? どうですか!?」
「えっと、その……さすがにそれは、本来の趣旨から外れちゃうんじゃないかな……?」

 依頼を達成することができない。

 それに……
 ソフィアといつかは、と思っているものの、いくらなんでも急すぎる。
 そういうのは、僕の方からちゃんと……と思っているのと。
 あと、急すぎて準備がぜんぜん足りていない。

「残念です……」
「でも、依頼は請けてもいいと思うよ。僕も興味があるから」
「さすがフェイトです!」

 ソフィアは僕の手をがしっと握り、ものすごく嬉しそうな顔をした。

「えっと……そういうわけだから、その依頼、請けます」
「ありがとう、助かるよ。じゃあ、詳細だけど……」
「ちょっと待ったぁ!!!」
 話がまとまりかけた時、レナが立ち上がり、ストップをかけた。

「そういうことなら、ボクが立候補するよ!」
「え? でも……」
「元黎明の同盟のボクとフェイト……それはそれで絵になると思わない?」
「ふむ。確かにそれもアリかもね」

 クリフが流されていた。

「でしょ? でしょ?」
「勝手なことを言わないでください。フェイトのパートナーは私が務めます!」

 ソフィアがレナをギロリと睨みつける。
 熊も逃げ出すような迫力があった。

 でも、レナは気にすることなく平然としたものだ。

「レナの出番なんてありません。おとなしく引っ込んでいてもらいましょうか。しっしっ」
「むかっ。そういうソフィアの出番こそないんじゃない? ボクの方が『き・れ・い』だから、きっと絵になると思うよ」
「むかっ。あなた、確か歳下ですよね? 以前、ちらりとそういう話を聞きましたが……年上は敬うものですよ。素直に退いてください」
「そっかそっか。確かに、年上は敬わないとだねぇ……お・ば・さ・ん」
「……うふふ」
「……にひひ」

 二人は笑顔で……
 しかし、その裏に壮絶な怒気を隠して、睨み合う。
 バチバチと火花が散る様子が見えた。

「あぅ……」
「キューン……」

 アイシャとスノウは尻尾を丸めてお腹の辺りにやっていた。
 それほどまでに今の二人は怖い。

「……ちょっとフェイト、あれ、なんとかしなさいよ」
「……無茶振りしないで」
「……あんたが相手を決めれば解決するでしょ」
「……それ、僕に生贄になれ、って言っているようなものだよね?」

 今更、僕の言葉で二人が止まるとは思えない。
 止まるとしても、多大な犠牲を払うことになるだろう。

 ……主に僕が。

「いいでしょう……ならば決闘です!」
「受けて立つ!」
「勝った方がフェイトのパートナーになります、文句はありませんね!?」
「ふふーん、けちょんけちょんにしてあげる!」

 二人は不敵な笑みを浮かべて、ギルドの訓練場に移動した。
 ややあって……

 ドガンッ!

 ゴガァッ!!!

 ズガガガガガッ!!!!!

 轟音が連続で響いてきた。
 ジャガーノートが再来したのでは? と思うほどに激しい。

「そりゃそうだよね……剣聖と黎明の同盟の幹部が本気でケンカをしたら、こうなるよね……」
「フェイト、あれ……」
「無理。僕にも、どうにもできないよ」
「そうね……あたし、もう知らない」
「自然災害のようなものだね、きっと」

 リコリスと二人、妙な悟りを開いてしまう。

「あー……相手は変わるかもしれないとして、この依頼、請けてくれるのかい?」

 クリフが困った様子でそう尋ねてきた。

「どうしても?」
「どうしても」

 この状況……断れないか。

「うん、了解。引き受けます」
「よかった、ありがとう」
「でも、本当にモデルの真似はできないよ?」
「いいんだよ。英雄の姿を残したい、っていうのが目的だからね。それを見て、たくさんの人が希望を抱くはずさ」
「英雄……か」

