ふっと、レナとリケンの姿が消えた。

 いや。
 消えたのではなくて、超高速で動いたのだ。

 風よりも速く。
 音に近い速度で駆けて、それぞれ剣を振る。

 ギィンッ!

 レナの魔剣とリケンの魔剣が激突する。
 どちらかが勝るということはなくて、ほぼほぼ互角。
 競り合う形になり、レナとリケンは剣を持つ手に力を込める。

「やるね」
「ふん、貴様もな」
「でも……」

 レナはニヤリと笑う。

 さらに力を込めて、地面を足で蹴る。
 ガンッ! とリケンの剣を弾き上げた。
 リケンは剣を手放すことはないが、体勢が崩れ、数歩、下がってしまう。

 レナは体勢を低くしつつ、リケンの真横に回り込んだ。
 ぐんっと体を跳ね上げるようにしつつ、刃を下から上に放つ。

「くっ」

 首を狙った一撃は、しかし、ギリギリのところで避けられた。
 リケンは状態を逸らすようにして回避。
 ただ反撃に出る余裕はなくて、仕切り直すために後ろへ跳んで距離を取る。

「うーん、リケンってこの程度? ボク、まだ本気出してないんだけど」
「小娘が、生意気な」
「だって、ちょっとがっかりしちゃうくらいだし? まあ……」

 レナは、改めて剣を構えた。

「元々、ボクの方が強いから仕方ないか」
「……そうだな」
「おろ?」

 意外というべきか、リケンはあっさりとレナの言葉を認めた。

「確かに、剣の腕は儂よりもレナの方が上だ。それは認めよう」
「なに、降参してくれるの?」
「まさか」

 リケンは笑う。
 レナを嘲笑う。

「剣の腕は上かもしれぬが、しかし、それが強さに直結するわけではない。吠えるなよ、小娘が。儂の方が強い」
「……っ……」

 リケンが不敵に笑う。
 その不気味な笑みに、レナは嫌な感覚を覚えて、追撃をためらった。

 有利なのはまちがいなく自分だ。
 しかし、今のリケンは不気味だ。
 下手に踏み込めば返り討ちに遭う。

 そう考えたレナは様子を見る。
 そして……

「え」

 ふっと、リケンの姿が消えた。

 なんの前触れもなく。
 突然、幻だったかのように消えた。

 レナは目を白黒させて……
 ぞくりと背中に悪寒が走る。

 反射で前に跳ぶ。
 ただ、少し遅かった。

「ぐっ」

 背中に走る衝撃。
 すぐに痛みがやってきて、レナは奥歯を噛んだ。

 痛みは無視。
 強引に体を動かして振り返ると、いつの間に回り込んだのかリケンの姿があった。

「……今の、なに?」
「さてな。敵に素直に答えを教えるとでも?」
「いいじゃん。ボクとリケンの仲なんだし」
「今は敵だ。そして、敵は殺す」

 リケンはそう言い放つと、ニヤリと笑い……
 そして、再びその姿が消えた。