4話 パーティー結成
あれから僕達は場所を変えて、別の宿屋兼食堂に移動した。
シグルド達はその場に残してきたため、どうなったかわからないけど……
とんでもなく強烈な一撃を受けたみたいだから、シグルドは、しばらくは目を覚まさないだろう。
「お姉さん、私はオレンジジュースとパフェを」
「……」
「フェイトはどうします?」
「……」
「フェイト、どうしたのですか?」
「はっ!?」
問いかけられて、我に返る。
「あ、うん。ごめん……えっと、僕はコーヒーをください」
「はい。オレンジジュースとコーヒー。それと、パフェですね。少しお待ちください」
ウェイトレスさんは、ぺこりとお辞儀をして去る。
そうして二人きりになったところで、改めてソフィアを見る。
「ひさしぶりですね、フェイト」
「……本当にソフィアなんだよね?」
「はい、私ですよ。それとも、フェイトは、私が私以外の何者かに見えるのですか?」
「そ、そんなことはないよ。大事な大事なソフィアを見間違えるなんて、そんなことは絶対にしないよ」
「あら、うれしい台詞ですね」
「でも……本当のことを言うと、本物なのかな? って少し疑ったかも」
「む、それは聞き捨てならない台詞ですね。十年ぶりだから、さすがにわからなかったのすか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。ただ、あまりにも綺麗になっていたから……うん、それこそ天使みたいに。だから、つい」
「……」
なぜかソフィアが赤くなり、目を逸らす。
「そういうことをサラリと……まったく、フェイトのそういうところ、昔とぜんぜん変わっていないのですね」
「そういうところ? どういうところ?」
「いいえ、なんでもありません」
ほどなくして、注文した商品が運ばれてきた。
ソフィアはオレンジジュースを一口飲んで、優しく笑う。
「でも、よかったです。フェイトと再会することができて、うれしいです」
「僕も……うん。うれしいよ」
「なんですか、その間は? それと、微妙な顔をしています」
「それは……」
詳しくは知らないけれど、彼女は立派な冒険者になっていた。
Aランクのシグルドを一撃で倒してしまうことが、その証明となる。
一方の僕はどうだろう?
奴隷となり、シグルド達にいいように利用されて……
立派な冒険者とは程遠い。
情けない。
彼女にどう向き合えばいいのか、わからない。
「……なんて情けないのだろう、っていうことを考えているのですか?」
「えっ、なんでわかるの!?」
「ふふっ、わかりますよ。大事な幼馴染のことですもの」
ソフィアは小悪魔的に笑う。
ただ、その奥に優しさが見えた。
それと……僕と再会できてうれしいという、喜びも。
「あまり自分を卑下しないでください」
「でも、僕は……」
「奴隷になっていたとか、そういうことはどうでもいいのです。私はただ、フェイトと再会できたことがすごくうれしいです。フェイトはどうですか?」
「僕も、もちろんうれしいよ。ソフィアと再会することができて、心底幸せで、ともすれば笑顔が止まらなくなりそうで、ずっとにこにこしていそうで、胸が温かくなって、幸せで、ふわふわしたような気分に……」
「……ストップ、待ってください」
「え?」
「だから、そういうことを言われると……その、困ります。とても困ります」
「なんで困るの?」
「だから、それは……」
ソフィアは、赤い顔をしてもじもじとする。
照れているみたいだけど、なんで?
「もう……そういうところなのだから、気をつけてください」
どういうところ?
「でも……うん、わかったよ。せっかくソフィアと再会できたのに、無粋なことを考えたり言葉にするのはやめにするよ」
「ええ、そうしてください」
「改めて……ひさしぶりだね、ソフィア」
「はい。ひさしぶりですね、フェイト」
互いに微笑み合う。
十年という歳月が経過していたのだけど……
そんなものは関係ないというかのように、僕達はすぐに心を通わせることができた。
「ところで……あの時のこと、覚えていますか?
