翌日。

 ソフィア達は別の宿を取り、そちらへ移動した。
 尾行には細心の注意を払い、誰にもつけられていないことは確認済みだ。

 一階の食堂で食事を食べようとするのだけど……

「……」

 ソフィアは注文した料理に一切手をつけず、険しい表情をしていた。
 そんな母を見て、アイシャはとても不安そうにする。
 耳をぺたんと沈めて、尻尾をしゅんと落としてしまう。

「ごめんなさい、アイシャちゃん」
「……おかーさん……」
「ダメですね。心配をかけてはいけないのに、でも……」

 ソフィアはすぐに険しい表情に戻ってしまう。

 昨日、慌てて宿に戻ったものの……
 結局、フェイトは見つからなかった。
 爆弾でも爆発したのかと思うほどに荒れた部屋と、いくらかの血痕。
 それだけが残されていた。

 それから夜を徹してフェイトを探したものの、手がかりを得ることはできない。

 ずっと探し続けることは体力的にも不可能。
 それに、リケンに見つかるかもしれない。
 仕方なく別の宿に移動して……そして、今に至る。

「……フェイト……」

 ソフィアはフェイトのことで頭がいっぱいの様子だった。
 なにも考えることができず、まともに食事をとることもできない。
 ただただ、最愛の人のことで頭が占められている。

 そんな彼女を見て、レナはため息をこぼす。

「もう……心配なのはわかるけどさ、心配だけしててもしょうがないじゃん? これからのことを考えないと」
「……その態度、あなたは、フェイトのことを心配していないですか?」
「もちろん、しているよ。フェイトなら大丈夫……って思いたいけど、状況的にやばいのは理解しているよ。ゼノアスのことを知っているから、ボクは、尚更絶望感が強いね」
「なら……!」
「でも、泣いてても仕方ないでしょ? フェイトがどうなっているのか、それはわからないよ。けろっと顔をだすかもしれないし……酷い怪我をしているかもしれない。なら、尚更ボク達ががんばらないと。そうでしょ?」
「……そうですね」

 ソフィアはため息をこぼす。
 それから、自分の情けなさを思い知り、もう一度ため息をこぼした。

 レナの圧倒的な正論。
 それに打ちのめされてしまいそうだけど、我慢だ。

 それに、レナも辛いわけじゃない。
 なんだかんだ、彼女はフェイトのことが好きなのだ。
 好きな人が行方不明……その心はソフィアと同じだろう。

「なら、今後のことを考えないといけないね。あむ」

 そうやって、ドーナツを食べつつのんびり言うのはクリフだった。

「ところで、どうしてあなたがこんなところに?」
「いや、先日会ったじゃないか」
「そうじゃなくて、タイミングが良すぎると思うのですが」
「スティアート君達の話を聞いて、僕もなにかしないといけないと思ってね。ギルドの方で、色々と調整をしていたんだ。で、調整に必要な資料を作成するため、街を歩き回って調査をしていたんだけど……」
「そこで私達と?」
「うん、そういうこと」

 ソフィアは、じっとクリフを見る。
 嘘を吐いている様子はなさそうだ、と判断した。

 そもそも、以前、ちょっとした事件で協力したことがある。
 今更、クリフが黎明の同盟に属していることはないだろうと、警戒を解いた。

 色々とあって疑心暗鬼に陥っていたらしい。
 反省しないといけない、とソフィアは己を戒める。

「スティアートさんのことはとても心配ですが……彼の言う通り、これからのことを考えましょう。そうすることで、スティアートさんを見つけることもできると思います」

 エリンが場を仕切り直すように言う。

「黎明の同盟の本拠地については、上層部に報告済みです。国が全力をあげて、というのは難しいですが、特務騎士団の全てを動かしてくれることを約束してくれました。ただ、いくらか準備が……数日かかってしまうのですが、それはどうでしょう?」
「逃げられるかもしれない、っていう心配? それは気にしなくていいと思うよ。あっちはあっちでなにか企んでいるみたいだから、そんな簡単に本拠地を捨てるなんて無理だと思うんだよね。一ヶ月とか放置されたら微妙だけど、数日くらいなら問題ないよ」
「安心しました。ギルドは動いてくれますか?」
「もちろん。ただ……」

 クリフは微妙な顔に。

「今回の件で、ギルドのトップが直接話をしたい、って」
「ギルドの……? その方は……」
「アルマリア・ユーグレット。聖女、って呼ばれている人さ」

 そう言うクリフは、どことなく自慢そうな口調だった。