ゼノアスはレナの剣の師匠だ。
 リケンなど、他の幹部も彼女に稽古をつけていたが、一緒に過ごした時間はゼノアスが誰よりも長い。

 剣に愛された天才。

 それがレナに抱いた感想だ。
 それくらいにレナは剣の扱いに長けていて、砂が水を吸うようにありとあらゆる技を会得していった。

 いつものゼノアスならば、いつかレナと戦ってみたいと思うのだけど……
 しかし、不思議とそんな感情は湧いてこない。
 レナの成長を楽しみにしていて、どのような剣士に育つかこの目で見届けたいと思うようになっていた。

 そして……

 レナは剣士として一つの完成形に到達した。
 魔剣も自由自在に操ることができるようになった。

 レナが強くなったことは喜ばしい。
 自分のことのように嬉しい。

 ただ、ゼノアスは不安を抱いた。

 彼女をこのままにしていいのだろうか?
 血に濡れた人生を歩ませていいのだろうか?
 黎明の同盟の一員ではなくて、一人の女の子として歩ませた方がいいのではないか?

 そんな迷い。

 レナは黎明の同盟から大きな期待をかけられて……
 本人もそれに応えるかのように、剣を振る。
 数多もの敵と戦い、強敵を倒してきた。

 その度に仲間から褒められて、レナはこれくらい当然だと自慢そうに笑い、そして……
 どこか嬉しそうに、満たされたような顔をする。

 ただ、時折つまらなそうな顔をしているのをゼノアスは見逃さなかった。

 レナは、本当の意味で満たされていない。
 仲間から求められているから戦っているものの、ゼノアスと違い、戦いが好きというわけではない。
 必要に応じて剣を振るだけで、望んで血を浴びているわけではないのだ。

 それを察した時、ゼノアスはレナを同盟から遠ざけることを決めた。
 いつになるかわからない。
 実現できるかどうかわからない。

 ただ、彼女はここにいるべきではないと感じた。

 そして……

 ある日、レナに相談された。
 黎明の同盟を抜けようと思うんだけど、どうしたらいいかな? ……と。

 同盟の掟に従うのならば、裏切り者は粛清あるのみだ。
 それ以前に、レナのような貴重な剣士を手放してはならない。
 なんとしても考え直させるのが当たり前のこと。

 でも、ゼノアスはそれを良しとしない。

 戦うことしか興味のないゼノアスではあったけれど、今はもう一つ、大事にしたいものができた。
 大事なもの……レナの意思を尊重したい。

 だから、好きにしたらいいと伝えた。
 止めることはしない。
 積極的に応援もしない。
 ただ、彼女の自由意志に任せた。

 そして、レナは黎明の同盟を抜けた。

 もう二度と会うことはないかもしれない。
 これが最後で、記憶からも消えてしまうかもしれない。
 それでもいい。
 レナが幸せになれるのならば、後はどうでもいい。

 そう思っていたのだけど……

「まさか、敵として戻ってくるとはな」

 ゼノアスはさきほどの邂逅を思い返して苦い顔をした。

 どこか遠くで幸せに暮らしていてほしいと願っていた。
 剣を握ることなく、子供を抱くような日々を過ごしてほしいと思っていた。

 ただ、それは叶わないもので……
 再びゼノアスの前に現れた。
 今度は敵として。

「……レナ。お前がその道を選んだのなら、俺は、容赦することはできない」

 妹のように思い、大事にしてきたつもりだ。

 それでも。
 敵となるのならば……斬る。