 くすぐったい話だ。

 僕は元奴隷で……
 パーティーにいいように利用されるだけだった。

 それが今は英雄と呼ばれていた。
 その鍵となったのはソフィアだ。
 彼女と再会したことで全てが変わった。

 いや、ソフィアだけじゃないか。

 リコリスにアイシャにスノウ。
 レナにゼノアス。
 クリフやソフィアの両親や、その他、色々な人達。
 たくさんの出会いが僕の経験となって、そして力になっている。

 今は、その出会いに感謝しかない。
 半日に及ぶ決闘の末、ソフィアが勝利を掴み取った。

 半日も戦わなくても……
 と思うのだけど、本人達にとってはとても大事なことらしく、ツッコミを入れられないほどに真剣な様子だった。

 とにかくも、パートナーが決定した。

 依頼のため、まずは服飾店に。
 ドレスなどはすでに用意されているけど、サイズなどを調整しないといけない。

「いらっしゃいませ」

 店に入ると、オーナーらしき綺麗な女性に迎えられた。

「今日はどのような服をお探しでしょうか?」
「あ、えっと……」
「すみません。私達、クリフの紹介で来たんですが……」
「あら。それじゃあ、あなた達がモデルに?」
「はい」
「ふむ」

 じっと見つめられる。
 女性はソフィアを見て、次いで僕を見る。
 じーっと見る。

 僕を見る時間がやけに長い。
 うぅ……
 もしかして、こんな子供っぽい男がモデルに? と反対されているのかな。

「いいわね」
「え?」
「あなた、とてもいいわ……可愛らしさが前面に出ているものの、その奥に隠された芯の強さ。凛とした瞳に、意思の強さを感じさせられる。体はしっかりと鍛えられていて、しかし、無駄に肉はついていない……あぁ、なんて最高なのかしら!」
「は、はぁ……」

 褒められているのかな?

 ソフィアは、なんでドヤ顔をするの?

「ねえ、あなた!」
「は、はい?」
「結婚式だけじゃなくて、その後も私のところでモデルをやらない?」
「えぇ!?」
「色々な服を着てもらって、私の店の服をアピールしてほしいの。それと、案内用に絵に残して……あ、女性用の服を着るのもありね」

 今、とんでもなく不穏な言葉が聞こえてきたような。

「え、えっと……とりあえず、依頼を先にしたいんですけど」
「あ、それもそうね。みんな!」

 奥から複数人の女性が現れた。

「こちらの方のサイズを測ってちょうだい。私は、この子のサイズを測るわ」
「「えっ」」

 僕とソフィアの驚きの声が重なる。

「待ってください。フェイトのサイズはあなたが測るんですか?」
「ええ、そうよ」
「そんな美味しい役目を他の人に……」
「ソフィア?」
「私がやります! フェイトに堂々と触れるチャンス……ではなくて、私がフェイトのパートナーですから!」
「ソフィア?」

 欲望が漏れているよ?

「でもあなた、きちんと測ることはできるの? こういうのって、適当にやるだけじゃダメなのよ。きちんと正確に測らないとダメ」
「うっ、それは……」
「知識がないならダメ。悪いけど、ここは譲るつもりはないわ」
「フェイトに変なことをしませんか?」
「……しないわよ」

 今の間は!?

「さあさあ、剣聖様はこちらへ」
「ふふ、こんなにも極上の素材がやってくるなんて……」
「測るついでに、色々と教えてさしあげましょう」
「え? え?」

 ソフィアの顔が青くなる。
 僕の心配をするどころじゃないと気づいたらしい。

「さあ、行きましょう」
「みっちりねっとり丁寧に測ってあげますわ」
「ふふ、楽しみね。どんな声で鳴いてくれるのかしら」
「あ、いえ、その……やっぱり私は……」
「「「さあ、行くわよ!!!」」」
「いやぁあああああーーーーー!?」

 ソフィアは引きずられるようにして店の奥に消えた。

 だ、大丈夫かな……?

「それじゃあ」

 がしっと、肩を掴まれた。
 恐る恐る振り返ると、にっこりと笑う女性が。

「私達も仕事をしましょうか」
「え、えっと……はい」

 ダメだ、逃げられない。
 観念した僕は、罠にかかった鹿のような気持ちで頷くのだった。



――――――――――



 その夜。
 採寸を終えてソフィアと合流したけど……
 僕もソフィアもものすごく疲れて、魂が抜けたような顔をしていたけど、互いに深く追求することはしないのだった。
 数日が過ぎて……
 いよいよ依頼当日。

