その男は見上げるほどに背が高い。
 身長は2メートルを超えているかもしれない。

 筋肉もついていて、極限まで鍛え上げられている。
 それでいて引き締まった体は、歴戦の戦士であることが伺えた。

 背中に帯びた大剣。
 彼と同じように巨大で、僕の剣が子供のおもちゃのように見えるほどだ。

 なによりも特徴的なのは、彼の青い髪だ。
 空のように青く、水のように澄んでいる。
 思わず見惚れてしまいそうになるほど綺麗な髪だ。

「あなたは……」

 アイシャ達を背中にかばいつつ、剣を抜いた。

「お前がフェイト・スティアートか」

 男の声は氷のように冷たい。
 ただ、敵意も殺意もない。

 僕達のことをなんとも思っていない……
 欠片も興味がないようだ。

「そして、そちらが巫女と神獣……ふむ、妖精もいるのか」
「あなたは……黎明の同盟の関係者ですか?」

 巫女と神獣。
 アイシャとスノウのことをそう呼ぶ者はとても限られている。

 僕はさらに警戒度を引き上げた。
 いつでも動けるように足に力を入れつつ、闘気を高める。

 ただ、それでも男は反応しない。
 日常の中にいるという感じで、背中の剣を抜くこともなく、プレッシャーを放つこともしない。

 その静けさが逆に不気味だった。

「ああ、その通りだ」
「あっさりと認めるんですね」
「下手にごまかしても仕方ないだろう? それに、その方が話が早い」

 男は丁寧にお辞儀をする。

「俺の名前は、ゼノアス。姓は捨てた」
「っ……!?」

 黎明の同盟の幹部の……?

 本物なのか?
 ……本物なんだろうな。
 そうでなければ、この圧はないだろう。
 なにもしていないのに息苦しさを感じるほどだ。
 猛獣を目の前にしているかのように、一瞬たりとも気を抜くことができない。

「巫女と神獣をもらいうけにきた」

 やっぱり、そういう話になるよね。
 できれば違う展開を希望したのだけど、そんな甘くはないみたいだ。

「……リコリス」

 小声で呼んだ。

「……二人を連れて逃げて」
「……えっ、ちょ……フェイトはどうするのよ?」
「……なんとか時間稼ぎをする」
「……それならあたしも」
「……ダメ。今は、なによりもアイシャとスノウの安全が一番で……それに、自分のことだけを考えて戦わないと、たぶん、すぐにやられる」

 ゼノアスが戦うところを見たわけじゃない。
 まだ彼は剣すら抜いていない。

 それでも、とんでもない強敵ということは理解できた。
 本能が危機を感じて、頭の中で警笛が鳴りっぱなしだ。

 背中も震える。
 正直、逃げてしまいたいくらいなのだけど……でも。

「アイシャとスノウは僕が守る」

 改めて剣を構えて、ゼノアスを睨みつけた。

「良い気迫だ」

 表情は変わらないものの、そう言うゼノアスは少し優しい雰囲気を見せた。

 しかし、それも一瞬。
 背中の大剣に手を伸ばすと、ビリビリと空気が震えた。

「お前を敵と認めよう」
「……」
「いざ参る」