「ガァアアアッ!」

 怒りに吠えるジャガーノートが僕達を追いかけてきた。
 全力で逃げるけど、体格差が圧倒的に違うため、少しでも気を抜いたら一瞬で追いつかれてしまいそうだ。

「ソフィア、追いかけてきたよ!」
「このまま街の外まで誘い出しましょう!」

 命がけの鬼ごっこだ。
 背中がヒヤリとする。

 とはいえ、こんなことで音を上げてはいられない。
 まずは周囲に被害が出ない場所を確保しないと、まともに戦うことができない。

 走って。
 走って。
 走って。

 どうにかこうにか、ほぼ建物がない郊外までジャガーノートを誘い出すことに成功した。

「ここなら全力でいけます……閃っ!!!」

 ソフィアの極大の斬撃がジャガーノートに叩きつけられた。
 聞くところによると、1万の魔物を一気に葬った奥義らしい。

 これならば、と思うのだけど……

「グガァッ!!!」
「かすり傷程度、ですか」

 ダメージは通った。
 でも、ほんの少しだけ。

 なかなか絶望的な状況だ。
 諦めるつもりなんて欠片もない。
 でも、こいつに勝てるイメージがどうしても湧いてこない。

 って、ダメだダメだ。
 弱気になったらいけない。
 とにかく、色々な手を試して攻略法を見つけないと。

「ソフィア、まずは足を狙おう。あの機動力を奪わないと」
「わかりました。同時に攻撃を叩き込みましょう」
「ガァアッ!!!」

 ジャガーノートが吠えて、今度は炎のブレスを吐き出した。

 見た目は大きな犬なんだから、竜のような真似をしないでほしい。

「くっ……!」
「これくらい!」

 炎の嵐をかいくぐり、ジャガーノートの懐に潜り込んだ。
 圧倒的な体格差があるものの、小さい僕達の方が小回りが効く。

「神王竜剣術、壱之太刀……」
「破山っ!!!」

 ソフィアと同時に全力の攻撃を叩き込む。
 速度、角度、タイミング。
 全てが重なり、その威力は倍増する。

「ガァッ!?」

 どうにかこうにか防御を突破することができて、多少だけどダメージを与えることができた。

 ただ、人で例えるなら打撲をしたくらいだろう。
 まだまだ先は長い。

「弱点とかないかな? このまま、あいつのペースに付き合っていたら……」
「機動力を奪う前提の攻撃をしつつ、他の箇所も狙ってみましょう。運にすがるような戦い方になりますが、なにもしないよりはマシかと」
「そうだね、了解」

 戦力差は圧倒的。
 それでも、とことん食らいついてやる。
 絶対に負けてたまるものか。

 決意を新たにして、僕とソフィアは再び駆け出して……

「……邪魔をするナ」

 ジャガーノートが低い声でそう問いかけてきた。