事件から3日が経った。

 黎明の同盟による破壊工作。
 そして、ジャガーノートの出現。

 それらの被害は甚大で、国の今年度の予算の半分が吹き飛んだとか。

 復興作業が始められたものの、まだまだ。
 王都が元の姿を取り戻すのは半年近くかかるらしい。

 物流もほぼほぼストップしてしまった。
 道路が塞がれているせいもあるけど……
 『王都にとんでもない化け物が現れた』という話があっという間に広がり、商人が避けてしまうようになったんだ。
 誰もが王都を避けてしまっている。

 被害は甚大。
 これから大変な時間が続いていく。

 でも……
 それでも、僕達は勝つことができた。

 ここで道が途絶えることはない。
 これからも前に歩いていくことができる。

 それを終わりにしないために。
 ずっと続いていけるように。

 みんなでがんばろう。



――――――――――



「ありがとうございました」
「いやー、思っていたよりも大変なことになったね」

 エリンが頭を下げて、その隣にいるクリフはいつものように呑気に笑う。

 二人は事件の後片付けに奔走していたみたいだけど……
 ようやく時間がとれて、わざわざ挨拶に来てくれたんだ。

「あなた達のおかげで被害は最小限に食い止められました」
「最小限……なのかな?」
「最小限ですよ。あのままジャガーノートが暴れていたら、王都は地図から消えていたと思いますから」

 ソフィアの言う通り、本当にそうなっていた可能性もある。
 それを考えるとゾッとした。

「フェイト殿、ソフィア殿……あなた達は英雄です。本当にありがとうございます」
「いえ、そんな……」
「私達だけで成し遂げたことじゃありませんから」

 僕の言いたいことをソフィアが言ってくれた。

 リコリスが、アイシャが、スノウが。
 レナが、ゼノアスが。
 そして、他にたくさんの人が……

 みんなの力があって乗り越えたことだ。
 僕とソフィアだけが英雄なんてことはない。
 みんなが英雄だと思う。

 ちなみに、他のみんなは宿にいる。
 リコリス達は眠いから、という単純な理由で。
 レナとゼノアスは、まあ……元黎明の同盟なので、色々とあって表には出ていない。

「相変わらず、スティアート君は謙虚だねえ。せっかくの機会なんだから、騎士団からたっぷりと報酬をもらっておけばいいのに」
「いえ、そんなことは……」
「なにを言っているのですか、あなたは? もちろん、差し上げるに決まっているでしょう」
「「え」」

 意外な展開になってきた。

「私達、騎士から協力を依頼しておいて、なにもないなんて恩知らずな真似、できるわけがないでしょう」
「おや。最近の騎士団は、わりとまともになっていたみたいだね。以前は、腐敗の象徴として聞いていたが……うんうん、なによりだ」
「それはギルドも同じでしょうに」
「さて、なんのことやら」

 エリンはクリフを睨みつけて、クリフはエリンに笑って見せる。
 水面下で視線が激突してバチバチと火花が散っているかのようだ。

「報酬については、また今度。今は、感謝の言葉を伝えさせていただければ。本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」

 おかげで、ジャガーノートを眠らせることができた。

 倒す、のではなくて。
 眠らせる。

 最善の結果に辿り着くことができたと思う。
 昔から続いていた憎しみの連鎖。
 それをようやく断ち切ることができたのだから。

「スティアート君は、これから大変なことになるだろうけど、がんばってね」
「え、なんでですか?」
「これだけの偉業を成し遂げたんだよ? 冒険者の期待の星として、大注目されることになるよ。もしかしたら、『剣王』の称号が授けられるかもしれない」
「えぇっ!?」

 それって、剣聖に継ぐ称号じゃないか。

「そんなもの、僕には……」
「ふさわしくない、なんて言わないでほしいな。君はそれだけのことを成し遂げた。だから、誇ってほしい」
「えっと……はい」

 なにやら、思わぬ方向に話が進んでいる。
 驚きしかない。

 でも……

「うん、がんばろう」

 全部受け止めて、前に進んでいこう。
 そうすることが、今、生きている僕達の役目だから。