 僕達は会場となる教会を訪れた。

「わー!」
「オンッ!」

 教会に飾られた巨大なステンドグラスを見て、アイシャが瞳をキラキラと輝かせた。
 スノウも尻尾をぶんぶんと振っている。

 教会の中を見るのは初めてなんだろうな。
 これはすごい! という感じで、トテテテと教会内を見て回っている。

 その後ろを保護者のようにリコリスがついていく。

「あーこらこら、壺とか触ったらダメよ。それ、高そうだからね」
「綺麗……」
「ワフッ」
「ステンドグラスもダメ。ってか、届かないでしょ。ジャンプしても無理。え? 代わりにあたしに触ってきてほしい? 意味あるの、それ?」

 とりあえず、アイシャとスノウはリコリスに見てもらえば問題ないかな。
 本人達は楽しそうなので、そこまで大きな問題はないだろう。

「ようこそ、お待ちしておりました」

 奥からピシリと正装で身を包んだスタッフが現れた。
 この教会の関係者なのだろうけど……

「神父様じゃないんですね」
「自分は結婚式を専門に担当する者でして。教会は神に祈りを捧げる場ではありますが、子供達に簡単な勉強を教えていますし、式を挙げて永遠の愛を誓うこともありますからね。私のような専門の担当者がいるんですよ」
「なるほど」

 勉強になる話だった。
 長く奴隷をやっていたせいか、こういう基本的な知識は足りていないんだよな。

 うーん……いつか、ちゃんと勉強をした方がいいかな?
 剣の腕はそれなりに身についたと思う。
 戦う知識も身についたと思う。

 ただ、一般的な知識はまだまだ。

「画家の方は少し遅れているので、後で紹介しますね。先に着替えを済ませてしまいましょうか」
「はい、わかりました」
「楽しみですね、フェイト」

 ソフィアはるんるん気分のにっこり笑顔だった。

 本当の結婚式じゃないとしても、ドレスを着れることが嬉しいらしい。
 なんとなくだけどわかる。
 やっぱり、女の子にとって結婚式は憧れだろう。
 ウェディングドレスは一生で一度もの。
 着ることができるとなれば、自然と笑顔になっちゃうんだろうな。

 ソフィアのウェディングドレスか……うーん。
 どんな感じになるんだろう?
 綺麗なのは絶対に間違いない。
 でも、僕の想像力が貧弱なせいで、うまく想像できない。

「では、フェイト様はこちらの部屋へ。ソフィア様は、あちらの部屋にどうぞ。中に専門のスタッフが待機しておりますので」
「ありがとうございます」
「えっと……」

 スタッフが少し困った様子で教会の奥を見た。

「うー」
「ガルルルッ」
「ちょ、まった!? 冗談、冗談だから。リコリスちゃんジョーク!」

 アイシャとスノウが尻尾を逆立てて、共にリコリスを睨みつけていた。

 いったい、リコリスはなにをやらかしたんだろう……?

「お連れの方々はどうしましょう……?」
「アイシャちゃん、スノウ。おいで」
「おかーさん!」
「オンッ!」

 本気で怒っていたわけではないらしく、アイシャとスノウはけろっと様子を変えてソフィアに抱きついた。

 一方、リコリスはへろへろとした様子でこちらにやってくる。

「ふぃー、助かったわ……このままだと、美少女可憐妖精リコリスちゃんが、残酷グロテスク妖精リコリスー! になっちゃうところだったわ」
「……なにをやらかしたの?」
「……ナンデモナイワ」

 よくわからないけど、後でお説教かな。
 こういう時は、大抵リコリスが悪い。

「では、こちらへどうぞ」
「はい……えっと」

 ソフィアを見る。

「また後でね」
「はい。楽しみにしていてくださいね」

 本当に楽しみだった。
「はい、こちらで終わりになります」

 別室に案内されて、30分ほどでタキシードに着替え終わる。
 初めて着るものだから大変だったけど、専門のスタッフが手伝ってくれたおかげでなんとかなった。

「へー……いいじゃない、うん。馬子にも衣装っていうものね」
「それ、褒めている?」
「当たり前よ。リコリスちゃんが誰かを褒めるなんて、3万年に一度あるかないかよ」

