のんびり王都の観光をして。
 美味しいものを食べて。

 楽しい時間を過ごしていたら、ふと、冒険者ギルドから呼ばれてしまう。
 何事かと警戒しつつ向かうと……

「結婚式の……宣伝?」

 そんな依頼をお願いされるのだった。

「えっと……それ、どんな依頼? 聞いたことがないんだけど」
「そうだよね。僕も聞いたことがない、あっはっは」

 依頼主はクリフだった。
 まだ王都にとどまっていたらしい。

「ほら、よくあるだろう? 結婚式の手配をする店が、店内に式の様子の絵画を飾るとか」
「ありますね」

 ソフィアがキラキラとした表情で頷いた。
 その隣にいるレナも、うんうんと笑顔で頷いている。

 やっぱり女の子は結婚式に憧れるものがあるのかな?

 アイシャはよくわかっていない様子で、スノウと一緒に遊んでいた。

 ……アイシャもいつか結婚しちゃうのかな?
 旅立つ時が来ちゃうのかな?

 あ、ダメだ。
 ただの想像なのに、なんか泣きそうになってしまう。

「親ばかねー」

 なんてリコリスに呆れられてしまう。

「先の事件で、いくつかの絵画消失してしまったみたいでね。新しいものを用意することになったんだけど、そのモデルをお願いしたいんだ」
「どうして、僕達なんですか?」
「君達だからこそ、だよ」

 クリフ曰く……

 王都はまだまだ復興の途中にある。
 だからこそ、未来に希望を抱かせるようなものが欲しい。

 僕とソフィアはジャガーノートを倒した功労者の一人だ。
 そんな二人がモデルになれば、多くの人の心に光を灯すことができるだろう……と。

「どうかな? 引き受けてくれないかな? もちろん、報酬は弾むよ」
「でも、モデルなんてできるかな……?」
「ただ、簡単なポーズをとっていれば問題ないよ。じっとしていないといけないけど、問題らしい問題はそれだけ」
「うーん」

 モデルなんてやったことがないから不安が残る。

 ソフィアはどう思っているんだろう?

「ねえ、ソフィアは……」
「それはつまり、私とフェイトが結婚式をする、というのを装うということですね!? フェイトと私が、そういう格好をするということですね!?」

 やたら食い気味に問いかけるソフィア。
 目がマジだ。

「う、うん。もちろん、そうなるよ。スティアート君はタキシード、アスカルト君はドレスだね」
「あらあらまあまあ♪」

 ソフィアがにっこりと笑う。
 とても大事なポイントだったらしい。

「フェイト」
「う、うん?」
「これは、絶対に引き受けなければいけない依頼ですよ!」
「え? 絶対、っていうほど大事かな?」
「大事です!!!」

 ぐぐぐっと詰め寄られ、思い切り断言されてしまう。

「私とフェイトの結婚式で人々に希望を抱いてもらう……素敵ですね!」
「ソフィアは結婚式をやりたいだけでしょ」

 リコリスがツッコミを入れるものの、彼女は聞いていない。
 ものすごく興奮した様子で、そして、目をキラキラと輝かせていた。

「というか、この際、本当に結婚式を挙げてしまってもいいかもしれませんね!」
「えぇ!?」
「どうですか、フェイト!? どうですか!?」
「えっと、その……さすがにそれは、本来の趣旨から外れちゃうんじゃないかな……?」

 依頼を達成することができない。

 それに……
 ソフィアといつかは、と思っているものの、いくらなんでも急すぎる。
 そういうのは、僕の方からちゃんと……と思っているのと。
 あと、急すぎて準備がぜんぜん足りていない。

「残念です……」
「でも、依頼は請けてもいいと思うよ。僕も興味があるから」
「さすがフェイトです!」

 ソフィアは僕の手をがしっと握り、ものすごく嬉しそうな顔をした。

「えっと……そういうわけだから、その依頼、請けます」
「ありがとう、助かるよ。じゃあ、詳細だけど……」
「ちょっと待ったぁ!!!」