雲が見えてきた。
 あそこを抜ければ地面は……ジャガーノートはすぐそこだ。
 リコリスにもらった魔法を使い軌道を調整する。

「これくらい……なんてこと、ないっ!!!」

 超々高度から落下する。
 とんでもない恐怖だけど……
 でも、ジャガーノートに大事なものを奪われてしまう恐怖の方が勝る。
 それに比べたら、これくらいなんてことはない。

 頭を下にして、体をまっすぐに。
 そして剣を構えた。

 落ちる。
 加速。
 落ちる。
 加速。

 空気がぶつかり痛い。
 目をまともに開けることが難しい。
 本能的な恐怖に失神してしまいそう。

 それでも。

 全てを我慢して、軌道を調整しつつ、ジャガーノートに向けて落ちていく。

「見えた!」

 雲を突き抜けて、戦場となる王都が見えた。
 あちらこちらで火の手が広がり、煙が上がっている。

 中心部にジャガーノートが。
 その巨体を暴れ回らせている。

「これ以上、好きにさせない!」

 さらに数回、軌道を調整して……
 最後に後ろに向けて風の魔法を使い、加速する。

「お願い、力を貸して」

 流星の剣。

 リコリスの友達の剣が生まれ変わったもので……
 頼りになる僕の相棒。

 その輝きは星のよう。
 刃は光のように鋭く。
 そうやって空を駆けて……

「いっけえええええぇえええええっ!!!」
「ナッ!?」

 遥か上……直上からの一撃。
 これはさすがに予想できなかったらしく、ジャガーノートは動揺の声をこぼす。

 そんなヤツの頭部にめがけて、僕は、僕自身を流星と化して着弾した。

 ゴガァッ!!!

 特大の一撃を叩き込んだ。
 同時に、凄まじい衝撃が僕を襲う。
 視界が上下左右に暴れて、全身をバラバラにするような痛みが走り……
 なにが起きているかわからず、吹き飛ばされてしまう。

 それでも剣は離さない。
 相棒をしっかりと握りつつ、僕は浮遊感に身を任せて……

「フェイト!」

 がしっと、ソフィアに抱きとめられた。

「えっと……ソフィア?」
「大丈夫ですか!? 怪我はしていませんか? 痛いところは? かゆいところは?」
「最後、どうでもいいよね……」

 苦笑しつつ地面に降りる。
 ちょっとふらふらするけど、なんとか自力で立つことができた。

「ああもう、ちゃんと説明は聞いていましたが、こうして実際に目にすると、とんでもない荒業ですね……」
「あれくらいしないとダメだと思うから」

 超々高度からの一撃。
 不意を突くだけじゃなくて、ありったけの威力を叩き込むことができる。

 問題は、僕も死ぬかもしれないということ。
 でも、こうしてちゃんと生き残ることができた。

「あまり心配させないでくださいね?」
「大丈夫。僕の帰るところはソフィアの隣だから。ソフィアがいれば、いつでもどこでも、絶対に帰ってくるよ」
「は、はい」

 ソフィアはちょっと照れていた。
 こんな時だけど、やっぱり可愛いな、って思ってしまうのだった。