「ふんぬぅううううう……!!!」

 リコリスは美少女らしからぬ声をあげていた。

 それも仕方ない。
 彼女は今、僕を抱えて空高くを飛んでいる。

「だ、大丈夫……?」
「平気、よぉっ!!! これ、くらい!!! ウルトラワンダフル……あっ、マジ重い」

 軽口を叩く余裕もないみたいだ。
 魔法を使っているとはいえ、人一人、抱えて飛ぶのはさすがに辛いのだろう。

 ここまでさせてしまって申しわけない。
 でも、これくらいしないとジャガーノートは……

「リコリス、この辺りでいいよ」

 すでに雲の上に出ていた。
 これくらいの高さがあれば……

「だーめ、まだまだ上にいくわよ」
「でも……」
「あたしなら大丈夫よ! なんていったって、天才美少女妖精リコリスちゃんだもの!」
「……うん、お願い」

 みんなが必死に足止めをしてくれている。
 絶対にミスは許されない。

 だから、もう少しがんばってもらうことにした。
 その間、僕は呼吸を整えて、深く集中する。
 お腹の下辺りで力を練る感じで、全身に気を巡らせていく。

「ぬぅりゃああああああああああっ!!!」

 やはりリコリスは美少女らしからぬ声をあげて、さらに上昇。

 飛んで、飛んで、飛んで……
 そして、ついには周囲が暗くなるほどの高さまできた。
 心なしか息苦しい。

「はぁっ、はぁっ……ここが限界よ」
「ありがとう、リコリス。これだけあれば十分だと思う」
「……ホントにやるの? これ、ダイナミックな自殺にしか思えないんだけど」
「これくらいやらないと、ジャガーノートを止めることは……ううん。倒すことはできないよ」

 倒す、と言い換えた。

 彼はもう止まらない。
 止められない。

 なら、せめて終わらせてあげることが救いだろう。
 そう信じる。

「じゃあ……ほい」

 リコリスの手で、光の鱗粉のようなものが僕の体を包み込む。

「これで数回だけ、フェイトも風の魔法が使えるわ。軌道調整に使って」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、いくわよ? 準備はいい?」
「いつでも」

 即答だ。
 この作戦を思いついた時から、すでに覚悟は決まっている。

「じゃあ……」

 リコリスは、ぱっと僕を離した。
 それだけじゃなくて……

「美少女妖精リコリスちゃん必殺奥義、ミラクルフェイト……あたぁぁぁぁぁっく!!!」

 ばんっ! という音と共にリコリスの魔法が炸裂した。
 瞬間的に業風を生み出す魔法で、そして……

「くっ!」

 僕の体は真下に飛ばされた。

 落ちる、落ちる、落ちる。
 加速、加速、加速。
 空が遠く、どんどん地面が近づいてきた。

 重力で加速して、空高くからの一撃を叩き込む。
 それが僕が思いついた策なのだけど……

「さすがに、怖い……かも!? うわわわわわっ!?」