「各員、準備はいいですか?」

 エリン率いる特務騎士団は墓地の前に集結した。

 ここまできたら正面決戦しかない。
 物陰に隠れるということはせず、堂々と姿を晒していた。

 他にも通常の騎士も作戦に参加していた。
 いざという時に備えて、戦場になるであろう墓地を隔離して……
 討ち漏らすことがないように完璧な包囲網を敷く。

 冒険者も集結していた。

 黎明の同盟の最終的な目的は不明ではあるが、それが達成された場合、王都は大きな打撃を受けるだろう。
 ホームグラウンドである王都が壊滅すれば仕事どころではない。
 なによりも大事な人の笑顔が消えてしまう。

 それを守るために、冒険者達も協力することになった。
 その先頭にクリフがいる。

「大変なことになったねえ」
「……このような時に、なぜそんなにも呑気なのですか?」

 あくまでもマイペースを貫くクリフに、エリンは少しイラッとした様子で言う。

 それでも尚、クリフは笑ってみせた。

「適度に肩の力を抜かないと。リラックス、リラックス。ドーナツ食べるかい?」
「いりません」
「おいしいのに」

 どこからともなくドーナツを取り出して、クリフはぱくりと食べた。

「いいですか? これは王都の存亡を賭けた戦いと言っても過言ではありません。あなたはもっと真面目に……」
「わかっているよ」

 エリンのジト目を受けて、クリフは少しだけ表情を真面目にする。

「……もう二度と、あんな悲劇は繰り返したくないからね」
「あなたは……」

 そう言うクリフが思い浮かべているものは、故郷だ。

 なにもないけれど、穏やかな時間を過ごすことができた優しい場所。
 たくさんの笑顔にあふれていたところ。
 大事な友達がいた地。

 でも……今はもうない。
 魔物の襲撃を受けて壊滅した。

 その時のことは、今も昨日のことのようにはっきりと覚えている。
 悲しみと怒りを胸に抱えている。

 だから……

「なんとしても、食い止めないとね」
「……それを理解しているのなら構いません」
「おいしいドーナツを食べるためにも、またがんばらないと」
「結局、それですか」

 今度はエリンは怒ることはなくて、苦笑した。
 なんだかんだ、ほどよくリラックスできたらしい。

「では……」

 すっと、エリンの表情が切り替わる。
 抜き身の刃のような鋭い目。

 剣をゆっくりと抜いて、高く掲げる。
 そして……一気に振り下ろしつつ、鋭く叫ぶ。

「突入!!!」



――――――――――



 街の外れ……墓地の方が騒がしくなった。
 詳細を知らされていない街の人は不安そうにしつつ、騎士達に言われるまま自宅に引き返している。
 戒厳令が敷かれ、家で待機することが命じられたのだ。

「……」

 その様子を宿の窓から眺めていたソフィアは、部屋の中に視線を戻した。

「すぅ、すぅ……」
「……オフゥ……」
「すかー……すぴかー……」

 アイシャとスノウが折り重なるように寝て、その上でリコリスが寝息を立てている。

「……今は、大事なものを守ることだけを考えないと」

 そう自分に言い聞かせて、ソフィアは部屋の外に出た。