「リコリス!? アイシャちゃん!? スノウ!?」

 王都の小さな広場で話をしていると、頭の上にリコリスを乗せたアイシャと、そんな二人を背中に乗せたスノウが現れた。
 涙を流していて、靴を履いていない。
 リコリスも顔を青くしている。

 ただ事ではないと、ソフィアは慌てて二人のところに駆け寄った。

「どうしたんですか、こんな……!?」
「おとーさんが、おとーさんが!」
「フェイトが?」

 ものすごく嫌な予感がした。
 ソフィアの心臓がどくんと跳ねる。

「あうあう……」

 アイシャは泣いていて、なにを言いたいのかよくわからない。
 ただ、耳をぺたんと垂れて尻尾を内股に挟んでいるところを見ると、よほど怖い目に遭ったのだろう。

 それを見て、ソフィアはだいたいのことを察した。

「もしかして……襲撃された?」
「そうよ。なんか、でかいヤツがいきなりやってきて……」

 リコリスが疲れた様子で言う。
 彼女もまた、大きな恐怖と戦っていたのだろう。

「襲撃者……黎明の同盟の者でしょうか? みなさん、急いで戻りましょう!」
「んー? でも、フェイトはめっちゃ強いから、そんなに慌てなくても平気だと思うよ? 多少の差はあるけど、ボクとほぼほぼ変わらないし」
「なら、尚更まずいわ」

 リコリスが真面目な顔をして言う。
 普段、おちゃらけた態度が多いだけに、その真剣な態度に誰もがごくりと息を飲んでしまう。

「レナのことは強いって思うし、とんでもないと思うけど……でも、まだ人間って思えるもの」
「どういう意味?」
「あいつは……人間じゃなくて化け物よ」
「化け物……?」
「あたし、震えて逃げることしかできなかった……」

 そのことを後悔しているかのように、リコリスは自分の体を抱きしめる。
 そうすることで震えを止めようとしているかのようだった。

「化け物、化け物……って、まさか……」

 レナの顔色が変わる。

「ちょっとまって!? そいつ、二メートル近い大男で、めっちゃでかい大剣を使っていた!?」
「そ、そうだけど……」
「……ゼノアスだ……」

 顔を青くして。
 小さく震えつつ。
 レナは、絶望的な表情を浮かべる。

「やばいやばいやばい……まさか、ゼノアスがこんなところで出てくるなんて……しかも、フェイトを狙うなんて……」
「ゼノアス……ですか?」
「確か、黎明の同盟の幹部ですね? でも、どうしてそんなに慌てているのですか?」

 ソフィアとエリンが不思議そうな顔をした。
 そんな二人に、レナは顔を青くしたまま説明する。

「正直、ゼノアスのことはよく知らないんだよ。なにを考えているかとか、過去になにがあったのか、とか。そういうの、まったく語らない人だったから。ただ……」
「ただ?」
「……剣の腕だけは抜群。というか、ボクでも測ることができないほどの実力者。何度か模擬戦をしたことがあるんだけど、ボクの全敗」
「それは……」
「ムキになって、魔剣を使って本気で挑もうとしたんだけど……でも、できなかった。ものすごい悪寒がして……そんなことをしたら殺される、って本能的に理解したんだと思う。まず間違いなく、ゼノアスは黎明の同盟の最大戦力だよ。いくらフェイトでも……」

 レナの声が震える。 
 それが伝染するかのように、ソフィアも声を震わせる。

「それじゃあ、今頃……」
「急いど戻らないと!」
「でも……」

 ソフィアは迷う。
 本当は、一秒でも早くフェイトのところへ駆けつけたい。

 ただ、アイシャとリコリスとスノウのことがあった。
 ここに残していくわけにはいかない。
 もしかしたらリケンが追いついてくるかもしれない。

 誰か一人残り?
 しかし、レナの話が本当だとしたら、戦力を削るようなことはしたくない。
 それに一人残ったとしても、もしもリケンに追いつかれたらとても厳しいことになる。

 迷い、焦る。
 どうする? どうすればいい?

 そんな時……

「おや? こんなところでどうしたのかな?」

 のんびりとした声。
 振り返ると、クリフがいた。