ソフィアは、圧倒的な身体能力を持つ剣聖で……
 レナとエリンも、彼女に匹敵する力を持つ。

 そんな三人が本気になって逃走すれば、誰も追いつくことはできない。
 見事にリケンを撒くことに成功した。

「うん、ばっちり。完全に撒いたよ」
「ふぅ……さすがに疲れましたね」
「王都を横断するようなコースでした。街の人々を驚かせていないといいのですが……」
「騎士さんは真面目だねー」
「あなたが適当すぎるのです」

 エリンはレナを睨みつけるが、適当にスルーされてしまう。

「ところで」

 ちょうどいい機会だ。
 そんな感じでソフィアはレナに尋ねる。

「あなたが使う剣術ですが、あれはどういうことですか?」
「どういうことって?」
「神王竜に別の流派があるなんて、聞いたことがないのですが」
「あー……ま、そうかもね。普通は知らないよね」

 どうしようかなー、とレナは少し迷った後、口を開く。

「ま、いいか。リケンにああした以上、もう完全に敵対しちゃったからね」
「その言い方……もしかして、黎明の同盟と関係が?」
「そゆこと。神王竜は、元々、神獣に授けられた剣技なの」
「なっ……!?」

 思いもしなかったことを聞かされて、ソフィアはついつい大きな声をあげてしまう。

「遥か昔、神獣は人間のために剣を授けた。まあ、詳細はちょっと違うけど、そんな感じで……それが聖剣。でも、それを扱うだけの技術がないと、宝の持ち腐れだよね?」
「……だから、扱う術も授けた?」
「そそ。それが、神王竜の始まりなんだよね。で、ボクが使う真王竜は『裏』になるの。復讐を果たすことを目的として、殺傷能力を極限まで高めた剣術」
「なるほど……色々と納得です」

 元々は同じ神王竜。
 対立によって二つの流派に別れ、それぞれ成長を続けていくものの……
 元が同じなので、根本的な技は似ている。

 疑問の一つが解けて、ソフィアは少しスッキリした。

「ということは、黎明の同盟は……その、真王竜とやらを使うのでしょうか?」

 話を聞いていたエリンが、そう質問をした。

「そだね。ボクを含めて、全員、真王竜の使い手だよん」
「それはまた……」
「厄介ですね……」

 エリンとソフィアがしかめっ面に。

 神王竜は国内最強の流派と言われている。
 それに匹敵、あるいは凌駕する剣術を敵が使うとなると、厳しい戦いになるだろう。

 対するレナは、あくまでも気楽な様子だ。

「ま、そこまで深刻にならなくていいんじゃない? 厄介なのはゼノアスだけで、リケンはボクよりちょっと下かな? だから、ボクとフェイトと剣聖……それと、特務騎士団いっぱいでかかれば、なんとかなると思うよ」
「だといいんですけど……」
「というか……フェイトがいれば、大抵のことはなんとかなるかも」
「どういう意味ですか?」

 フェイトは強い。
 地力がとんでもないだけではなくて、剣の才能もあって、驚異的な速度で成長している。

 しかし、まだソフィアやレナには及ばない。
 身体能力はほぼ互角ではあるが、技術は一朝一夕というわけにはいかず、まだまだ。

 そんなフェイトが鍵をにぎるとは、どういうことなのか?

「んー……ボクも確信があるわけじゃないんだけどね。フェイトが持っている剣って、なんか特別な気がするんだ」
「流星の剣が?」
「前に戦った時、なんかこう……魔剣の力が削がれるというか、そんな感じがしたの。もしかしたら、魔剣の天敵なのかも」
「そんなことが……」
「だから、フェイトがいれば、最終的になんとかなると思うんだよねー。逆に、フェイトになにかあったらやばいけど、あっはっは」
「縁起でもないことを言わないでください」

 ソフィアが睨みつけるものの、レナは飄々とした顔だ。
 フェイトになにかあるなんて欠片も思っていないのだろう。

 実際、フェイトは数々の修羅場を潜り抜けてきた。
 たくさんの強敵と戦ってきた。
 それらの全てを乗り越えて、そして、大きく成長している。

 ただ……

「ソフィアっ!!!」
「おかーさん!!!」
「オンッ!」

 運悪く、という事態はいつでもありえるのだ。