「あの時?」
「私が村を去る前日、約束したことですよ」
「あ……そ、それは」
きっちりと覚えている。
あの時の台詞、一字一句、全て覚えている。
「覚えているのなら、教えてくれませんか?」
「……それは、どうして?」
「フェイトの口から、改めて聞きたいのです」
じっと、ソフィアはこちらを見つめてきた。
とても熱い眼差しだ。
僕が氷だとしたら、すぐに溶けてしまいそうな、それほどに熱い情熱が秘められている。
恥ずかしいのだけど……
でも、きちんと言わないとダメだろう。
「将来、冒険者になって、再会して……パーティーを組もう。それで、夢を実現させて、世界中を旅しよう。今は離れ離れになるかもしれないけど、でも、それは一時の間だけ。未来では、ずっと一緒にいるよ」
「はい」
「それと、もう一つ約束をしたね」
「その約束は?」
「結婚……しよう」
「ふふっ、よくできました」
ソフィアは、今日一番の笑顔を見せた。
キラキラと輝いていて、まるで宝石のようだ。
そう……あの時、そんな約束もしていたのだ、僕達は。
子供の約束と侮ることなかれ。
少なくとも、僕は本気だ。
ずっとソフィアのことを想い続けてきた。
「ソフィアは……あの約束、どう思っているの?」
「え? 子供の約束でしょう?」
「えっ」
「なんて……ふふっ、ウソですよ。うそ」
いたずらっ子のような笑顔を見せて、
「私も……ずっと、フェイトのことを想っていました。あの時の約束、本当にしたいと思っています。本気ですよ?」
今度は、優しく綺麗な笑顔で言う。
見惚れてしまいそうになりつつも、僕は首を横に振る。
「で、でも待ってほしいんだ!」
「あら。フェイトは、あの時から心変わりをしたのですか?」
「そんなことはないよ! 僕は、ずっと、あの時からソフィアに恋をしている! ずっとずっと好きで、片時も忘れたことはない。大好きだ!」
「っ!? そ、そう……ほ、本当に、そういうところはストレートに言うのですね……たまに、私のことをからかっているのではないかと、邪推してしまいます」
「なんのこと?」
「なんでもありません。それで、続きは?」
「あの時と気持ちは変わらない。でも、僕は、冒険者としてはとても中途半端で、未熟者もいいところで……一人前には程遠い。だから、一人前になった時に……改めて、僕の話を聞いてほしいんだ」
「ふぅん……男の意地、というヤツでしょうか?」
「そう、かもしれない。ソフィアは……イヤかな?」
ソフィアは……にっこりと笑う。
「いいえ、構いませんよ」
「本当に?」
「フェイトのそういう心、わからないでもないですから。なので、フェイトが満足するようにしたらいいと思います。急かさないし、いつまでも待ちますよ」
「ごめん……」
「謝らないでください。でも……待たされる分、期待はしてしまいます。いいですか?」
「もちろん。その時が来たら、絶対にソフィアを満足させてみる。その心を満たして、温かい気持ちでいっぱいにして、幸せにしてみせるよ!」
「も、もう……そんなことを真顔で言われたら、さすがに恥ずかしいじゃないですか」
「え、なんで?」
「この幼馴染は……本当、天然のタラシさんですね。でも……ふふっ、とても懐かしくて、悪い気分じゃないですね」
ちょっぴり涙混じりで、ソフィアは微笑んだ。
「先のことはフェイトのタイミングに任せますが……でも、これだけは譲れない、っていうものがあります」
「それは……?」
「一緒に冒険をしましょう」
ソフィアはこちらに手を差し出してきた。
そして、とびきりの笑顔で言う。
「一緒に魔物を討伐しましょう? 悪い人をこらしめましょう? ダンジョンを攻略しましょう? 未開の地を探索しましょう? 伝説の財宝を手に入れましょう?」
「……」
「二人で世界を旅して、ありとあらゆる冒険をして、共に歩み続けましょう」
「ソフィア、キミは……」
十年前となにも変わっていない。
あの時の彼女のままだ。
そのことに、深く、深く安堵した。
そして、とてもうれしく思う。
「さあ、返事を聞かせてくれませんか」
「……」
「フェイト……私とパーティーを組みましょう? その答えは?」
「答えは……」
僕は、迷うことなくソフィアの手を握る。
