話がまとまりかけた時、レナが立ち上がり、ストップをかけた。

「そういうことなら、ボクが立候補するよ!」
「え? でも……」
「元黎明の同盟のボクとフェイト……それはそれで絵になると思わない?」
「ふむ。確かにそれもアリかもね」

 クリフが流されていた。

「でしょ? でしょ?」
「勝手なことを言わないでください。フェイトのパートナーは私が務めます!」

 ソフィアがレナをギロリと睨みつける。
 熊も逃げ出すような迫力があった。

 でも、レナは気にすることなく平然としたものだ。

「レナの出番なんてありません。おとなしく引っ込んでいてもらいましょうか。しっしっ」
「むかっ。そういうソフィアの出番こそないんじゃない? ボクの方が『き・れ・い』だから、きっと絵になると思うよ」
「むかっ。あなた、確か歳下ですよね? 以前、ちらりとそういう話を聞きましたが……年上は敬うものですよ。素直に退いてください」
「そっかそっか。確かに、年上は敬わないとだねぇ……お・ば・さ・ん」
「……うふふ」
「……にひひ」

 二人は笑顔で……
 しかし、その裏に壮絶な怒気を隠して、睨み合う。
 バチバチと火花が散る様子が見えた。

「あぅ……」
「キューン……」

 アイシャとスノウは尻尾を丸めてお腹の辺りにやっていた。
 それほどまでに今の二人は怖い。

「……ちょっとフェイト、あれ、なんとかしなさいよ」
「……無茶振りしないで」
「……あんたが相手を決めれば解決するでしょ」
「……それ、僕に生贄になれ、って言っているようなものだよね?」

 今更、僕の言葉で二人が止まるとは思えない。
 止まるとしても、多大な犠牲を払うことになるだろう。

 ……主に僕が。

「いいでしょう……ならば決闘です!」
「受けて立つ!」
「勝った方がフェイトのパートナーになります、文句はありませんね!?」
「ふふーん、けちょんけちょんにしてあげる!」

 二人は不敵な笑みを浮かべて、ギルドの訓練場に移動した。
 ややあって……

 ドガンッ!

 ゴガァッ!!!

 ズガガガガガッ!!!!!

 轟音が連続で響いてきた。
 ジャガーノートが再来したのでは? と思うほどに激しい。

「そりゃそうだよね……剣聖と黎明の同盟の幹部が本気でケンカをしたら、こうなるよね……」
「フェイト、あれ……」
「無理。僕にも、どうにもできないよ」
「そうね……あたし、もう知らない」
「自然災害のようなものだね、きっと」

 リコリスと二人、妙な悟りを開いてしまう。

「あー……相手は変わるかもしれないとして、この依頼、請けてくれるのかい?」

 クリフが困った様子でそう尋ねてきた。

「どうしても?」
「どうしても」

 この状況……断れないか。

「うん、了解。引き受けます」
「よかった、ありがとう」
「でも、本当にモデルの真似はできないよ?」
「いいんだよ。英雄の姿を残したい、っていうのが目的だからね。それを見て、たくさんの人が希望を抱くはずさ」
「英雄……か」

 くすぐったい話だ。

 僕は元奴隷で……
 パーティーにいいように利用されるだけだった。

 それが今は英雄と呼ばれていた。
 その鍵となったのはソフィアだ。
 彼女と再会したことで全てが変わった。

 いや、ソフィアだけじゃないか。

 リコリスにアイシャにスノウ。
 レナにゼノアス。
 クリフやソフィアの両親や、その他、色々な人達。
 たくさんの出会いが僕の経験となって、そして力になっている。

 今は、その出会いに感謝しかない。