 とんでもない確率だ。

「ま、安心しなさい。いい感じに男前になっているわ」
「そ、そうかな?」

 ちょっと照れた。
 でも、嬉しい。

 その時、コンコンと扉をちょっと乱雑にノックする音が響いた。
 扉が開いて、アイシャとスノウが顔を見せる。

「おー、おとーさん、かっこいい!」
「オンッ!」

 二人は目をキラキラとさせて、僕のタキシード姿を褒めてくれる。

 ただ、そんな二人もおめかししていた。
 アイシャは可愛い服に着替えて。
 スノウも首と尻尾にアクセサリーをつけている。

「どうしたの、それ?」
「わたし達も一緒に、って言われたの」
「そうなの?」
「えへへー。おとーさん、可愛い?」
「うん、すごく可愛いよ」
「やった!」
「スノウはかっこよくなったよ。首輪と尻尾の鈴、よく似合っているよ」
「オフゥ」

 アイシャが抱きついてきて、スノウは頭を擦り付けてきた。

 そっか、二人も一緒なんだ。
 見ているだけじゃ退屈かと気になっていたけど、これなら安心だ。

「ちょっとちょっと、それじゃああたしはどうなるの?」
「リコリスのこともお願いしてみるよ。妖精が一緒なんて、たぶん、向こうは嬉しいと思うから」

 そんな話をしていると、再び扉をノックする音が。
 そして……

「……」

 思わず言葉を失う。

 扉が開いて姿を見せたのは、ソフィアだった。
 白を基本としたドレスに身を包んでいる。
 胸元にあしらわれた白のバラの造花が綺麗で、彼女の美しさに文字通り花を添えていた。

 それに化粧もしていた。
 派手なものじゃない。
 淡いリップと……頬とか目元になにか。
 ダメだ、化粧はさっぱりわからない。

 でも、いつものソフィアとがらりと印象が変わっていた。
 ちょっと手を加えただけのはずなのに、別人みたいだ。
 これが化粧の力。

「どうですか、フェイト?」
「……」
「こうしてドレスを着ていると、ちょっとうわついた気持ちになってしまいますね。なんていうか……ようやく、あの約束を果たすことができる、そんな気持ちになってしまいます」
「……」
「まあ、今回はモデルなので、本番ではないんですけどね……って、フェイト?」
「うわっ」

 ソフィアが距離を詰めてきて、ぐいっとこちらの顔を覗き込んできた。

「もう、さっきから黙ってどうしたんですか?」
「あ、いや……それは、その……」
「綺麗だよ、とか。可愛いよ、でもいいんですけど……なにかしら感想が欲しいのですが? ……似合っていない、ということはありませんよね?」
「それは絶対にないよ!」

 ついつい強く否定してしまう。

 ソフィアのドレス姿が似合っていない?
 そんなことありえるわけがない、天地がひっくり返ってもありえない。

「その、なんていうか、えっと……あーもうっ、うまく言葉にできない! けど、すごくすごくすごく綺麗だよっ!!!」

 とにかく、その一言だけは伝えないと思い、たくさんの笑顔と強い思いを込めて言った。

 ソフィアは目を大きくして……
 次いで、ほんのりと優しく笑う。

「ありがとうございます」

 僕の花嫁は……こんなにも綺麗だ。
 その後、すぐにモデルの仕事が行われた。

 式の会場に移動して、ステンドグラスの下で僕とソフィアが横に並ぶ。
 その左右にアイシャとスノウ。
 リコリスはアイシャの頭の上に乗っていた。

「では、始めますね」

 画家が到着して、さっそく仕事を始めた。
 滑らかなタッチで絵を描いていく。
 こちらから見えないのが残念だ。

「……これ、暇ね。どれくらいじっとしていないといけないの?」
「数時間は覚悟しておいた方がいいですよ」
「うげっ、そんなに……?」
「合間に休憩があるから大丈夫だよ」
「うへぇ……」

 リコリスは、やっぱりやめておけばよかった、なんていう顔をしていた。

 一方で、アイシャはとてもわくわくした感じだ。
 目をキラキラと輝かせている。

「アイシャは楽しい?」
「うん!」
「あ、えっと……」

 尻尾がぶんぶんと振られていた。
 これ、大丈夫かな?

