「……すごい……」

 ポーションを飲んで歩けるくらいに回復したソフィアは、少し離れたところでフェイトとゼノアスの戦いを見守っていた。

 ゼノアスは優れた剣士だ。
 いや。
 『優れた』という言葉では足りないくらい、強大な力を持っている。

 巨大な大剣を己の手足のように自由自在に扱う。
 繰り出される攻撃はひたすらに重く強く、盾ごと叩き潰すような一撃を放つ。
 それでいて鈍重ということはなくて、風のように速く、水のように柔軟に動くことができた。

 彼のような剣士は知らない。
 戦ったことがない。
 もしもゼノアスが表舞台に立っていたら、間違いなく『剣聖』の称号を授かっていただろう。

 そんな相手なのに……
 フェイトは、ほぼほぼ互角の戦いを繰り広げていた。

「うあぁあああああ!!!」
「うおぉおおおおお!!!」

 剣と剣が超高速で激突して火花が散る。
 連続で甲高い激突音が響いて、何度も何度も斬撃が飛ぶ。
 それはまるで嵐のようだ。
 触れただけで即死の剣撃の嵐が吹き荒れていた。

 全力のソフィアなら、これだけの攻撃を受けたとしても耐えることができる。
 ついていくことができる。

 それはつまり……

 フェイトは今、全力のソフィアに並んでいるということだ。
 以前から並外れた才能と能力を持っているとは思っていたが、まさかここまでとは。

 つい先日までは、これまでの力は持っていなかったはず。
 一時、行方不明になって……
 ピンチの時に駆けつけてきてくれるまでの短い間に、いったいなにがあったのだろう?
 ここまで劇的に強くなるなんて、どんな秘密があるのだろう?

 そんな疑問を抱くものの、それはすぐに消えた。

 代わりに、ソフィアはじっとフェイトを見る。

「……本当に、すごいです……」

 彼から目を離すことができない。
 じっと、じっと見つめてしまう。

 そして、こんな時ではあるが胸がときめいてしまう。
 胸の奥に甘い感情が広がり。
 むず痒いような気持ちになって。
 自然と頬が熱くなる。

「ダメじゃないですか、フェイト……」

 大好きな男の子が自分を守るために戦ってくれている。
 その姿はなにもよりも輝いていた。

 フェイトのことは好きだ。
 愛している。
 結婚したいし、というか絶対にする。
 そして、○○や○○をして……

 なんて妄想、普段から繰り広げているようなソフィアだ。
 この戦いで惚れ直してしまう。
 今まで以上にフェイトのことが大好きになってしまう。

 そんな気持ちを抱いて、ふと、気がついた。

「もしかしたら、フェイトも同じ……」

 行方不明になっていた間、彼になにがあったか知らない。
 でも、再び立ち上がるきっかけとなったのは……自分かもしれない。
 ソフィアは、そう思った。

 それは自惚れではないはず。
 フェイトのような人間は、誰かのために戦う時こそ、十の力を発揮することができる。
 限界を超えて戦うことができる。

 だから今、ゼノアスを相手に互角の戦いを繰り広げているのだ。

「もう……私が支える、助けてあげる、とか思えなくなっちゃいましたね」

 フェイトは同じ場所に上がってきた。
 ソフィアと本当の意味で肩を並べることができた。

 そんな大好きな人の成長を見て、ソフィアは嬉しく、涙をこぼしてしまいそうになる。

「がんばれ、フェイト」

 自然とそんな言葉が出る。

 今、ソフィアにできることはなにもない。
 だからせめて、信じることにした。
 その想いが大好きな人の力になると信じて、強く強く言う。

「がんばってください、フェイト」