なんて大きさだ。
 近くに来て、改めて魔獣ジャガーノートの大きさを実感する。

 まるで巨人のよう……いや。
 巨人よりも遥かに大きい。
 山が動いているかのようだ。

「フェイト、いきますよ!」
「うん!」

 ソフィアは右から。
 僕は左から。

「破山っ!!!」

 交差しつつ、全力の一撃をジャガーノートの右前足に叩きつける。

 その巨体は、歩くだけで甚大な被害をもたらしてしまう。
 だから、まずは機動力を奪う。
 そう考えての攻撃だったけど……

「くっ、硬い……!」

 ジャガーノートの毛は鋼鉄のように硬い。
 それが全身を覆っていて、天然の鎧となっていた。
 刃が通らず、弾き返されてしまう。

「ガァアアアアアッ!」

 ジャガーノートが吠えて前足を叩きつけてきた。

 虫を払うような適当な動きじゃなくて。
 必ず殺すという高い殺意を持った、強烈な一撃だ。

 当然、真正面から受け止めるつもりはない。
 防御なんて無理。
 横に跳んで回避した。

 回避したんだけど……

「うわっ!?」

 叩きつけた弾みで衝撃波が生まれて、それに巻き込まれてしまう。
 上下左右の感覚が一瞬なくなってしまい、数十メートルを一気に吹き飛ばされてしまう。

「いたた……まるで竜巻だ」
「フェイト、大丈夫ですか!?」

 ソフィアが隣に着地して、手を貸してくれた。

「うん、なんとか。でも、攻撃も防御もとんでもないね……少しやりあっただけなのに、攻略法がぜんぜん思いつかないよ」
「確かに闇雲の戦っていては難しいですね……それに」

 ソフィアは苦い顔でジャガーノートを見た。

 ジャガーノートはこちらを大して気にしていない。
 手近な建物を破壊して回っている。

「このままだと、王都の被害がとんでもないことになりますね……」
「どうにかして街の外に誘い出したいけど、まずは僕達のことを敵としっかり認識させないと」

 なにか方法はないだろうか?
 急いで周囲を見回して、とあるものが目に入った。

「アレを使ってみよう」



――――――――――



 憎い。
 憎い。
 憎い。

 全てを奪った人間が憎い。
 人間も、人間が作り出したものも、なにもかも壊してしまえ。

 憎悪に取り憑かれたジャガーノートは破壊を繰り返す。

 その時、

 ガァアアアアアン!!!

「っ!?」

 どこからともなく飛んできた巨大な鐘がジャガーノートの頭部に直撃した。

 痛みは大したことないが、それなりの質量と速度があったため、軽く仰け反ってしまう。
 それと、鐘の音。
 音だけは自慢の毛皮で防ぐことはできず、不協和音としてジャガーノートに届いた。

「ガアアアアアァッ!!!」

 鐘を投げてきた人間の二人組を睨み、ジャガーノートは怒りに吠えた。