「問題ありませんよ。ただ、後で彼女の尻尾だけスケッチさせていただければ」
「あ、はい。わかりました」

 優しい人でよかった。

 アイシャも尻尾は自分でコントロールできないところもあるみたいだから、仕方ない。

「わたしとおとーさんとおかーさんとスノウの絵……素敵!」
「ちょっと、あたしは!?」
「ワフッ」
「あ、こらスノウ。笑ったわね?」
「スノウをいじめたら、めっ」
「なんか最近、アイシャがソフィアやフェイトに似てきたわね……」
「ふふ。だとしたら嬉しいですね」
「そうだね」

 本当の家族になれたような気がする。

 でも、ここで終わりじゃない。
 これからも一緒の時間を過ごして、何度も笑い、絆を深めていくだろう。
 ずっと。

「ねえ、フェイト」

 そっと、ソフィアが僕にだけ聞こえる声量で言う。

「こうしていると、結婚式みたいですね」
「う、うん……そうだね。僕も同じことを考えていたよ」

 式を挙げる時、こうして絵画に残す人は多いって聞く。

「ちょっとドキドキしますね」
「ワクワクもするかな」
「フェイトは豪胆ですね」
「これくらいで豪胆、って言われても……」
「私は……本当に、ものすごくドキドキしていますから」

 ちらりと見ると、ソフィアの頬は赤くなっていた。
 りんごみたいだ。

 でも、それは僕も同じ。
 頬が熱くて、きっと同じように赤くなっていると思う。

「……あのさ」
「はい」

 ちょっと迷って。
 でも、ここで言わなければいつ言うんだ、と決意を固める。

「今日のこれは依頼だけど……その、えっと……いつか、そう遠くないうちに、本当の式を挙げたい」
「……フェイト……」
「ど、どうかな……?」

 ソフィアは……優しく、とても優しい笑みを浮かべる。

「はい、もちろん」
「うん、ありがとう」
 数時間かけて、ようやくモデルの仕事が終わった。
 途中、何度か休憩を挟んだものの、けっこう疲れた。

「ふぅ」

 誰もいなくなった式場で、僕は一人、キラキラのステンドグラスを見上げていた。

 ソフィアは着替え中。
 アイシャ達は疲れて寝てしまい、控え室で休んでいる。

「なんか、夢のような時間だったなあ……」

 モデルの仕事だけど、ソフィアのドレス姿を見ることができた。
 それがとにかく嬉しい。

「でも、いつかは……」

 仕事とかじゃなくて、本当の式を挙げたい。

「フェイト」
「あれ、ソフィア?」

 振り返るとソフィアがいた。
 着替えていたはずなのに、まだドレス姿のままだ。

「どうしたの?」
「私が使っていた控え室は、ちょっと今別の方が使っているみたいで……それまで、私はここで待機となりました」
「そうなんだ、大変だね」
「そうでもありませんよ? こうして、フェイトと二人でいることができますからね」
「え、えっと……」

 ソフィアが隣に並ぶ。

 ドレス姿のソフィアは本当に綺麗だ。
 女神様のようだ。
 誇張表現じゃなくて、心の底からそう思う。

 ドキドキしてしまう。
 ものすごく緊張してしまう。

「ねえ、フェイト」
「う、うん。なに?」
「いつか、こうして式を挙げたいですね」
「ソフィア……うん、僕も今、同じことを考えていたよ」

 恥ずかしくて。
 ちょっと照れてしまうけど、でも、これはしっかりと言っておかないといけないと思った。

「だって……ソフィアのことが好きだから」
「……はい、私もフェイトのことが大好きですよ」

 ソフィアは顔を赤くしつつ、嬉しそうにはにかんだ。

 本当に綺麗だ。
 彼女から目を離すことができない。
 視線と……そして、心を奪われてしまう。

 僕の心を知っているのか知らないのか、ソフィアはこちらをじっと見つめていた。
 その瞳はしっとりと潤んでいるようだ。

「……フェイト……」
「……ソフィア……」

 互いに名前を呼ぶ。
 それから、そっと距離を寄せていく。

 心が惹かれて。
 体も引かれていく。

 そして……

「……ん……」

 二人の距離がゼロになった。

 唇に広がる柔らかい感触。
 温かくて。
 幸せで。
 いつまでも、ずっとこうしていたいと思う。

「「……」」

 ややあって、どちらからともなく唇を離した。

 ソフィアは真っ赤だ。
 たぶん、僕も真っ赤になっていると思う。

「キス……しちゃいましたね」
「うん、そうだね……」
「なんていうか、本当の結婚式みたいです……」
「また今度……そう遠くないうちに、本当の結婚式をしよう」
「……フェイト……」

