「……」

 体勢を立て直して、再び剣を構える。
 ゼノアスも大剣を構えて、僕との距離を測る。

 最大限に彼の挙動に注意を払いつつ、急いで頭の中で作戦を組み立てていく。

 大剣を軽々と振り回す膂力。
 大柄な体に似合わない超速。
 臨機応変に対応できる判断力。
 全ての能力が突出していて、弱点らしい弱点が見当たらない。
 完璧な剣士だ。
 レナが脅威に感じていた理由が嫌というほど理解できた。

 どうする?

 ……ゼノアスは筋肉で武装しているかのようだ。
 その力で大剣を自由自在に操っているのだろう。

 でも、己の背丈ほどもある大剣を、さすがに片手一本で操ることはできないだろう。
 そこで戦闘不能になることはないだろうけど、戦闘力は半減するはず。
 つまり、どうにかして片腕を使えなくすれば勝機は見えてくるはず。

 狙うはゼノアスの腕。
 ある程度の傷をつけること。

 僕の方が速さは上だから、そこを活かすことができれば不可能じゃないはず。

「……」
「……」

 再びにらみ合う。

 空気が震えているかのようだ。
 ビリビリとした圧迫感さえ覚えている。

 集中。
 さらに集中して、深く深く意識を研ぎ澄ませていく。

 そして……

「ふっ!!!」

 吐息を吐き出すと同時に、一気に前に出た。
 弓を引くかのように、剣は後ろへ。
 左手を前にしつつ突撃。

 参之太刀、紅だ。

 完全にマスターしたわけじゃないけど……
 でも、今はこれしかない。

「ぬぅんっ!」

 対するゼノアスは迎撃を選んだ。
 その場で回転しつつ、大剣を斜め下から斜め上に薙ぐ。

 僕の剣を弾き飛ばして……
 同時に、体を両断するつもりなのだろう。

 僕は前屈姿勢になったまま駆けて、ゼノアスの一撃を避けた。
 そのまま横を通り抜けて、後ろに回り込み……
 同時に剣を振る。

 肉を断つ感触。
 骨までは無理だったものの、それなりの一撃を与えることができた。

 ゼノアスほどの強者なら痛みも我慢できるだろうけど……
 でも、完全に無視することはできないはず。
 大剣を完璧に操ることは難しくなっただろう。

 これで勝機が少しは……

「見事だ」

 己の右腕から流れる血を見て、ゼノアスは静かに言う。
 表情はまったく変わっていないのだけど、心なしか、喜んでいるような雰囲気だ。

「この俺が血を流すとは、いつ以来か……認めよう。お前は強敵だ」
「ありがとう」
「礼を言うか?」
「あなたほどの人にそう言われるのは、敵だとしても嬉しいので」
「ふっ……俺とお前は似ているのかもしれないな」

 ゼノアスは笑い……
 そして、今まで以上の闘気を発する。

 それは、予想を遥かに超えたプレッシャー。
 この場にいるだけで失神してしまいそうだ。

「こ、これは……」
「詫びよう。俺は、お前を侮っていた。今のままで勝てると、そう間違った判断をしていた」
「なん……だって?」
「故に……本気で戦おう」

 ゼノアスの大剣が不気味な光を発する。

 そう、そうだ……!
 彼はただの剣士じゃない。
 魔剣使いなんだ!!!

 その力を、今の今まで使っていなかった。
 単純に、自力で戦っていた。
 そこに魔剣の力が加わるとなると……

「さあ、いくぞ……吠えろ、グラム」
「っ!?」

 圧倒的なプレッシャーが僕を飲み込んだ。