どこだ?
 どこに消えた?

 レナは剣を構えつつ、素早く周囲に視線を走らせた。
 感覚を研ぎ澄ませて気配も探る。

 しかし、リケンを見つけることはできない。

「っ!?」

 再び悪寒が走る。
 レナは体勢が崩れるのも気にしないで、思い切り前に跳んだ。

 その直後……
 さきほどまで立っていた場所を刃が駆け抜ける。

 どのような技を使ったのか?
 斜め後ろに回り込んでいたリケンが剣を振るっていた。

「ふむ、二度も外すか……さすがだな」
「なにそれ? まったく見えないんだけど……」
「当たり前だ。これが、儂の真の力。十数年しか生きていない小娘に見破れるようなものではない」

 リケンが使っているものは、暗殺剣だ。

 剣の腕を磨くのではなくて。
 対象を殺すことだけに特化した殺人剣。

 視線、体捌き、足運び……などなど。
 ありとあらゆる要素を使い、組み合わせることで、相手の視覚情報を乱す。
 結果、姿を消すことができる。

 極限まで高められた技術は魔法と変わらない。
 それを体現してみせた技だ。

「そんな技、初めて見るんだけど?」
「見せていないからな」
「ボクのこと、疑ってたわけ?」
「いいや。見せる価値もないと侮っていただけだ」
「言ってくれるね……!」

 レナは体勢を立て直して、改めて剣を構えた。
 リケンも剣を構える。

 そして……
 再びリケンの姿が消えた。

「くっ」

 レナは初めて焦りの表情を見せた。

 どれだけ目を凝らしても。
 どれだけ集中しても。
 リケンを見つけることができない。
 完全に索敵から逃れていて、捉えることができないでいた。

 いつ攻撃が来るのか?
 どこから来るのか?
 それは、果たして致命傷になりえるのか?

 色々なことを考えて、悪い想像もしてしまう。
 相手が見えないからこそ、余計に悪い想像も膨らんでしまう。
 とても厄介な相手だった。

「見えないなら……」

 ふと、レナは閃いた。
 試してみる価値はあると、体を低くして、剣を鞘に戻す。

「まとめて薙ぎ払えばいいよね! ……裏之二、鳳凰!」

 超高速で抜剣。
 それと同時に回転して、刃と衝撃波を周囲に散らす。
 全方位を攻撃できる奥義だ。

 しかし……

「甘いな」
「あぐっ!?」

 リケンはレナの背後を取り、その背中を斬りつけた。
 今度はまともに受けてしまい、深い傷ができる。

 レナは慌てて距離を取る。

 痛みは無視できる。
 しかし、流れる血はどうしようもない。
 体温と共に体力が失われていく。

「今の、どうやって避けたのさ……?」
「教える必要はないな」
「ケチ」
「それよりも……チャンスをやろう」
「え?」
「戻ってこい」

 そう言って、リケンはレナに手を差し出した。