 ソフィアの手を取り、その顔をじっと見つめる。

「僕と結婚してくれませんか?」
「……はい、喜んで……」

 ソフィアは花が咲くような笑顔を浮かべて、しっかりと頷くのだった。
 モデルの依頼が終わって……
 翌日からは王都の観光をみんなで楽しんで……

 一週間が経った。

「んー、今日はどんなグルメに出会えるかしら?」
「オンッ!」

 スノウの頭の上で、リコリスが王都の地図を宙に浮かせて、見ていた。
 美味しい飲食店を探しているみたいだけど……

「ねえねえ、リコリス」
「なに? アイシャも一緒に行く? ふふん、あたしに任せなさい。この一週間、食べ歩きをしたリコリスちゃんは、王都の美味しいものマスターになったわ。肉も魚も甘味も、素敵なところを教えてあげる」
「太った?」
「あがっ!?」

 クリティカルヒット。
 アイシャの素朴な疑問に、リコリスは石化したように固まる。

「んー……言われてみると、妖精ちゃん、ぽっちゃりしてきたね。ボクって記憶力がいいから、そこは間違えないよ」
「え……ま、マジで?」
「マジマジ」
「………………」

 絶句していた。

「スノウ! 今すぐ、王都を100周するわよ!?」
「オンッ!」
「こらこら」

 涙目で駆け出そうとするリコリスをソフィアが摘む。

「ダイエットは後にしてくれませんか? 今日は、これからのことを話し合わないといけないんですから」
「ソフィアは、超絶可愛いミラクル的天才美少女妖精リコリスちゃんが太ってもいいっていうの!?」
「自業自得じゃないですか。そんなに食べたら太りますよ、って何度も言いましたよね?」
「うぐっ」
「運動するなら後で機会を用意しますから。まずは、話し合いに参加してくださいね」
「はーい……」

 この一週間、王都観光をたっぷり楽しんだ。
 それと、結婚式のモデルになるという思わぬ依頼も請けて、楽しんだ。

 そろそろ冒険に戻りたい。

 この王都で活動を続けるか。
 それとも、他の場所に移動するか。
 あるいは第三の道を選ぶか。

 みんなで話し合いたいところだ。

「ボクは海に行きたいな。みんなで海で遊ぼう?」
「遊ぶために旅をするなんて……」
「そういう、のんびりした冒険があってもいいんじゃない? 適当に依頼をしつつ、楽しむところは楽しんで。大きな目的がないなら、遊びをメインにするのもアリっしょ」

 言われてみるとそうかもしれない。

「アイシャちゃんは、なにかしたいことはありますか?」
「うーん、うーん……おいしいもの、食べたい!」
「オンッ!」

 じゅるりとよだれが垂れていた。
 スノウも、尻尾をぶんぶんと振っている。
 この一週間で、すっかりグルメツアーの虜になってしまったみたいだ。

「リコリスは?」
「あたしは、ダイエットできるならなんでもいいわ……」

 太ってしまったという事実が相当堪えているらしく、いつもの元気がない。

「フェイトは?」
「僕は……」

 考える。
 ただ、すぐに答えが思い浮かばない。

 レナが言っていたように、遊ぶことをメインに旅をしてもいい。
 アイシャが言っていたように、グルメツアーをしてもいい。

 というか……
 なんでもいいことに気がついた。

 アイシャがいて、リコリスがいて、スノウがいて、レナがして。
 そして、ソフィアがいる。
 みんながいればなんでもいい。
 一緒に楽しむことができれば、それでいい。

「質問を返してごめんだけど、ソフィアは?」
「私はなんでもいいですよ」
「……」

 答えが同じで驚いてしまう。

「みんなと……フェイトと一緒なら、きっと、どんなことをしても楽しい旅になると思いますから」
「……うん、そうだね」

 新しい旅をしよう。
 そして、新しい発見をしよう。

 でも、僕達は変わらない。
 離れることなんてない。
 ずっと一緒だ。

 たくさんの街を回り。
 色々なものを見て。
 みんなとの思い出を作って。

 そんな旅をしよう。

『フェイト、大きくなったら冒険者になって、一緒に旅をしましょう』

 幼い頃に交わした約束。
 ようやくそれを果たせるような気がした。

 楽しい時間はどこまでも続いていく。
 笑顔はどこまでも広がっていく。

 さあ。
 冒険に行こう。

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