部屋のテーブルに王都の地図を広げた。
 僕とソフィア。
 レナとエリンがそれを覗き込む。

 ちなみに、アイシャとスノウは一階の食堂でスイーツを食べている。
 監督役がリコリスなのが少し不安だけど……
 ちゃんとしたらドーナツをあげる約束をしておいたから、たぶん、大丈夫だと思う。

「それじゃあ、レナが知っている限りのことを教えてくれないかな?」
「ん、オッケー」

 レナは気軽な様子で頷いて、ペンを持ち、地図にチェックを入れていく。

「こことこことここ。それと、こことここと……えっと……あ、そうそう。この倉庫もアジトになっているかな」

 黎明の同盟のアジト、セーフハウスなどを地図に描き出してもらっているのだけど……
 どんどんチェックが増えていく。
 その数は想像以上で、ほどなくして地図がチェックで埋まってしまう。

「んー……ボクが知っているのはこんなところかな?」
「これは、なんていうか……」
「すさまじい数ですね……」

 三十近い。
 まさか、これほどの数があるなんて……

「あ、これで全部じゃないと思うよ」
「え」
「ボクも全部を知っているわけじゃないからね。あと、あれから顔を出していないから、さらに増えていてもおかしくないと思う」
「つまり、これが最低限……っていうことなんだね」
「あなたの予想で構いません。最高で、どれだけのアジト、セーフハウスが用意されていると思いますか?」
「うーん……最高で考えると、五十はあるかも? さすがに、それ以上はないと思うけど」

 とんでもない数だ。
 それだけの戦力を王都に潜ませているなんて……
 思っていた以上に、黎明の同盟の力は大きいのかもしれない。

「これ、どうしましょう……?」
「そうですね……」

 エリンに問いかけると、彼女はしばらく黙考した。
 ややあって口を開く。

「これだけの数となると、正直、お手上げですね……特務騎士団だけでは対応できません」
「そんな……」
「やるのならば、国の全ての戦力を投入しなければ……しかし、それだけの決断ができるかどうか」

 エリンは難しい顔で悩んでいた。

 国の全戦力を投入するなんて、非現実的な話だ。
 そんなことをして失敗したら、そこで終わり。
 国は守る力を失い、そのまま滅んでしまうだろう。

 それに、うまくいったとしても問題が残る。
 それだけ大きな動きをしたら、他国を刺激してしまう可能性がある。

 他にも色々な問題、課題が残されていて……
 どのようにこの状況を打破すればいいか、わからない。

「これほどの戦力を有しているとは、正直、予想外でしたね……ただのテロリストと侮っていました」
「きっと……それだけ、強い想いを抱いているのでしょうね」

 ソフィアは、どこか悲しそうに言う。

「復讐のために全てを捧げて、そのために生きてきて……自分達の代だけじゃなくて、先代、その前、さらにその前……ずっとずっと前から準備を重ねてきた。だから、これだけのことができるんでしょうね」

 全てを復讐に捧げる。
 自分だけではなくて、先祖も孫も怨念に巻き込む。

 それは、とても悲しいことだ。
 できるのなら、ここで止めたい。
 僕達のためだけじゃなくて、彼らのためにも。

「うーん」

 考える。
 この状況を打破する方法を考える。

 そして、ふと閃いた。

「よくよく考えてみれば、全部を相手にする必要はないよね」
「どういうことですか、フェイト?」
「敵の戦力に驚いて、そのせいで目が曇っていたのかも。わざわざ全部を相手にする必要はないよ。これだけの戦力を持っていたとしても、頭がなければちゃんと動くことはできな。だから……」
「幹部やトップを叩くことに集中する……ということですか?」
「うん。最低でも幹部以上を叩いて、組織としての活動を不可能にさせる。そうすれば、後は自然と瓦解……とまで、うまくはいかないか。でも、対処はものすごく簡単になると思う」

 蜂と同じだ。
 働き蜂を相手にしてもキリがない。
 女王蜂を叩いて、問題を根本から切り崩した方が早く、そして的確だ。

「レナ、幹部やトップの情報は持っている?」
「幹部は三人で、でもボクが抜けたから残りは二人。ある程度、居場所は絞れるかな? トップは長老って呼ばれてて、あまり会ったことがないんだよね。ただ、本部にいると思う」

 よし、それならなんとかなりそうだ。
 絶望的な戦いと思われていたけど、でも、少し希望が見えてきた。
 その希望を消さないために、がんばっていこう。