「キミと、パーティーを組むよ」
「ええ、歓迎します。ふふっ、大歓迎ですよ」
「一緒に冒険しよう!」
こうして、僕達はパーティーを結成するのだった。
あれから僕達は場所を変えて、別の宿屋兼食堂に移動した。
シグルド達はその場に残してきたため、どうなったかわからないけど……
とんでもなく強烈な一撃を受けたみたいだから、シグルドは、しばらくは目を覚まさないだろう。
「お姉さん、私はオレンジジュースとパフェを」
「……」
「フェイトはどうします?」
「……」
「フェイト、どうしたのですか?」
「はっ!?」
問いかけられて、我に返る。
「あ、うん。ごめん……えっと、僕はコーヒーをください」
「はい。オレンジジュースとコーヒー。それと、パフェですね。少しお待ちください」
ウェイトレスさんは、ぺこりとお辞儀をして去る。
そうして二人きりになったところで、改めてソフィアを見る。
「ひさしぶりですね、フェイト」
「……本当にソフィアなんだよね?」
「はい、私ですよ。それとも、フェイトは、私が私以外の何者かに見えるのですか?」
「そ、そんなことはないよ。大事な大事なソフィアを見間違えるなんて、そんなことは絶対にしないよ」
「あら、うれしい台詞ですね」
「でも……本当のことを言うと、本物なのかな? って少し疑ったかも」
「む、それは聞き捨てならない台詞ですね。十年ぶりだから、さすがにわからなかったのすか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。ただ、あまりにも綺麗になっていたから……うん、それこそ天使みたいに。だから、つい」
「……」
なぜかソフィアが赤くなり、目を逸らす。
「そういうことをサラリと……まったく、フェイトのそういうところ、昔とぜんぜん変わっていないのですね」
「そういうところ? どういうところ?」
「いいえ、なんでもありません」
ほどなくして、注文した商品が運ばれてきた。
ソフィアはオレンジジュースを一口飲んで、優しく笑う。
「でも、よかったです。フェイトと再会することができて、うれしいです」
「僕も……うん。うれしいよ」
「なんですか、その間は? それと、微妙な顔をしています」
「それは……」
詳しくは知らないけれど、彼女は立派な冒険者になっていた。
Aランクのシグルドを一撃で倒してしまうことが、その証明となる。
一方の僕はどうだろう?
奴隷となり、シグルド達にいいように利用されて……
立派な冒険者とは程遠い。
情けない。
彼女にどう向き合えばいいのか、わからない。
「……なんて情けないのだろう、っていうことを考えているのですか?」
「えっ、なんでわかるの!?」
「ふふっ、わかりますよ。大事な幼馴染のことですもの」
ソフィアは小悪魔的に笑う。
ただ、その奥に優しさが見えた。
それと……僕と再会できてうれしいという、喜びも。
「あまり自分を卑下しないでください」
「でも、僕は……」
「奴隷になっていたとか、そういうことはどうでもいいのです。私はただ、フェイトと再会できたことがすごくうれしいです。フェイトはどうですか?」
「僕も、もちろんうれしいよ。ソフィアと再会することができて、心底幸せで、ともすれば笑顔が止まらなくなりそうで、ずっとにこにこしていそうで、胸が温かくなって、幸せで、ふわふわしたような気分に……」
「……ストップ、待ってください」
「え?」
「だから、そういうことを言われると……その、困ります。とても困ります」
「なんで困るの?」
「だから、それは……」
ソフィアは、赤い顔をしてもじもじとする。
照れているみたいだけど、なんで?
「もう……そういうところなのだから、気をつけてください」
どういうところ?
「でも……うん、わかったよ。せっかくソフィアと再会できたのに、無粋なことを考えたり言葉にするのはやめにするよ」
「ええ、そうしてください」
「改めて……ひさしぶりだね、ソフィア」
「はい。ひさしぶりですね、フェイト」
互いに微笑み合う。
十年という歳月が経過していたのだけど……
そんなものは関係ないというかのように、僕達はすぐに心を通わせることができた。
「ところで……あの時のこと、覚えていますか?
