「オォオオオオオオオ!!!」

 魔獣ジャガーノートが二度、吠えた。
 それは自身の誕生を知らせる産声のようだ。

 咆哮に飲み込まれるかのように王都から音が消えた。
 誰もが立ち止まり、空の彼方……
 王のように君臨したジャガーノートを呆然と見つめている。

 でも。

 すぐに悲鳴が王都を覆い尽くす。

 ゴッ……ガァアアアアアッ!

 ジャガーノートが炎を吐いた。
 それはドラゴンのブレスに匹敵……いや、それ以上の威力を持つ。
 超高熱の炎は、もはや極大魔法と同じだ。
 瞬間的に無数の建物が吹き飛び、たくさんの命が失われた。

 それは開戦の合図だ。

 己を誇示するかのように、ジャガーノートが三度吠える。
 そして、王都に住む人々は恐慌状態に陥り、我先に逃げ出した。



――――――――――



 目を覚ましたら人間の街の中にいた。
 長い眠りについている中で街が拡張されて、いつの間にか人間の活動範囲内に収まっていたのだろう。

 なんたる不愉快。
 なんていう屈辱。

 まさか人間がすぐ近くにいる状態で眠っていたなんて。
 大嫌いなものがすぐ近くにある。
 考えるだけで腸が煮えくり返るかのようだ。

 でも、ちょうどいい。
 都合がいい。
 これなら、すぐに人間を殺すことができる。
 街を壊すことができる。

 全てを奪われた。
 なら、奪い返してもいいだろう?
 そうやってプラスマイナスゼロにするのが道理というものだろう?

 遠慮はいらない。
 慈悲も情けもいらない。
 必要なのは、この身を焼くほどに激しい憎しみだけ。
 それがあれば他はいらない。

 噛み砕いて。
 叩き潰して。
 燃やし尽くして。
 思う限りの暴虐を繰り広げていこう。
 それこそが成すべきこと。
 魔に堕ちた者に残された、唯一の使命なのだから。

「ガァアアアアアッ!!!」

 空に吠える。

 自分はここにいる。
 再び大地を踏んでいる。
 故に、人間を殺そう。
 それこそが自分の正義なのだから。

 そうして、災厄となった魔獣は蹂躙を始めた。
 始めようとしたのだけど……

「やめろっ!」
「やめなさいっ!」

 二人の人間がジャガーノートの行く手に立ちはだかる。

 その人間の名前は……
 フェイト・スティアート。
 ソフィア・アスカルト。
 今を生きる人間で、そして、誰かのために戦うことができる剣士だった。