ゼノアスと別れた後、僕達は宿に戻った。

「おとーさん! おかーさん!」

 部屋に戻ると、留守番をしていたアイシャが駆けて、抱きついてきた。
 しっかりと受け止めて頭を撫でると、尻尾がぶんぶんと振られる。

「オンッ!」

 スノウも駆け寄ってきて、ソフィアに頭を擦りつける。
 同じく尻尾が激しく振られていた。

「おかえりー。挨拶は終わったの?」

 リコリスもふわふわと飛んできた。

「うん、終わったよ」
「挨拶だけ?」
「あはは……お礼はまた今度、だって」
「ちぇ」

 ジャガーノートを倒して、黎明の同盟を壊滅させることができた。
 その件で、騎士団と冒険者ギルド、両方から報酬がもらえるらしい。

 そんなものはいらない。
 そもそも、みんなで成し遂げたこと。

 そう断ろうとしたんだけど、

「あなた達がいなければ王都は壊滅していたかもしれない。それを防ぐことができたのは、間違いなくあなた達のおかげです。それだけのことを成し遂げたのですから、どうか、受け取ってください」

「ここで断られたりしたら、冒険者ギルドの面子が……ねえ。ほら、依頼にはきちんと報酬を支払っているだろう? それがなしとなると、色々と困るんだよ。正式な依頼じゃなくても、あれだけの偉業を成し遂げたんだから」

 ……と言われ、断りきることができなかった。
 後日、落ち着いた時に報酬をもらうことになっている。

「なら、おめでとうパーティーはまた今度かしら? ちぇ、今夜のつもりだったのに」
「リコリスは元気だね」
「そう、あたしが元気になることで、みんなも元気にしているの! さしずめ、ミラクルワンダー妖精リコリスちゃんね!」

 意味がわからない。
 この子、ちょくちょく勢いで喋るからなあ……

「ところで」

 ソフィアがレナに視線を向ける。

「どうして、あなたが一緒にいるんですか?」
「ん? なにが?」
「今更、あなたを捕まえようとは思いませんが……ほら。ゼノアスと同じように、好きなところへ行っていいんですよ。しっしっ」
「猫みたいな扱い!?」

 レナが、ガーンというような顔に。

「ボクも一緒にいるよ? パーティーに入れてよ、ねえねえ」
「却下です」
「即答!?」
「泥棒猫を懐に招き入れる人なんていません。さあ、出口はあちらですよ」
「ひど!? ジャガーノートを相手に、一緒に死闘を繰り広げた仲なのに!」
「そんなことありましたっけ?」
「忘れるの早!?」
「また会いましょうね」
「良いこと言っている風でごまかすなー!? ってか、ボクはフェイトと一緒にいるんだー、これからボクも一緒に旅をするんだー、やーだー!」

 レナは床の上に転がり、ジタバタとわがままを言う。

 子供か。

「えっと……ソフィア? あまり意地悪をしなくても……」
「フェイトは賛成なのですか? もしかして、この泥棒猫の誘惑に屈したとか」
「な、ないから。僕は、ソフィアのことが好きなんだから」
「そ、そうですか」
「あのー……ボクの前でイチャつかないで? 泣くよ?」

 レナがジト目を向けてくるけど、気にしない。

「どうして、フェイトはそこまでレナに甘いんですか? やっぱり、好意を持たれているから……」
「そこはあまり関係ないよ。どちらかというと、親近感があるから……かな」
「親近感?」

 昔、僕は奴隷だった。
 未来に希望が持てず、なにもすることができない。

 一方で、レナは黎明の同盟に縛られていた。
 黎明の同盟の命令を聞くことしかできず、他にはなにも持っていない。

 そういう意味で親近感を覚えたのだ。
 これから、彼女はどうするのか?
 完全な自由を得て、なにをするのか?

 それを手伝い、見届けたいという気持ちがある。

「……はぁ」

 自分の気持ちを伝えると、ソフィアはやれやれとため息をこぼす。

「まったく、本当にフェイトは甘いんですから」
「ご、ごめん……」
「でも、だからこそフェイトなんですね。そういうフェイトは好きですよ」
「あ、ありがとう」

 今度は照れた。

 ソフィアはレナに向き直る。

「……いいですか? 妙な真似をしたら、すぐに叩き出しますよ」
「ってことは……」
「仕方なく、本当に仕方なくですけど、ついてきてもいいですよ」
「やったー! ありがとう、フェイト♪」
「うわっ」
「そこで、どうしてフェイトに抱きつくんですか!? お礼を言うなら私でしょう! 斬る、やっぱり斬ります!!!」

 その後、どたばた騒ぎがしばらく続いたけど……
 なんやかんやあって、レナがパーティーに加わるのだった。