「……っ……」

 一瞬。
 ほんの一瞬だけど、ゼノアスが怯んだ。

 なんだろう?
 特に身体能力が上がったわけじゃないし、傷も完治していないから、わりとボロボロなんだけど……

「……以前、俺はお前を敵と認めたが、それは訂正しよう」
「出直してこいとか、そういう感じ?」
「まさか」

 ゼノアスは小さく笑う。
 その笑みは喜びの色があふれていた。

「お前はただの敵ではない。俺の糧となるための、好敵手だ」
「あまり違いがわからないんだけど……」
「以前のお前は強くはあったが、しかし、刃を向けられたから戦うだけ。意思も覚悟もない」

 なかなか痛いところをついてくる。

 確かに、前回ゼノアスと戦った時は特になにも考えていなかった。
 アイシャとリコリス、スノウを守らないと、とは考えていたものの……
 それだけ。
 それ以上のこと、その先のことは考えず……
 とにかく状況を切り抜けることだけを思っていた。

 でも、今は違う。

 大事なものを守る。
 今、この時だけじゃない。
 これから先、ずっと……ずっと、ずっと、ずっと。
 なにがなんでも守り続ける。

 そんな決意を固めたからなのか、ゼノアスに対する恐怖はない。
 体が震えることもない。
 やることをやるだけ、と開き直ったせいかもしれない。

「……フェイト……」
「はい、ポーション」
「ありがとう……ございます」

 ソフィアにポーションを渡す。
 彼女は動けないほど傷ついていたものの、致命傷は負っていないはず。
 ポーションを飲んでじっとしていれば、それなりに回復すると思う。

「フェイト……がんばってください」
「うん、任せて」

 好きな人の応援があれば元気百倍だ。
 力も勇気も無限に湧いてくる。

 改めてゼノアスに向き合う。

「わざわざ待っていてくれたんだね」
「余計なことをして、お前の気を散らしたくないからな。俺が求めるものは最高の殺し合いだ」
「厄介な性格だなあ……」

 ちょっとレナと似ているような気がした。
 そんなことを思ったら、彼女は怒るだろうか?

「さて……準備はいいか?」
「いいよ」

 恐怖はない。
 かといって、必ず勝つという自信はない。
 ゼノアスを相手にそんなものを持っているとしたら、それは過信でしかない。

 これから始まるのはギリギリの戦い。
 命を賭けた殺し合いだ。
 絶対に勝つ、なんてことは言えない。

 でも。

「僕は、大事な人達を守る」

 その台詞だけは言えることができた。

「俺は全てを斬り、そして己の存在を証明してみせよう」

 それが彼の戦う理由なのだろうか?
 その想いを理解することはできないけど……
 でも、ゼノアスはゼノアスなりに大事なものを抱えて戦っているということは理解した。

 彼は殺人鬼じゃない。
 剣士だ。

 なら……

「いくよ」
「ああ」

 いざ、尋常に……
 勝負!!!