「あの時?」
「私が村を去る前日、約束したことですよ」
「あ……そ、それは」
きっちりと覚えている。
あの時の台詞、一字一句、全て覚えている。
「覚えているのなら、教えてくれませんか?」
「……それは、どうして?」
「フェイトの口から、改めて聞きたいのです」
じっと、ソフィアはこちらを見つめてきた。
とても熱い眼差しだ。
僕が氷だとしたら、すぐに溶けてしまいそうな、それほどに熱い情熱が秘められている。
恥ずかしいのだけど……
でも、きちんと言わないとダメだろう。
「将来、冒険者になって、再会して……パーティーを組もう。それで、夢を実現させて、世界中を旅しよう。今は離れ離れになるかもしれないけど、でも、それは一時の間だけ。未来では、ずっと一緒にいるよ」
「はい」
「それと、もう一つ約束をしたね」
「その約束は?」
「結婚……しよう」
「ふふっ、よくできました」
ソフィアは、今日一番の笑顔を見せた。
キラキラと輝いていて、まるで宝石のようだ。
そう……あの時、そんな約束もしていたのだ、僕達は。
子供の約束と侮ることなかれ。
少なくとも、僕は本気だ。
ずっとソフィアのことを想い続けてきた。
「ソフィアは……あの約束、どう思っているの?」
「え? 子供の約束でしょう?」
「えっ」
「なんて……ふふっ、ウソですよ。うそ」
いたずらっ子のような笑顔を見せて、
「私も……ずっと、フェイトのことを想っていました。あの時の約束、本当にしたいと思っています。本気ですよ?」
今度は、優しく綺麗な笑顔で言う。
見惚れてしまいそうになりつつも、僕は首を横に振る。
「で、でも待ってほしいんだ!」
「あら。フェイトは、あの時から心変わりをしたのですか?」
「そんなことはないよ! 僕は、ずっと、あの時からソフィアに恋をしている! ずっとずっと好きで、片時も忘れたことはない。大好きだ!」
「っ!? そ、そう……ほ、本当に、そういうところはストレートに言うのですね……たまに、私のことをからかっているのではないかと、邪推してしまいます」
「なんのこと?」
「なんでもありません。それで、続きは?」
「あの時と気持ちは変わらない。でも、僕は、冒険者としてはとても中途半端で、未熟者もいいところで……一人前には程遠い。だから、一人前になった時に……改めて、僕の話を聞いてほしいんだ」
「ふぅん……男の意地、というヤツでしょうか?」
「そう、かもしれない。ソフィアは……イヤかな?」
ソフィアは……にっこりと笑う。
「いいえ、構いませんよ」
「本当に?」
「フェイトのそういう心、わからないでもないですから。なので、フェイトが満足するようにしたらいいと思います。急かさないし、いつまでも待ちますよ」
「ごめん……」
「謝らないでください。でも……待たされる分、期待はしてしまいます。いいですか?」
「もちろん。その時が来たら、絶対にソフィアを満足させてみる。その心を満たして、温かい気持ちでいっぱいにして、幸せにしてみせるよ!」
「も、もう……そんなことを真顔で言われたら、さすがに恥ずかしいじゃないですか」
「え、なんで?」
「この幼馴染は……本当、天然のタラシさんですね。でも……ふふっ、とても懐かしくて、悪い気分じゃないですね」
ちょっぴり涙混じりで、ソフィアは微笑んだ。
「先のことはフェイトのタイミングに任せますが……でも、これだけは譲れない、っていうものがあります」
「それは……?」
「一緒に冒険をしましょう」
ソフィアはこちらに手を差し出してきた。
そして、とびきりの笑顔で言う。
「一緒に魔物を討伐しましょう? 悪い人をこらしめましょう? ダンジョンを攻略しましょう? 未開の地を探索しましょう? 伝説の財宝を手に入れましょう?」
「……」
「二人で世界を旅して、ありとあらゆる冒険をして、共に歩み続けましょう」
「ソフィア、キミは……」
十年前となにも変わっていない。
あの時の彼女のままだ。
そのことに、深く、深く安堵した。
そして、とてもうれしく思う。
「さあ、返事を聞かせてくれませんか」
「……」
「フェイト……私とパーティーを組みましょう? その答えは?」
「答えは……」
僕は、迷うことなくソフィアの手を握る。
「キミと、パーティーを組むよ」
「ええ、歓迎します。ふふっ、大歓迎ですよ」
「一緒に冒険しよう!」
こうして、僕達はパーティーを結成するのだった。