「……あ……」

 どこをどう歩いてきたのだろう?
 そして、ここはどこだろう?

 気がつけば、僕は見知らぬ場所にいた。
 王都のどこかであることは間違いないけど、場所がさっぱりわからない。

「いたっ」

 ふらついて転んでしまう。
 でも、鞘に入ったままの剣は離さない。
 反射的に抱えていた。

 でも……

「僕は……僕には、この剣は必要なのかな……?」

 心が折れてしまったという自覚があった。

 ゼノアスと戦い、剣を交わして……
 そして、恐怖に負けた。

 どうやっても勝てない。
 死ぬのが怖い。
 逃げるしかない。

 そして、僕は逃げて……
 どこをどう移動したかわからなくて、今、ここにいた。

「……」

 疲れた。
 疲れ果てた。
 その場に腰を下ろして、剣を抱く。
 その上で膝を抱えるようにして座った。

「……みんな……」

 ソフィア、リコリス、アイシャ、スノウ、レナ、エリン、クリフ……
 今、なにをしているんだろう?

 いや、考えるまでもない。
 たぶん、黎明の同盟と戦っているはずだ。
 詳細な相手は想像できないけど、王都を守るために戦っていると思う。

 それなのに僕は、こんなところで一人、膝を抱えて丸くなっている。
 なんて情けない。

 でも……動くことができない。
 足が震えていた。
 手が震えていた。
 体に力が入らない。

 怖い。
 怖い。
 怖い。

「あんな相手……どうやって戦えばいいのさ……」

 どうすることもできない。
 僕は身を縮こまらせて……

 ドォンッ!!!

「え?」

 ふと、少し離れたところから轟音が聞こえてきた。
 なにかが爆発するような音。
 ただ、魔法や火薬の類じゃないと思う。
 なにか物を思い切り叩きつけたような音だ。

「……ゼノアス……」

 すぐに彼の仕業ということを理解した。
 一度剣を交わしたからこそ、そのことがよくわかる。

 誰かが戦っている。
 ソフィア? それとも、レナ?
 誰なのかわからないけど、命を賭けて戦っている。

「……僕は……」

 ふと、我に返った。

 死にたくない、負けたくない、失いたくない。
 でも、ここで丸くなっていたらなにも意味がない、奪われるだけだ。
 なにかを守りたいというのなら立ち上がるしかない。他に方法はない。

 ソフィアのことを想う。
 彼女の笑顔を思い浮かべると、それだけで力が湧いてくるような気がした。
 折れたはずの心が元に戻っていくような気がした。

「そうだ……こんなことをしている場合じゃない。思い切り負けた。殺されるところだった。怖い、すごく怖い……でも、大事な人を失うことの方がもっと怖い。それに比べたらなんだ。死ぬくらい、どうってことない。それよりもっと怖いことがあるんだ。絶対に避けないといけないんだ。なんとかするんだ。だから……だから!!!」

 僕は剣を手に立ち上がる。

「僕は、戦う!!!」