「二度、落胆させてくれるなよ」

 そう言うと、ゼノアスが先に動いた。
 巨体に似合わない速度で踏み込んでくると、その勢いを乗せて剣を振り下ろしてきた。
 まともに受ければ、文字通りバラバラになってしまうだろう。

 かといって、今度は剣で受け止めることも難しい。
 流星の剣でも折れてしまうかもしれない。

 防御は無理。
 なら……!

「……ここだ!」
「む?」

 剣を盾のように構えた。
 刃を合わせた瞬間、斜めに倒す。
 さらにゼノアスの剣圧に合わせて剣の角度を傾けていき、その軌道を変えてやる。

 その試みは成功した。
 ゼノアスの剣は僕に届くことはない。
 横にズレて地面を叩く。

 彼の剣をまともに受け止めることはできない。
 でも、受け流すことはできる。

「で……反撃!」
「ちっ」

 今度はこちらから踏み込んだ。
 ゼノアスの巨体に隠れるかのように、懐に潜り込む。
 その状態で突きを繰り出した。

 ゼノアスは剣を振り下ろしたままで、まだ引き戻せていない。
 防御はできないはずだ。

 ただ、回避は問題なく可能だ。
 体を捻り、僕の刃をスレスレのところで避けた。

 でも、まだまだ。
 手に力を入れて、突き出した剣の軌道を強引に横に曲げた。
 さらに下から上に。
 斜め上に跳ね上がる軌道で追撃をかける。

「……っ……」

 ゼノアスは大きく後ろに跳んだ。
 初めて後退させることができたような気がする。

「やるな」

 小さくつぶやいたゼノアスの頬は、わずかに切れていた。
 赤い血がにじむ。

「なぜだ?」
「えっと……」
「前に戦った時は、ここまでの力はなかったはずだ。これほどのプレッシャーを感じることはなかったはずだ。それなのに……」

 ゼノアスの顔に余裕の色はない。

「なぜ、ここまで強くなっている?」
「……」
「この短時間で修行をした? いや、そんなはずはない。そんなことをしても意味がない。ならば心の問題か?」
「そうだね、正解」

 どうにかこうにか、僕の剣がゼノアスに届いた。
 その理由は二つある。

 一つは、ゼノアスに徹底的に負けたこと。
 心折れるほどに負けて、死にかけて……
 でも、なんとかそれを乗り越えたことで、色々と吹っ切れることができたのだと思う。
 単純な話、吹っ切れた人間は強い。
 色々と思い切りがよくなって、ズンズンと前に進むことができるからだ。

 それともう一つは……

「……フェイト……すごいです……」

 ちらりと、後ろにいるソフィアを見る。

「もう一つの理由は、あなたにはわからないかも」
「どういう意味だ?」
「ちょっとくさい台詞だけど……愛の力、っていうやつかな」

 大好きな人がいる。
 守りたい人がいる。
 そのために戦うのなら、いつも以上の力を出すことができる。
 まったく理に適っていない話なのだけど……
 でも、そんなものだ。
 そういう曖昧で適当なものが、時に真理だったりする。

「今度は勝つよ。僕のためじゃなくて、ソフィアのため、大事な人のため……あなたを倒す」