レナの痛烈な一撃が決まる。

 駆けて、駆けて、駆けて……
 極限まで速度を上げてからの突撃。
 速度が力を与えてくれて、ザンッ! とジャガーノートの尻尾を切り飛ばした。

「くゥッ……!?」

 ダメージを受けるとは思っていなかったのだろう。
 ジャガーノートは動揺して、動きを止めてしまう。

 そこに矢と魔法の雨が降り注いだ。
 僕とソフィアも剣撃を飛ばして遠距離攻撃を叩き込む。

「うっとうしイッ!!!」

 ジャガーノートが怒りに吠えた。

 尻尾が切り飛ばされた?
 援軍が来た?

 だからどうした。

 そんなもので止まることはない。
 憎しみが果てることはない。
 最後の最期まで駆け抜けるだけだ。

 そう体現するかのようにジャガーノートが暴れ回る。
 己の体を武器として、破壊の嵐を吹き荒れさせる。

「ぎゃあ!?」
「うあああああ!!!」

 騎士や冒険者達が巻き込まれ、悲鳴をあげて吹き飛んでしまう。
 無数の家屋が破壊されて残骸が飛び散る。

 まずい。
 早く決着をつけないと被害は拡大する一方だ。

 とはいえ、どうしたものか……
 みんなのおかげで優勢になっているものの、決め手に欠けていた。

 どうする?
 どうすればいい?

「フェイト!」
「リコリス!?」

 どこからともなくリコリスが飛んできて、僕の肩に止まる。

「どうしてここに!?」
「こんな状態になっているのに、あたしだけ逃げるなんてできるわけないでしょ。まったく、そこまで薄情なリコリスちゃんじゃないわよ?」
「でも……」
「でももなにもないの! スーパーミラクル美少女リコリスちゃんも力を貸してあげる。それと……」

 リコリスの視線を追うと、スノウとアイシャがいた。
 アイシャはスノウの背中に乗り、こちらにやってくる。

「おとーさん! おかーさん!」
「アイシャちゃん!? スノウ!?」
「危ないよ! すぐに逃げないと……」
「わたしも……がんばる! 戦う!」
「オンッ!」

 二人の決意は固い。
 絶対に退かない。
 逃げずに戦う、という強くたくましい意思を感じた。

「貴様ァ……!」

 アイシャとスノウを見て、ジャガーノートが怒りに吠える。

「ヤツの子である貴様も我を裏切るというのカ!? 我を否定するというのカ!?」

 アイシャとスノウはジャガーノートの遠縁の親戚のようなものだ。
 そんな二人でさえ、ジャガーノートの味方をすることはない。
 敵になる。

 その事実に心が蝕まれているらしく、ひどく動揺した様子だった。

 怒りに吠えているものの……
 でも、その瞳は悲しみと虚しさにあふれているかのようだった。

「誰も彼も我を認めズ……排除するというのカ! 世界が我を拒むのカ!?」
「拒むよ」

 アイシャは静かに言う。
 その姿はいつもの彼女と違うような……?

「誰もが手を取り合うことができる。でも、あなたはそれを拒否した。言葉を交わすことさえ拒否した。全てを拒絶しているから……せめて、心を開いて? そうすれば、まだ……」
「黙れ黙れ黙れぇエエエエエッ!!!」

 あるいはそれは、引き返すことができる最後のチャンスだったかもしれない。
 でもジャガーノートはアイシャが差し出した手を振り払い、憎しみの道を突き進むことを選択した。

 なら、僕がするべきことは一つ。
 決着をつけることだ。