「……っ……」

 ゆっくりと共同墓地を目指すソフィアとエリン。
 途中、ソフィアがびくりと体を震わせた。

 エリンが不思議そうに小首を傾げる。

「どうしたのですか?」
「いえ、なんていうか……」

 ソフィアは後ろを振り返る。
 その視線の先に街がある。

 アイシャとスノウとリコリス。
 そして、フェイトが待ってくれているはずだ。

 待ってくれているはずなのだけど……
 なぜか、もう二度と会えないという恐怖を感じた。

「……なんでもありません」

 気のせいだろう。
 敵地に近づいているから緊張して、そんなことを考えてしまうのだろう。

 ソフィアはそう結論づけて、先へ進んだ。

「もうすぐアジトにつくよ」

 先頭を行くレナは呑気に言う。
 いつ敵と遭遇してもおかしくないのだけど、彼女はそれをまるで気にしていないみたいだ。

 敵と遭遇しても、斬り捨てればいいと考えているのか。
 脅威になる相手なんていないと考えているのか。
 たぶん、その両方だろう。

「……」
「エリンさん?」

 ふと、ソフィアはエリンの顔色が悪いことに気づいた。

 綺麗に整った顔はやや青い。
 わずかではあるものの、こんな寒い夜に汗もかいていた。

「どうかしたんですか? もしかして体調でも……?」
「あ、いえ……」

 エリンは苦い表情に。

 迷うような間。
 ややあって、そっと口を開いた。

「実は……恥ずかしい話なのですが、暗闇が苦手でして」
「そう……なんですか?」

 意外な話に、ソフィアは目を大きくして驚いてしまう。

 エリンは特務騎士団の一員だ。
 エリートの中のエリート。
 そんな彼女が暗闇が苦手という。

 先頭をいくレナも不思議に思ったみたいで、小首を傾げつつ問いかける。

「おばけが怖いとか? それならちょっとわかるよー。ボクも、ホラー小説とか読んだ後、一人でトイレ行けないもん」
「いえ、おばけは怖くありません。そもそも、おばけなんていません」
「ゴーストっていう魔物はいるよね」
「でも、おばけではありません。おばけなどいません」

 頑なに否定するのはリアリストだからなのか。
 それとも怖いからなのか。
 妙に判断に迷うところだった。

「ただ……単純に、暗闇が苦手なのです」
「それは、どうしてですか?」
「……昔、テロに巻き込まれたことがあるのです」

 当時を思い返しているらしく、エリンの表情は暗い。
 暗いだけではなくて、わずかに恐怖の色も滲んでいた。

「昔は王都ではなくて、地方の田舎で暮らしていたのですが……そこでテロが起きました。領主に不満を持つ人々が暴れ回り、街に大きな被害が出たのです」
「そういうのって、すごく迷惑だよねー」
「あなたが言えたことではないでしょう……それで、どうなったんですか?」
「私は家にいたのですが、誰かの魔法が直撃して、家が崩れました」

 エリンは自分を抱きしめる。
 その手は震えていた。

「家が崩壊して、瓦礫に押しつぶされそうになって……でも、うまい具合に瓦礫が重なり、なんとか骨折程度で済みました。ただ……」
「……閉じ込められた?」
「はい。自力で脱出することはできず、そして、街が戦争のような状態にあったため助けが来ることもなくて……三日ほど閉じ込められていました」
「そう……」

 つまらない同情はしてほしくないかもしれない。
 それでも、ソフィアはエリンに対する同情をしてしまう。
 それほどまでに辛い話だ。

「それ以来、暗いところがどうにも……情けない話です」
「そんなことは……!」
「そうそう、恥ずかしく思うことなんてないって」

 意外というべきか。
 レナがフォローに回る。

「人間、誰だって苦手なものがあるからねー。特務騎士だろうとなんだろうと、そういうのがあるのは仕方ないんじゃないかな? かくいうボクも、人の温もりとか苦手だからねー」
「レナ……?」